123話 最大の・・・?
変態が暴走したけれど、とりあえず瓦礫と砂の撤去は終わり、その後は簡単な学園側の片づけをする。
壊れた防護壁は魔族が夜通しで修理することになり、なぜか魔族と学園の生徒達は和気藹藹と楽しげに交流した後、その日は解散した。
まさに昨日の敵は今日の友だ。一日も経っていないところが突っ込みどころだけど…。
ヘイムダールはしばらくカルストと戦っていたけれど、皆に止められ、帰る頃にはようやく落ち着き、項垂れていた。
カルストはいつものことですからと、にこやかにほほ笑んで、当然のように私達についてきた。
まぁ、家が壊れてしまったので我が家に招待するしかないんだけど。
いまだにセアンと父様は起きないので、アルディスが転移で我が家に全員を送り、出迎えたメイドと執事達はお地蔵と化した面々と、けが人を見て大忙しとなったのである。
そうして、ようやく居間に落ち着いたのは深夜近くだった。
とりあえず、カルストに狙われないようにと一番勘のいいハーンのお膝に乗っかり、私は湯上りハーンの筋肉を堪能中だ。
いろいろあって飢えていたから、この時間は至福~。
「お嬢様をベッドで寝かしつけたかったのですが…」
「それは僕達の役目だから必要ないよカルスト」
ノルディークはにこやかに告げ、カルストは残念そうに肩を落とした。
どのみち、眠るのはもう少し先になる。
お風呂に入って人心地ついた全員は、話があるという魔王ファルグに呼ばれ、応接室に集まっていた。
「話とはなんだ?」
ハーンが私を撫でながらファルグを睨む。
ほんの少し前まで攻撃を仕掛けてきた相手なのだから、警戒するのは当たり前だが、血の繋がった子供が誰よりも警戒するというのはなんだか奇妙な気分だ。
そんなことを考えながら、撫でられるのが気持ちよくて、思わず「むふ~」「むはは~」と声が漏れてしまうのは仕方がない。
「シャナ」
さすがに緊張ぶち壊しなのでディアスに睨まれました。
そんなディアスは、現在ネグリジェにカーディガン姿の姉様に寄り添われている!
なんて羨ま憎々しい・・・。
羨ましいと憎々しいが重なって変な言葉が生まれた!
それはともかく、ファルグはハーンの視線に苦笑して肩を竦め、すぐに真剣な表情になった。
「この大陸の外の大陸は現在、異常なほどの魔物に溢れている事を知っているか?」
結界で閉ざしているので、外の話など全く入ってこないのが当たり前だけれど、そこは塔の主達。どうやらそのことを知っていたようで、皆コクリと頷いた。
なので、私も神妙な顔をして頷いてみる。
「お前は知らんだろう」
即行シェールに突っ込まれた。
なんとなく知ったかぶりしてみたかったのよっ。
ファルグはそんな様子に苦笑し、続けた。
「刺されて思い出したがな。何年も昔、私を刺したあの魔族が我が元を尋ねてきたことがある」
ファルグを刺した魔族と言えば、私が白の塔の前でメロメロにしてやったあの魔族のことだ。
ハーンに雰囲気が似ていたエロ顔魔族。
「名前は忘れたが、あれの望みはこの大陸の解放だったな」
「解放でしゅか? 乗っ取りじゃなくて?」
悪の帝王と言えば乗っ取り、世界征服、ハーレム作成…ん? ハーレムは違うか。
とにかく、明後日の方向に突き進むのが悪の帝王の道だ。
私? 私はもちろん違いますよ。
ハーンにごろごろしながら胸をはだけさせ、生胸を堪能する。これは乙女の成長に必要な養分であって、明後日の方向に突き進んでいるわけではないのです。
「結界を解いて、魔物をこの大陸にも解き放つ。それが望みだと言った。そうすることで、我等の大陸に溢れる魔物を減らせると思ったのだろう。よくある話だ」
魔族間ではよくあることのようだ。
塔の主は、結界を保ち、世界に溢れる強すぎる魔力を制御し、さらには魔物の侵入を防いでいる。
だが、あの魔族はその結界を消し、魔力と魔物をあふれさせるつもりらしい。
現に結界は一つ消えているのだから成功とも言えるだろう。
で、ここで問題。
「人間はどうなりましゅか?」
私は首を傾げた。
「結界が一部消えたことで、魔物の侵入は防げなくなった。これによって魔物による被害は出るだろうな」
アルディスが答える、その表情はどこか苦々しげだ。
つまりは、ファンタジーな世界がさらに広がるということだ。ただし、グロイ方向で…。
それは、平和王国日本感覚では耐えられないのではないだろうか…。
となると!
