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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
VS 魔族編
115/160

114話 大魔法

 男達は悶えていられる状況ではなくなっていた。


 目の前を精霊達が飛び交い、空を暗雲が覆い、油断すれば魔力酔いを引き起こしそうな濃密な魔力に取り囲まれ、やっと我に返っておのれを襲うクラゲを捕まえる。


 実はこのクラゲ、男を襲って魔力を吸い取るが、満足するとものすごい快感と共に純化した魔力を返してくれるのだ。だから正気さえ保てれば復活は早い。

 だが、今までは快感に身をゆだねてしまってダメだったが、さすがに周りが不穏な空気に包まれては快感だなんだと言ってられず、快感を惜しみつつも、皆正気を保ち始めていた。




 シャナの悪友の一人、そばかすオリンはぜぇぜぇと息を吐き、隣に転がる筋肉アルフレッドを見やる。

 アルフレッドも荒い息を吐き、その手にクラゲを掴むと、壁下の魔族側にぽいと投げ捨てた。


 ある程度仕事を終えたクラゲはそのまま空中でヒルへと姿を変え、さらさらと砂になって消える。

 元々あのヒルは魔力干渉を癒すと爆発して消えるもので、改造されてもそこはあまり変わらないようである。

 分裂するのは余計な進化だったが。


「どうせその辺に専門科の研究員が隠れてるんだろう。2・3匹は奴らに渡して分裂しないよう研究させればいいさ。裏町辺りでよく売れるかもな」


「あぁ、なるほど。研究資金がはいるかも」


 どこかに隠れていそうな研究員に聞こえるような大きさで二人は話した後、衣服の乱れを直して「よしっ」と気合を入れなおした。


「先生の言ってた時間まであとどれぐらいだ?」


「もう少しだと思うよ。でも、それも魔王が手加減してくれてるからだよね」


「だな。でも、舐められたままでいられるかっ」


「僕達ってシャナに似てるよねぇ…。負けず嫌いなところが」


「それは言うなっっ」


 アルフレッドは渋面を作り、オリンは苦笑して、二人は離れてしまった元の持ち場へと急いだのだった。


______________________


「降り注げ! 滝のような水!」


「「「はぁぁぁぁ!?」」」


 魔族対学園少女軍団の戦いは、少女達が放つ変則魔法に魔族が苦戦を強いられていた。


「そこは叫ぶならただ水だけだろう! 滝のようなって…ぬおぉっ ごぶごぼごば~!」


 文字通り滝のような水が魔族に襲いかかる。

 

 この変則魔法は、私が小さい時に編み出したもので、ヘイムダールに威力UPのお墨付きをもらっている。


「魔法はイメージが強ければ強いほど強力な魔法が生み出せる。であるのなら、変化をつけるのは言葉からなのです!」


 ということで、強力な魔法を使いたければイメージが大きくなるように、水もただ『水よ出ろ』と叫ぶのでなく、『滝のような』とか、『打ち付けるような』とつけるようにしたのだ。

 しかし、初めはなかなかその変則魔法の威力が定まらず、かなり苦労したものだが、現在は…皆うまく使いこなしている。


「使いこなしすぎでしゅねぇ…」


 昔を思い出してほろりとしながら様子を見れば、滝のような水で窒息攻撃を仕掛ける者、何やら鉄球のような物を落として魔族を追う者、風の槍を作ってものすごい速さで串刺し攻撃を繰りだす者など、なかなか見た目に恐ろしいものが発動している。


「殺す気か!」

 

 戦いなのだからその台詞もどうかと思うけれど・・。


「大丈夫よ! ちょっとポロリを発動させるだけだから!」


 …風の槍を繰りだし、串刺しを狙っていたと思っていた少女の本当の狙いは、どうやらふんどしの紐だったらしい…。

 ポロリ阻止でなく、ポロリのためにそんな強力魔法が必要なのかは謎だけど、目がキラキラ輝いているのでポロリの為、コントロールに情熱を注いでいるのだろう。

 うん、頑張れ・・。


 違う場所に目を移せば…。 


「ポロリならまかせっ」


 カキ~ンッ


 皆まで言わせず、魔族の一人が胸の前で拳を近づけ、「ふんっ」と力を込めるポーズのまま凍りついた。

 

「ポロリなんてさせませんわ~!」


 こちらはポロリ阻止派の娘だ。

 うん、こちらも頑張れ。

 そして、氷像は誰か回収してください。


 私はもちろん阻止派です!

