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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
127/160

126話 出会い

 父様はリアナシアおばあ様がお亡くなりになったことを聞いて、ひどくショックを受けていたけれど、すぐに復活した。

 それは、良くも悪くもセアンがいたから。


「我が主になるというのなら、それなりに鍛えさせてもらおうか」


 こんな男は主とは認めん、という思いが父様に火をつけたらしい。

 その日から地獄の特訓が始まった。


 もちろんセアンの騎士の身分は剥奪しました。

 塔の主が国に関わってはいかんということで。

 

 それから色々と試してみて、セアンが魔法に関しても意外とセンスがあるのはわかったのだけれど、やはり使い慣れてない、もしくは魔力量が足りないということで、塔の皆で鍛えることになった。


 そして、迎える久しぶりの穏やかな日…。


 敵の動きなど、気になることはあるけれど、ルアール王の目論見なんて本人を捕まえねばわからないことなので、焦っても仕方ないというのがこちらの見解だ。

 そのための準備はするけれど、休息も大事である。


 



「シャーナ~」


 カルストの給仕により、中庭でのんびりお茶会を開いていた女性陣は、声を上げて手を振るシャンティを見て、にっこり微笑んだ。


「どうしましゅたかシャンティしゃん」


 椅子の上からばさりと飛び降りたのは、白い胴体、黒い尾、赤いトサカに、丸いお腹、そして美しい翼!

 飛べないけれど…。


 そう!


 本日はニワトリシャナです!


 しかも、カツラチャボという種類の優美なニワトリさん。

 着ぐるみなので、優美よりも愛らしいかな。


 とりあえず翼を振り振り、お尻を揺らして歓迎の舞を披露しておく。

 着ぐるみの大変さは、こうして表現しないと何を考えているかわからないところね。

 顔は出てるから、実はそんなことしなくてもわかるのかもしれないけれど。


「くっ…カワイイですよお嬢様」


 カルストは給仕中ゆえ、抱き着くのを堪えているようだ。ティーポットを持つ手が震えている。

 

「…だんだん人間離れしていくわね」


「それは言わない約束でしゅ」


 ぽそりと告げられた言葉にぽそりと返すと、気を取り直してシャンティは顔を上げ、母様達に向かって貴族式の挨拶をする。


「おはようございます、リンスター家の皆様方」


「おはようございます、シャンティさん。今日はシャナとお出かけ?」


 本日は昨日の戦いの後なので、学園はお休みだ。

 なので勿論お出かけもできるのだが、そんな約束はしていない。


「そのとおりです!」


「はい?」


 そんな話はしておりませんよ?

 首を傾げると、むんずと手(翼)を掴まれた。

 

「お借りします!」


「「「いってらっしゃい」」」


 ちょ…何事~!?


_____________________



 町に飛び出しました。

 それも、塔の皆に出かけることを告げる間もなく。

 大人姿の時はともかく、子供の時は必ず護衛と称して誰か付き添いがあったのだが…、いいのかな?


 こっこっこっこけっ


 歩く度に、足裏に内蔵された魔具がニワトリの声を放つ。

 可愛いが、注目の的である。

 

 この魔具も、闇商人から購入した魔具の一つだが、例のかつらがオプションとなった本命の魔具ではない。

 


「相変わらず目立つわね。普通の服はなかったの?」


「幼児モードでは着させてもらえましぇん」


「大変ね」


 ものすごい他人事で返されました!

 しかし、油断してると我が悪友達も餌食になるのよ? 母様達は次の戦闘服を考案中なのよ?

 まぁ、何が出てくるかわからないので言わないでおく。


「ところで、どこへ行くのでしゅ?」


 いま歩いているのは町の商店街的な場所。

 乗合馬車に乗って辿り着いたものの、買い物をするわけではなく、かといって店を冷かして歩くわけでもなく、ただまっすぐに歩き続けている。


 この道の先には小さな広場があったはずだ。


「私が前からボランティアで勉強を教えてる町のちびっこがね、本格的に護身術を習いたいって言いだしたのよ」


「ふんふん」


 確か、貴族の子供が参加するボランティアにそんなのがありましたね。


「でも体格差がありすぎて教えられないでしょう? で、シャナなら体格差同じぐらいだし」


「ちゅまり…」


 少々引け腰で尋ねると、シャンティはにっこりと微笑んだ。


「実践してあげて」


「この姿ででしゅか!?」


「できるわ」


 断言された!