塔の主として世界を監視すること24時間。
やがてお肌はボロボロ、張りもなくなりしわしわで…。
「女の敵でしゅ」
「・・・・・どこをどうやってその結論に至ったのか聞きたいところだな」
ディアスが呆れたように呟いた。
説明は省きますよ。気になることはまだあるので。
「根本的にでしゅね~、なぜ結界なんて張らなくてはならなかったのでしゅか?」
結界が無ければ溢れる魔力に人間が苦しめられ、魔物が跋扈するというのはわかっている。しかし、もともと結界がなかったのならば無くなったところで元に戻るだけではないのだろうか?
実を言うと、塔の成り立ちやその辺りのことについて記憶を紐解いても、何一つ出てこなかったのである。
まるで隠されているみたいに。
「あぁ、そうか、その記憶は誰かに伝えられないと読めないんだった」
ヘイムダールが意味深なことを言う。
お蔭でますます気になるではないか。
きっと、その記憶は塔の主の最高機密で、それを知ったらもう後戻りはできないとか、そういった恐ろしい話なのだ…。
ごくりと喉を鳴らして構えると、ノルディークが小さく呟いた。
「実験に失敗した」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ちゅどぉぉぉ~んっ!
何やら爆発するような映像が頭の中に流れ込み、続いてそこから広がる魔力の霧。
その大元をたどれば、塔を建てた5人の魔法研究者の姿が…。
この記憶は間違いなく塔の主の記憶だろうけれど…。
キュルキュルと早送りされる光景。
簡単にその内容をまとめてみると、こうなる。
塔を建てた研究者という名の魔法馬鹿グループは、たくさんの魔法を生み出しそれらを研究して生きていた。
しかし、それではまだ魔力が足りなくて、魔力を生み出し、増幅させるシステムを作り出したのだ。
ところが、安定供給をしていたその魔力増幅システムは、年数と共に劣化し、大爆発を起こした。それがさっき見えた映像ね。
それにより、世界は高魔力に覆われ、魔物が闊歩する世界へと変わる。
そして、弱い魔力保持者は魔力に当てられて倒れ、生き延びた人間も魔物に殺される。
一時は人間が絶滅危惧種に指定されそうな状況を迎えたほどだ。
これを憂えた後の塔の主は、世界は無理でも、大陸に結界を張り、魔物と、多すぎる魔力を弾き飛ばした。
これには他種族である魔族やエルフなどの了承を得ている。
魔族に関してその後を語ると、彼等は魔力を糧に生きる種族だ。ゆえに一部の変わりダネは結界内に残ったが、その他は他の大陸へと移住した。
魔王は結界の制限無く大陸を行き来できるが、その他の魔族は結界を通れず、外に移住した者の中にはこの大陸に戻ることを切望するものが後々出てくる。
それを何とか押さえ込んでいたのが魔王で、その度に実力行使を行い、多くの魔力を使用し、外の魔力はさらに膨れ上がって、魔物が年々増え続けるという悪循環に陥ったようだ。
さすがの魔族も、魔物の数が増え過ぎては被害が出るというわけである。
そうなると、あのエロ顔のような男が現れても不思議はない。
なんだかんだ言って・・・
「塔が原因ではないでしゅか~!」
私は叫んだ。
絵本のファンよ、君達は騙されている…。
最大の悪。それは、魔法に取り付かれた魔法フリークである最初の塔の主であった・・・・。