 チラリズムとポロリは別だと言わせてもらおう!


 ぐんっと両手を空に掲げると、私の動きと気配に気が付いたのか、魔王ファルグが振り返り、あえて周りは見ないで私を視線で射抜き、にやりと微笑んだ。


 唇が『やってみろ』と呟いた。


 やれと言われればやりますとも。

 チートをナメてはいかんのよ!


 ぐっと両足に力を籠めれば、暗雲立ち込める空に六芒星の魔法陣が描かれていく。

 それは白く輝き、線が走るとキラキラと光の粒が舞い落ち、目を奪うような美しさだ。

 だが、そこから放たれるものは美しさとは無縁だが。


「大魔法…と見せかけて、カム・オン・ケルベロス!」


 空に注目していた幾人かの魔族が、突然足元に沼ができたことで沈んだ。

 ナイスですよケルベロスちゃんっ。何故かなかなか出てこないけれど…。


 残念ながら、魔王ファルグは足元が沼化しても全く動じず、その沼の上に浮かんでいるようだ。

 

「シャナ! また浮かんでくるわよ!」


 沼から這い上がろうとする魔族を見つけてシャンティが手をクロスさせ、光の光線を放った!


「ぎょわああああっ」


 沼から這い上がりかけた魔族はそのまま上半身を沼から出した状態でばったりと倒れる。


「ここは任せて! シャナ、シャンティ!」


 友人達数人が前に出て叫ぶと同時に、ようやく沼から子犬が飛び出したっ。


 が…


 パキンッ


 透明で甲高い音と共にケルベロスの沼が凍りつき、飛び出した子犬ケルベロスの尻尾が凍った沼に縫い止められた。


『何をするかー!』


『ほらっ、大きくなるか小さくなるかで揉めるから出遅れたのよっ!』


『冷たい…』


 ケルちゃん、スーちゃん、ベロちゃんがぎゃんぎゃん言いながら尻尾を引き抜こうとしている。

 あれはあれで可愛いわ…。和む。


「和んでる場合じゃないでしゅっ! 今度こそ大魔法でしゅよ!」


 スッと腕を降ろすと、魔法陣も地面に近づき、回転を始める。

 そして、線で描かれた魔法陣は、次第に文字や図形が増え、やがて完成したその複雑な模様に、魔族達は目を見張った。


「陛下! さすがにまずい!」


 魔族の一人の叫びに、魔王ファルグはスッと地面に手を広げ、凍った沼の上にこれまた複雑な魔法陣を描き出した。

 

「一瞬で描き出すのは経験の差でしゅね! でしゅがっ、威力ではまけましぇんよ!」


 次の瞬間、壁の高さでは中央当たり、地面からでは、魔族三人分の高さの所で二つの魔法陣がぶつかり、辺りは真紅と黒と白の光が明滅した!



 ゴオォォォォ!



 風の唸る音が響き渡っているのに風はなく、無風状態。

 周りは夕焼けの様に赤い色に染まり…


 次の瞬間…


「ひょわっ」


 二つの魔法陣が突然かき消される様に小さくなったかと思うと、そこへ向かってものすごい風が吹いた!

 

「シャナ!」

 

 飛びそうになった体を咄嗟に支えたのはシェールとハーンだ。

 二人が現れたということはある準備ができたということだが…。

 今はそれどころじゃなさそう!


 ノルディークは次に備えて魔力を練っている。


「来るよ」


 ノルディークが呟くと、小さくなり、引き込んでいた力が、今度は外に膨れ上がる!


「爆発でしゅ!」


 まさに爆発。

 とんでもない威力の炎と風が襲いかかってくるのが見えた。

 

 ハーンは私を腕の中に抱え込み、ノルディークと魔族、そして魔王は咄嗟に結界を張った。






 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・・







 その瞬間、王都は地響きとともに大きく揺れたのだった。



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