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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
魔女編
123/160

122話 とりあえずお掃除します

 リアナシアおばあ様の体は、魔力が残っているということで、ノルディークの力により空気に溶け込むようにかき消された。

 しばしの黙とうの後、私達は話し合い、とりあえず魔族のことも気になるので学園に戻ろうということになったのだ。


 そうして、ずるずるとセアンを引きずりながら、私達は転移で再び学園に戻ってきた。

 今度は兄様、姉様、父様、母様、ミニナーシャ付きである。


 学園に着くなり、姉様も兄様もその惨状に目を丸くして立ち止まる。

 かなりの瓦礫は砂と変わったが、被害のない場所に落ちた瓦礫は巨大なまま転がり、歩けば砂が舞い上がる。

 そんな中、学園の生徒も魔族も、事後処理に追われていた。


「皆まっ黒でしゅね~」


 顔も体も砂埃で真っ白というかまっ黒というか…。とにかくひどい。

 兄様達はすぐに手伝うために知り合いの顔を見つけて走り出し、母様は父様とセアンの傍で二人が起きるのを待っている。

 私は、ぽてぽてと歩き出し、皆の元へ近づいた。

 

 歩いただけだが、すぐに砂まみれになった。

 ただでさえ幼児で背が低いのだ。

 周りを青少年がバタバタと走り回れば、一気に泥ゴンに逆戻りである。

 まぁ、仕方ないけれど。


「戻ったか」


 突然声をかけられ、振り返ると、そこには灰色に染まったお地蔵さんが!


「ましゃか…ファルグでしゅかっ!?」


「他に何に見える」


 お地蔵さん…。

 と言ってもきっとこの世界の人間には通じないだろう。その場合は灰色の銅像とでもいえばいいのだろうか。

 

 魔王ファルグは魔族に指示を与えながら、自分は地べたに座って休んでいるようだ。

 やはり死にかけたのが影響しているのだろう。ノルディークの時とは違って、こちらは即死並みの重傷を負っていたのだからなおさらだ。


「あらあら、懐かしい顏だわ」


 ふわふわとミニナーシャが飛んでくる。

 彼女はセアンに力を譲った後、力ある精霊として世界に定着したらしい。空気に反響するような声も今はしっかりと響き、しかもその声は若かった。


 その姿は、若かりし頃のリアナシアお姉様ミニバージョンになったのだ。

 

「リアナシアか。精霊になってまで世界に残るとは、よほど世界に未練があるらしいな」


 ファルグの言葉にほんの少しミニナーシャが顰め面を浮かべる。不本意そうである。

 それはともかく、


「…おばあしゃまの異変を感じていたのでしゅか?」


 ヘイムダールに異変が伝わったように、ファルグにも異変は伝わっていたようだ。

 ファルグは頷くと、私の手を引き、そのまま私を膝の上に座らせる。

 居心地はいいけど、砂かぶるのよ、ここ。


「塔の結界は、揺らげばすぐわかる。一部でも異変が起きれば魔物も現れるだろう。いまだ戻ってはいないようだがな」


 空を見上げるファルグの視線を追って私も空を見上げてみたが、魔族には見えるらしい結界は、私には見えなかった。

 だが、肝心なことはわかったよね。


「結界が戻っていないのでしゅか? 新しい主を作ったのに」


 チラリと背後を見やれば、砂地にうつ伏せに放り出されたセアンの姿。

 彼は、青の塔の力を受け取ってしまったので、目が覚めたらミニナーシャの補佐を受け、皆に教育されることが決まっている。


「新しい主か…。あれは随分と魔力が低いな」


 ファルグもちらりと彼を見やる。


「事故で引き継いだからよ。エルの方が良かったわ」


 ミニナーシャはぷりぷりとおかんむりだ。

 彼女の願いとしては、やはり若くていい男辺りを捕まえたかったらしい。

 

 セアンもカテゴリ的には若くていい男なのだが、変態というオプションがついてくるのがイカンのですね。


「ふむ。そういうことならこちらの話もせねばならんが、とりあえずここを何とかせんとな」


 ファルグはいまだ片付かぬ学園の惨状に目をやる。

 その間にも、砂埃は舞い降りて私達に襲いかかり、ファルグの膝の上で大人しくしていた私は泥ゴンならぬ、地蔵ゴンに大変身した。


________________


「と、いうことで、お片付けしましゅっ」


 箒を片手にばばーんっと胸を張った私に、クラスメイトの地蔵アリス、地蔵帽子屋達はギラッと睨んできた。

 このお地蔵さん達は「もうやっている」と言いたいらしい。


「効率が悪いのでしゅ。ここは魔法でバーン、ドーンとやるべきでしゅよ」


「一理あるわね。でも、瓦礫と砂埃を何とかしないことには、バーンとドーンじゃ被害が広がるだけよ」


 シャンティの意見に皆がコクコクと頷く。

 

