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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
129/160

128話 脱出せよ!

 じっと見つめあうこと数秒。

 先に目を逸らしたのはレイゼンの方だった。


 さて、ここで問題です。

 確かルアールの王レイゼンは、目が赤いはずだったけれど、このおじさんは茶色に見える。

 ということはやはり別人なのだろうか。


「おじしゃんはルアールの元王様でしゅか?」


 とりあえずストレートに聞いてみた。

 その瞬間、向かいに座るシャンティの表情がこわばり、緊張が走ったのがわかる。


「そう見えるか?」


 聞き返された。

 質問に質問で返すのは、ルール違反よね。


 さて、実を言うと、レイゼン王の容姿は、事前に詳しくセアンから聞いている。


 しかぁし! 私はレイゼンの目が赤いということしか覚えてないのだっ。

 あの時の私は何に夢中だったのだ…。


 とりあえず、覚えていないし、答えてももらえないならば、別の質問で確認を取らねば。


「じゃあ質問を変えましゅ。リアナシアおばあしゃまに手を出しましたか?」


 すぅっと店内の温度が2・3度低下した。

 冷気を発しているのは、レイゼン…ではなく、膝の上に座る愛らしいニワトリであるこの私だ。

 

 こう見えて、おばあ様の件に関しては怒っておりますよ。


「ただの子供ではなさそうだな。お前も塔の関係者か?」


 スッと掌に納まるほどのナイフが私の首筋に当てられた。

 向かいに座り、その様子を見ることのできるシャンティが、蒼褪めつつも身構える。

  

 彼女は周りの気配を探り、他に敵がいないかを確認する。

 目が素早く動いた後、すぐに私に視線が戻ってきた様子を見ると、他に敵らしきものはいないようだ。

 さすがは我が親友。いざという時の対処法が頭に叩き込まれていると見える。


 もちろんレイゼンもその様子に気が付いており、わずかに口の端を持ち上げて笑った。


「学生に気をつけろとあいつも言っていたが、昨今の学生は戦闘訓練でも積んでいるのか? 魔族とも戦って無事だったと聞いたが」


 その情報の出所はエロ顔の魔族だろうか。もしそうだとしたら、間違いなくこの男はルアール王レイゼンということになる。

 いや…同じ名前の仲間、というのもありかも?


 はっ…余計なことを考えて自ら混乱するところだった。


 とにかく、この男が敵側であることは間違いないのだろうが、こんな町のど真ん中で魔法を放ってやりあったなら、周りに大きな被害が出る。

 そうなると、きっとノルディークにお尻ぺんぺんの罰を喰らうので遠慮したい。


 それに、会話の流れから行って、この男が何かぽろっとでも漏らす様子はないし、質問に答えるつもりもないようだから、どうしようか。

 

「う~む」


 腕、というか翼を組んで唸りつつ首を傾げると、すっかり忘れていたナイフがぶっすりと首に刺さった。


「アイタ!」


「あんたは馬鹿なの!?」


 すかさず怒らなくてもよいではないですかシャンティさん。ちょっと忘れていただけなのよ。

 

 しかし、このハプニングでわかったことが一つ。


 レイゼンは子供が怪我しても全く表情は変わらないし、ナイフを引く様子もない。

 ということで、再び身じろげばさっくり切れます。もう切れてるけど。


「その子を離しなさい。さもないと撃つわよ」


 カッコイイセリフですが、撃つのは銃ではなく、シャンティの光の魔法だ。

 それに、よく考えてくださいよシャンティさん。その攻撃魔法の範囲内に私が入っちゃってませんか?


「お、おちちゅいて、シャンティしゃん。話せばわかりましゅよ」


「なんであたしが犯人みたいな扱いなのよっ」


「いや、だって、ほら、私の命が危ないでしゅっ」


 いろんな意味で。


「だから助けてあげるんでしょうが」


 アホな子を見る目で見てますがね、絶対その魔法、私に当たります。

 したらば、ローストチキンの出来上がりなのですよ!?


 ここは何とか犯人の説得をするのが当然の判断でしょう!


「おじしゃんも早くこれをひっこめるでしゅっ、でないと私が巻き込まれるんでしゅよっ」


 何も知らない人間が見たら、誰が犯人で誰が人質かわからなくなるような混沌とした現場になりつつある。

 だが、周りは緊迫した私達のやり取りには全く気が付いていない。

 それもすごいけど…。


 べちべちと翼を動かし、レイゼンの腕を叩いた。

 首はこれ以上切られないようにできるだけ…と言っても1センチぐらいだけだが、離してある。

 

「では話せ」


 何を? 

