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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
126/160

125話 母様・・・??

 よもやセアンが何かしたか!?

 

 皆が栗色のウェーブのかかった、長い髪を持つ蒼い瞳の美少女を睨むと、美少女セアンは一瞬びくりと動きを止め、首を横にぶんぶんと振った。


 もう一度父様を見れば、父様ははっと自分を見下ろす。


 長身でひらひらの衣装。髪は元々の色に似せたこげ茶色の髪で、身体つきは少々しっかりしすぎているため、衣装は大きめで作られているらしく、肩の違和感などはうまく隠れるようになっている。

 その辺りは職人技だ。

 

 そんな父様の姿を、一言でいえば…。


「鼻血モノのロリータ美女でしゅっっ」


 うぐっと鼻を押さえた。

 父様は自分を見下ろし、鏡の前に立つと、思わずガクリとその場に(くずお)れたが、その姿は、膝を横にして座り込むという乙女座りだ。


 今にも「よよよ」と言ってハンカチを噛みそうな雰囲気に、思わず周りの皆がごくりと息を飲みこむ。


「こ」


「「こ?」」


 父様の言葉に敏感に反応し、皆が復唱してしまった。


「これは何事ですのー!?」


 やはり女言葉だ…。


「と…、父しゃま?」


 ひょーいっとノルさん腕から飛び降りて父様に駆け寄ると、見事な化粧を施され、潤む瞳で私を見下ろす父様の美女顔。

 思わずゴクリとつばを飲み込んでしまいました。


 お…襲っても、よろしいかしら…?


 は、いかんいかん。セアンといい、父様と言い、なぜかいつもの感覚を失って、引き込まれるものがある。

 恐るべしリンスター家のお化粧。


 ちなみにそれを施したメイドさん達は悶えている。



 頭をぶんぶん振っていると、父様は私の頭を撫でてにこりと微笑む。その微笑みはやはり蕩けるように美しく、愛らしい。


「て、いかんでしゅっ。この私が惑わされておりましゅっ」


 慌ててノルディークの足の後ろに隠れると、父様が驚いたような表情で立ち上がった。

 すると、私達の横をすり抜けて、父様の前に立つのは、魔王ファルグである。


 やはり塔関係者だからなのか、父様はファルグのことを知っているらしく、目はつり上がり、警戒をあらわにした。

 だが、ファルグはそんな父様をかまうことなく、じっと見つめた。


 二人の背は大体同じぐらい。じっと見つめられ、思わず父様はのけぞるようにして一歩下がった。

 

「なるほど。魔具か」


「魔具?」


 魔具と言えば、家庭内でもよく使われるランプなどがそうだ。

 光の魔法を閉じ込め、一定の力で光を灯すその道具は、城ではシャンデリアなどで使用されている。

 モノによってはとても高価な道具である。


 我が家のような元貧乏な一家が、そんなお金のかかるモノに手を出すとは思えな…。


 否定しようとしてふと私は父様の衣装を見やった。


 最近母様達の作る衣装は外へと販売されている。

 当然そのおかげで収入も増えた。そして、今まではそのお金で新たな生地を買ったりしていたけれど、最近作る衣装には奇妙な装置が付き始めた。

 

 クラゲの足とか…。


「ましゃか…母しゃま?」


 ちらっと母様を見れば、ふるふると震える母様が、目に涙を溜めていた!


「母しゃま!?」


 驚いて声を上げると、ファルグはすかさず父様の頭からかつらを奪い取り、そのまま父様の前から離れた。

 その瞬間を狙ったように母様が飛び込み、父様が抱き留める。


「驚かさないでください! 死んでしまったのかと思いましたわ!」


 ぼろぼろと泣く母様を抱きとめ、強く包み込んで、父様は小さく「すまない」と呟く。


 感動的な場面…。

 だけど、父様の服装が乙女すぎて絵面が悪いです。

 

 何とも言えない気分で見守っていると、ファルグが振り返った。


「シャナ」


「はいでしゅっ」


 ファルグの投げたかつらを受け取ると、私はそれを矯めつ眇めつして、被ってみた。


「どうでしゅか?」


 ずるっとこげ茶色の髪を床に引きずりながら振り返ると、カルさんが目を輝かせて鼻を押さえ、アルディスとシェールは思わず口元を押さえ、頬をほんのり赤くして目を逸らす。

 ノルディークとヘインはにっこり微笑み、ハーンは「あぁ」と呟く。

 

「魅了の魔具だな」


 ディアスがそう言ってセアンのかつらをすぽっと奪った。


 魅了とな!? 魔力干渉に続き、怪しげな道具が出てまいりましたよ!?


 そして、なるほどの効力である。

 かつらを奪ってしまえば、セアンのあの潤む目の美少女の輝きが激減した。

 

「魅了の魔具なんて普通は手に入りませんね」


 周りの皆の視線から奪うように、私を抱き上げたノルディークは、かつらをはずすと、悶えていたメイドさん達をちらっと見つめた。


 メイドさん達の動きがピタリと止まり、目があちこちへと彷徨う。

 

 その間、私はノルディークがはずしてしまったかつらを手に取ろうと必死だ。

 あれさえあれば、我がハーレム帝国は盤石なりぃぃっ。


「あのかつらは何かいけないものなのですか?」


 ずっと静かに様子を窺っていた姉様が首を傾げる。


「少しな」


 ディアスの答えに姉様は目を丸くし、メイドを見つめると、メイド達ははっとして口を開いた。


「あれは裏町に遊びに行った時に見つけたものなのですぅ」


 すぐに口を割るあたり、メイド達も姉様に心酔している。もちろん一番は母様だけど。


「裏町?」


 姉様のその質問には私が答えられます。

 

「ちょっと危ない場所でしゅよ。ごくまれに、闇の商人なんて大層な名前を付けた人達がやってきましゅので、何度も摘発してましゅ。ぬふっ、ふぬっ」


 かつらに手が届きませんっ。いまだ格闘中です。


「あぁ、その闇の商人です。奥様が美人だから、このかつらをお安くしますと言われて」


 ピタッと私の手が止まった。


「裏町ででしゅか?」


「はい」


 にこりと微笑むメイドに、はぁと塔の主達全員がため息をついた。

 何という危険な取引。そして怪しげな道具。


「アルバートのあの言動もこれのせいだな」


 ディアスはセアンから奪ったかつらをくるりと回す。


「あ、それはオプションで付けてくださいました」


 闇の商人相手にオプションを付けさせるとは…。

 一体何に手を出しているのですか、母様…。





「そんなことより、そろそろちゃんとお話をさせて頂戴」




 ふよふよ~っと目の前をナーシャが飛んでいき、母様と抱き合っていた父様が、その声に反応して顔を上げた。

 父様の言動に驚きすぎて忘れてましたよ。



「…我が君!?」


 精霊ナーシャの姿が若返っていても、やはり父様にはわかったらしい。

 ぎょっと目を剥く父様と、じっと黙っているが、実は記憶の本流を抑え込んでいたセアンに、何があったか説明されたのは、夜が明けるころだった・・・・。

 

 とっても眠いけど、一つだけ…。


 かつら…ください。

 




 


 

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