「そこで私の出番ですね」


 にょきっと私の背後に現れたのは、金髪に透き通った青い瞳の文官風の男、エルフのカルストである。

 

 掃除をしようという段階になって、目を輝かせたのはこのカルストだ。

 彼はにっこり微笑んで告げたのだ。


「掃除は執事の基本です。得意ですのでお任せくださいシャナお嬢様」


 ヘイムダールをちらりと見やれば、彼は微妙な表情をしていたので些か不安だが、アルディス曰く「腕はいい」らしい。


「ではお願いしましゅ」


「喜んで。その代わりお嬢様は応援をお願いしますね」


 ナゼだか応援を頼まれました。

 まぁ、掃除よりは応援の方が得意だと思うのでそれぐらいならばと少々下がった位置に立つと、それを見たカルストはうんと頷き、クラスメイト達を男女に分ける。


「女性は後からでいいですからね」


 力仕事を先にするという意味だろう。少女達はそれに従ってしばらく見学だ。

 で、男性はというと。


「さぁ、きりきり働いてもらおうか男共。全力で魔力を操り、まずは砂と瓦礫の撤去!」


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 何やら別人格が現れましたよ!?

 

 思わずヘイムダールを見れば、彼は何も聞くなとでも言いたげに、顔を片手で覆って、首を横に振っている。


 男性陣が慣れぬ魔法であたふたしていると、激が飛ぶ。


「とろとろせず、とにかく魔力を放て! 後はどうにでもしてやろう」


「横暴だ!」


「態度が違い過ぎる!」


 やはり各所から苦情が入るが、カルストはしゅるっと懐から鞭を取り出し、バシンッと地面を叩いた。


「魔力の桁が違うひよっこが文句を言うとは、百年早い!」


 まず種族が違うから! とは言えない雰囲気に、男達は口を噤み、言われるままに魔力を絞り出した。

 それはまさに絞り出すというのがふさわしい光景だ。

  

 ゲームで言うなら魔力残量赤ゲージ。ピコピコ光ってるような状態まで搾り取られ、膨れ上がった魔力は、辺り一帯に漂う。

 

「まぁ、いいでしょう」

 

 カルストはぐったりと地面に突っ伏す男達をちらっと見た後、指をパチリと鳴らし、空に大きな魔法陣を描き出した。

 かなり複雑な魔法陣の模様なので、大魔法の部類に入ると思うのだが…一体何を?


 じっと見つめていると、一瞬真剣な表情をしたカルストの顔が、突然にへらっと笑み崩れ…。


 ゴォォォォォォッ


 と音を立てて魔法陣があらゆるものを吸い込み始めた。

 そしてっ!


「きゃあっ」


「ちょっ」


 少女達から上がる声。


 応援そっちのけで様子を見ていた私は、少女達のアリススカートが風にあおられめくれるのを見た。


「集団スカート(めく)りでしゅかー!」


「違いますよ、ちゃんとお掃除してますでしょう?」


 確かに瓦礫と砂は魔法陣に吸い取られているが、男性陣があまり風にあおられていないのに、なぜピンポイントで少女達のスカートは風にあおられるのだ!


「生粋のエルフか。かなり魔力操作がうまいな」


 ファルグが様子を見ながら感心する。

 やはりこれはわざと(・・・)らしい。


「変態め!」


「天罰!」


 おぉっ、前方からピコハン、後方からハリセン!

 スカートの中身が全開で見えちゃってますが、アリス服はペチパンツを穿いているので、我が悪友ならば気にしないだろう。(普通の貴族の女性ならば気絶する)


「なんて可愛いお嬢様方…」


 カルストはそれをひゅっと飛んで躱すと、ちゅっ、ちゅっと彼女達の唇を奪って満足そうに頷いた。

 

 チャキ…


「チャキ?」


 謎の音のした方へ目を向ければ、剣を抜き放ち、ゆらりと立ち上がるヘイムダールの姿が…。

 珍しく纏っているオーラが黒いわ!


「世界のために、たたっ斬る…」


 まさかの主従対決!


 驚く私の視界の端に、風に吸い込まれる影が映った。


『ぎゃーっ! 今度は何だー!』


『砂から出られたと思ったら吸い込まれるわ!』


『息…できる』



「あ、ケルちゃんズ…」



 気が付いた時には、彼等は魔法陣の向こう側へと消えていた…。

 

 まぁ、きっと、大丈夫。


 …かなぁ?




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