 

 会話のキャッチボールというものを知ってるのでしょうかね? 質問の意味が全然分かりません。


 なんだか、傍にいるレイゼンの雰囲気が変わったように思え、首を動かせぬ分、目を大きく動かしてレイゼンを見れば、レイゼンの口元に笑みが浮かんでいる。


「死した魂を生かす方法を」

 

 囁くように告げられた言葉の後、これまで感じていたその辺のおじさんのような雰囲気が消えた。

 そして、突然全身の毛が逆立ち、鳥肌が立った。


 本能がまずいと告げ、私はレイゼンの腕を渾身の力で押しのける。


「シャナ!」


 レイゼンのナイフを持つ手は右手は押しやったが、今度は私の背に向かって、左手に握る短剣が振り下ろされる!


 だが、次の瞬間。


『我が主に触れるな!』


 私とレイゼンの間に黒い塊が飛び込み、私はその隙をつき、レイゼンの腿を蹴って飛び離れた。

 着地は10.0です!

 

 そして、さすがにシャンティの叫び声で、何事かと周りの者達が気が付いて…


 無い。


 周りの者達は、こちらに視線を向ける事すらしていなかった。





「シャナ、これ、亜空間の魔法だわ」


 シャンティが確認するように周りの様子を窺い、もう一度レイゼンに視線を向けて告げる。

 

 私達は立ち上がり睨みあっているのだが、騒ぎに気が付かず、周りの客達は普通に談笑し、ご飯を食べているのだ。

 亜空間云々に気が付かなかったとしても、明らかにおかしいというのには気が付くだろう。

 

「いちゅの間に!?」

 

 どうやら私達だけが別の空間に切り離されたようである。


 レイゼンの得意魔法は魔力干渉じゃなかったの?


 チートですが、思わぬ事態と魔法に、ちょっと焦っております。




『魂の冒涜者よ、疾く去ね』





 ぐるるるるるるっと唸り声が響き、私ははっとして我に返った。

 目の前には、先程のピンチを救ってくれた黒い塊…。


「ケルベロス!」


 よく見れば砂まみれで、黒い塊というより、真っ白な塊のケルベロスがおりました。

 しかも! しかもですよ! すらすらと喋ったのはケルちゃんでも、スーちゃんでも無く、普段無口なベロちゃんだった!


「冥界の門番までいるのか…。貴様は一体何者だ?」


 レイゼンの声のトーンが変わった。

 それに、先程まで茶色かった瞳が、真紅に染まり、私を射抜くような視線で睨み据える。


「シャンティしゃん」


「何?」


 私達はレイゼンを睨み返し、目を逸らさないように、緊張しながら言葉を交わす。


「あのおじしゃん、悪のスイッチ入りましたよ」


「真面目にやんなさいよ」


「大真面目でしゅよ!」


 とはいえ、歩くたびに「コケッ コケッ」と音が出るので、大真面目には程遠いのだけれど。


『聞こえなかったのか。魂の冒涜者よ。我等が主に触れるな』


 再度忠告が響く。


 ケルベロスが姿勢を低くし、体の大きさも子犬から人間一人を乗せられそうなサイズに変化させた。

 ケルベロスの本気モードだ。 


「こちらの質問も聞こえなかったのか? その娘は何者かと聞いている!」


 ケルベロスとレイゼンの魔力がぶつかった!



「今のうちにこの空間を出ましゅ!」


 ケルベロスにレイゼンを任せ、私は急いで空間の綻びを探した。

 亜空間などという魔法のことはよくわからないが、周りには食堂の様子が映っているのだ。繋がっているとみて間違いない。

 

 きっとどこかに出口が…。


 焦りながら辺りを見回すと、亜空間の外側の景色の中に、ノルディークとハーン、それにヘイムダールが現れた。


 そして、何やら3人で話すと、突然ヘイムダールが二人に襲われ、上着を脱がされ、上半身裸に!

 

 現れた肉体美に、私は大興奮だ!



「お触りしましゅ~!」



 この瞬間、私の魔力が一時的に亜空間内部に膨れ上がり、受け止めきれなくなった亜空間にヒビが生じる。

 そして、私が強く踏み込んでその壁に突っ込み、亜空間の壁を大きく破壊して、そのままヘイムダールの胸にビタッと張り付いた。


『こけこっこ…』


 食堂に色気たんまり姉様ボイスが発動し、何人かの男達が噴き出す音がした。




 何はともあれ、亜空間を脱出したようです。


「むふっ」








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