表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
128/160

127話 誰?

「レイゼンおじちゃんは大工なんだよ」


 ガテン系でしたか。

 少年に紹介され、私達は挨拶を交わした。

 見た目はとっても怖いが、その実気さくな良いおじさんだ。


 そんな彼と私達は、いつの間にか同席することになり、テーブルには所狭しと料理が並んだ。

 そんなに食べられるのか、と思う品数だ。だが、その料理のほとんどは、目の前の顔面凶器な男の食べる分である。


「大工って儲かるのね」


 シャンティが料理の数々を見つめて感心する。

 並べられた料理はどれも大盛りなのだ。いくら庶民的な食堂と言えども、大盛りの料理が4人がけのテーブルに所狭しと並べば、それなりに儲かっているのだな…と普通は思う。


 日本の大工さんと言えば、若夫婦が新しい家を欲しがったり、実家を改装したりとそれなりに需要が高かったけれど(シャナの想像です)、この世界ではそうでもない。

 石造りのような家に、何代もの家族が住む。地震がないので壊れることもないし、修理なんて大抵家の主がこなしてしまう。となると、大工の需要はそれほどないはずだ。


 だが、これだけの料理がほいほいとたのめるとなると・・。

 ひょっとして大工の中でも技術の高い大工だろうか。それこそ、細かい彫り物を施された柱を作ったり、彼にしかできない特別な何かがあったりとか?


「大工なんざ儲かりはしないさ。その前の仕事の貯金が少し残っていてな」

 

 どうやら脱サラしたらしい。


「へぇ、前は何だったの?」


「王様」


 肉に豪快に齧り付く男の様子は、とても王様には見えず、周りからも笑いが起きる。

 まぁ、こういった冗談はよくあることなので私達も笑っておく。


「そう言うお前は学生か? 最近騒がしいとかって噂の、えぇと、クリセニア学園?」


 シャンティを見てレイゼンは尋ねる。

 

 ・・・私が学生に見えるわけないものね。

 ここは落ち込まずに頑張ろう。うん。


「そうよ。そんなに騒がしかった?」


「聞いた話だとな。俺はちょっと別の所にいたからあまりしらねぇんだ。魔王に追いかけまわされたって知り合いが言ってたが、本当か?」


 魔王に追いかけまわされた町の人なんていただろうか?

 私が首を傾げていると、シャンティはふぅと小さく息を吐いた。


「それたぶん、魔王じゃなくてこの子だと思うけど」


 シャンティが呆れたように私を指さす。

 人に指を指してはいかんのよ、シャンティさん。


 ぺちーんっとシャンティの指を翼ではじいたところで、私ははっと気が付いた。


「この手ではご飯が食べられましぇんっっ」


「・・・・お茶会してたじゃない」


 シャンティはそのお茶会の最中に迎えに来た為、私の座る席の前にあったお茶やおやつも見ている。そのため、あれは私自身が食べていたと思ったのだろう。

 しかし、残念ながら真実は違うのだ。


「あれは食べさせてもらっておりましゅたっ!」


 胸を張ってムフーッと鼻息荒く主張すると、シャンティの表情が呆れたようなものに変わった。

 そして、目を逸らし、何も聞いてなかったように振る舞われました!

 

 何やら悔しい…。


 椅子の背をべしべしと叩いてこの悔しさを訴えていると、レイゼンは面白そうに私を見やり、ほんの少しだけ懐かしそうな表情をした。


「昔はよく娘に食わせてやってたな…。いいぞ、食わせてやろうか」


 他人にそんな事をしてもらうわけにはまいりません。

 なんて私が言うはずもなく、ちゃっかりレイゼンの膝の上に座って最初のご飯を口に運んでもらう。

 ニワトリの餌付だ。


「で、何でこの娘に追われると魔王に追いかけまわされたことになるんだ?」


 あ、その話題を忘れ去ったわけではなかったのね。

 

 おいしい料理をぱくつきながら、シャンティを見て首を傾げる。

 て、首を傾げている間にも次のご飯が口元にっ。ペース速っ。


「その子の着てる服がちょっと特殊で、勝てそうな人がいなかったのよ。しかも、その時魔力干渉されていてね、それのおかげでちょっと危ない集団が出来上がっていて…」


 シャンティさん、結構突っ込んだところまで話しているけれど、それは一般人に話してわかる内容なのだろうか?


 もぐもぐと必死に口を動かし、飲み込んだ、と思うと、目の前にもも肉の照り焼きが差し出される。

 もちろんそれにもかぶりつくが、子供の口は小さい。口の周りはタレまみれになる。

 

 そして、話を聞くのに夢中なはずのレイゼンは、無意識なのか、配膳の手を止めず、次から次へと休みなく口元におかずを持ってくる。

 気分はわんこそばだ!


 もう、二人の話を聞く所ではなく、必死にご飯に食らいついた。 

 次の獲物は蒸した芋である。

 

 まだちょっと熱いので、はふはふ言いながら食べていると、ふいにその配膳がストップした。

 

「それほどに強い魔力干渉なのか?」


 どうやら話は魔力干渉についてだったらしい。

 私は一息つく。


「そうなんだけど…シャナ、顔がすごいことになってるわ」


 シャンティが布で私の顔をガシガシと拭う。

 肌荒れ起こしそうな強さですよシャンティさん。


「少し、試してみてもいいか?」


 シャンティにガシガシ口元を拭かれ、完全に無防備だった私は、なにを? と問う間もなく、突然レイゼンに手を翳された。


 その瞬間、流れてくるのは魔力・・・ではなく、何かの意思だ!


 誰かが私の中に入り込み、私の体を乗っ取ろうとしている!

 

 私はギュッと目を閉じると、私の中の魂、特に、もう一つの魂ともいえる佐奈の魂を起動させ、さらにその狼である魔王ファルグの魔力を無意識のうちに呼び起こした。


 侵入者あり、排除せよ~っ!


 おそらく、私の中ではそんな掛け声とともに、侵入しようとするウイルスとの戦いが始まったのだろう。

 周りの音が聞こえなくなり、体も動かなくなった。


 そして、私の目に映ったのは、巨大な…



「赤い塔でしゅ」



 パチッと目を瞬かせると、私に手を翳していたレイゼンは大きく目を見開いて固まった。


「「何故…?」」


 共に同じセリフを吐き、じっと見つめ合う。


 レイゼンに何が見えたのかはわからないけれど、私に見えたのは赤の塔だった。

 そして、緑の髪をした愛らしい少女。

 若かったけれど、ディアスの腕を奪ったあの美女に見えた。

 塔とワンセットになっていた、といことは、ソフィアで間違いないだろう。


 もし、もしもだけれど、目の前にいるのがかの有名な敵、ルアール王のレイゼンだとしても、その記憶は少々おかしい。

 なぜなら、レイゼンは人間だから、若かりし頃のソフィアを知らないはずだ。


 だから、私は心のままに尋ねましたとも。



「おじしゃん、本当は誰でしゅか?」


 と…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