 まぁ、こういう格好も慣れたものだし、母様達もある程度動きやすいように設計してくれている。

 残念ながら手は使えないのだが、それだって子供相手だと思えばちょうどいいハンデぐらいになるだろう。



 と…いうことで。



「VSちび~ず対ニワトリシャナなのでしゅ! 兄様仕込みの護身術。覚えたい子供はかかってくるでしゅ」


 さっそく広場にて、子供達6人に囲まれ、私はカムカムと翼を動かして子供達を挑発した。 

 リンスター家の護身術。それは、実践を繰り返して身に付けよというスパルタ教育で叩きこまれる。

 かくいう私も、何度も転がり、覚えた技なのだっ!


 さっそく、わっと子供達が襲いかかってくるのを、ひらりひらりと避ける。

 力技など私の敵ではない。


「よろしいでしゅか~っ。敵に飛び掛かるときはこう…獲物を狙うハンターの気分でかかるのでしゅっ。この美形は私のモノでしゅっ! と飛び掛かるのでしゅよ」


「びけい??」


「そんな獣いた?」


 くっ…さすがは町のお子ちゃま。美形が何かわからぬとは…。

 しかも美形が獣扱いされたよ。


 ん? ある意味間違いじゃないかも?

 それはまぁ、置いといて。


「じゃあ今夜のおかずでもいいでしゅ」


 途端に子供達の目がギラリと光る。


「ちき~ん!」


 いや…、それも、間違いでは…、無いんだけども。

 

「ぬほぉぉぉぉぉっ」


 餓えた子供達に狙われる獲物の気分を味わいました。

 




 結局、その後子供達の体力に付き合って30分は格闘しただろうか。

 気力体力使い果たし、ばたりと倒れた。


 もちろん子供達には勝利しましたとも! 

 大人げない? 今は子供の姿だから問題ないのです!


「お…お腹すきましゅた~」


 くるるるる~っと鳴るお腹がお昼ご飯を求めており、見物しかしていなかったシャンティが頷く。


「じゃあ、美味しい所があるから食べに行きましょうか」


「おごりでしゅかっ」


「はいはい、おごりおごり」


 とても貴族の令嬢の会話ではないが、私とシャンティの仲なので慣れたものだ。

 

「2名様ごあんな~い」


 子供の一人が声を上げ、私達を町の小さな食堂へと案内した。

 どうやら本日遊んだ少年のお家らしい。


「ただいま~っ。あ、レイゼンさん!」


 少年は帰るなり、馴染みの客を見つけたのか、駆け寄っていく。

 その様子を見つめ、私はその男を見て、びしりと固まった。


 身長は座っているので定かではないが、おそらく2メートルは越える。

 体格がよく、ラフな町人の服の下には、見事な筋肉が隠されていると見た。

 髪は白髪混じり、顔は厳つく、子供が一目見れば泣いて逃げるような風貌だ。


 そんな顔面凶器な男は、同じように私を見て固まり、共に見つめあった後、ぽつりと呟いた。


「最近の子供は変人なのか?」

 

 どういう意味でしょうかね、失敬な!

 

「そういうこという顔面凶器はこれを喰らうでしゅ! 必・殺!」


 私は翼の指先に当たるスイッチをかちりと押す。

 これは母様が闇商人から買い取った例のとある代物だ!


『こ…こけこっこ』


 ニワトリの頭部分から流れたのは、恥ずかしげに、それでいて色艶を含む必殺の姉様こけこっこ!

 

 これには、食事をしていた若い男達が「ぐはっ」とダメージを受けて噴出し、ついでに私も鼻血寸前でその場にガクリと膝をついた。


 何というか…顔面凶器を倒すはずが、私がダメージを負いました。


 恐るべし、姉様のこけこっこ…。 

 

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