111話 投入!
つ・い・にこの日がやってまいりました!
魔王ファルグの宣言通り3日の猶予を持って魔王戦の開幕です。
ノリが運動会みたいな感じになっているのはまぁ、ご愛嬌。
本当の敵はこの戦いの間にちょっかいを出してくるかもしれないし、来ないかもしれない。これはその前のウォーミングアップだ。
「ようこしょお越しくださいましゅた。魔王とムキムキマッチョ軍団しゃま。こちとら若いのが取り柄のイケイケ軍団でごじゃいます」
私は学園の本館を守るために張り巡らされ、出現した防御壁の上から魔王軍を見下ろしてごあいさつした。
戦いの場所はやはり学園の敷地内にした。
避難場所に指定される学園は、その分守りが堅い。それゆえにこの場所で戦う方が学生中心の集団である私達には都合がいいだろうという配慮だ。
では、戦闘中の町の人々の避難場所は? と言えば、城を筆頭に幾つか分けられた。
この日のために宣言の日を加え、3日間避難訓練を繰り返した。
町の人々は避難にかけてはかなりの自信を持っていることだろう。
そして、私達は避難訓練と共に戦闘訓練も急ピッチで進めたため、現在・・・・。
「嬢ちゃん方はやる気があるのか~!?」
下からムキマッチョな部下が叫ぶ。
そう問いたくなる気持ちはわかる。何しろ3日の急ピッチな訓練は私達の精神と肉体をボロボロにし、現在…皆、目の下にクマは作るわ、ぐったりと防護壁に寄りかかる者はいるわで見た目がとても戦闘前とは思えない。
これは…あれだ。酔い潰れた集団。
実際魔力酔い・・魔力干渉をこの3日間でかなり経験させられ皆グロッキーなのだ。酔い潰れた集団と呼ばれてもあながち間違いではないだろう。
「一般兵は気にするなでしゅ。こっちには精鋭がおりましゅからね!」
そう、ぐったりしているのはこの日のために母様とお針子さんが作ったお揃いの戦闘服を着る事すらできなかった一般兵。
私が手を上げると、防御壁の上に姿を現し、ずらりと横に並ぶのは、水色のストライプのエプロンドレスに身を包み、頭から兎耳を生やした戦闘娘集団その名もアリス!
デザインが様々な燕尾服に、シルクハット、そこから飛び出したウサギの耳を持つ戦闘男性集団は、その名も帽子屋!
「クリセニア学園の精鋭、総勢300名でしゅ!」
300人のコスプレ集団は中々の見物だ。
そして、私はと言えば…いまだにノルディークの魔力干渉に侵されているためにちっさいので、着せられた衣装は…。
「まぁるいお腹! 鞭のようにしなる尻尾。鋭い爪と牙! 恐れおののけ~! 我こしょは人間最後の砦! ミニドラゴン・シャナでしゅ~!」
ばば~んと胸を張った私は、本日白い竜の姿をしている。顔はいつものように口の部分から出ているのだが、今回のこの着ぐるみは特殊なのだ。
「人間最後の砦が人間じゃないぞ、嬢ちゃん!」
「そう言う突込みをする人にはこうでしゅ!」
私が右足に仕込まれた装置を思いきり踏むと、ごぉぉぉぉ! という音と共に炎が鼻から噴き出した!
「うおっ!」
壁下の男達がものすごい火力に驚き、慌てて逃げ惑う。
口から出ないところがミソです。
そして何気に大火力です。
母様達はやはり兵器に手を染めはじめたのかもしれない…が、今は何も知らなかったことにしよう!
「さぁ! かかってくるでしゅよ!」
私の叫びを合図に、両軍が身構えた。
そして…
「・・・奪い取れ」
魔王ファルグの声が低く、周りを圧倒するかのように響き渡った。
その瞬間、生徒達は一瞬飲まれ、魔王軍はわっと湧き上がる。
「さすがは魔王。シャナのアホなノリを壊してきたな」
ディアスが私の横に立って感心したように頷く。
「アホなノリとはちっけいでしゅねっ。こっちは真剣でしゅ。ルインくーん!」
私が叫べば、学生軍の真の指揮官、パルティア第二王子ルインが数人の男達が抱える箱に入った何かを運び込み、それを防護壁のヘリに乗せた。
これには新兵器が入っているのだ。
「準備はいいよ」
「ではやっちゃってくだしゃい! ノルしゃ~んっ」
私はぽてぽてと防護壁の上を駆け抜けると、そのまま他の主達と共にいるノルディークの胸めがけてダイブした。
「避難でしゅ!」
ノルディークは私を抱きとめ、その瞬間ルインの号令で箱の中身が一斉に放たれた!
飛び出したのは白く、無数の触手をもった…例の生き物!
「最強セイブツ(?)クラーゲンでしゅ! クラゲをくらえ~!」
ゴロがいいですね。クラゲをくらえ…。うぷぷぷぷ。
なんて笑ってる場合ではなかった。
例のクラゲは改良に改良を加えた吸い取る君8号なのだ!
つまり、こちらにも危険がある。…普通はあってはいかんのだけど、確実にあるっ。
「うおぉぉっ! なんじゃこりゃ!」
壁の下で野太い悲鳴が上がる。
ノルディークは怖いもの見たさなのか壁下を覗き込み、私は自然同じように下を見下ろして、ぽかんと口を開けた。
クラゲの集団がものすごいスピードで…男達の服を剥き、笑っていた。
「ケケケケケケケッ」
クラゲってケケケケて笑うのですね…じゃなくて、これはどういうこと~!?
「シャンティさんっ?」
何度か専門科を尋ねて改造過程を確認していたシャンティは、視線を明後日の方向へやりながら答えた。
「この間、実験でシャナの髪から作った培養エキスを使ったらね、新種が生まれたんだけど…その、あれが一番最強で…それで…かなり手に負えないから、魔族の人処分してくれないかなーなんて…」
失敗作~!!?
しかも私のエキスってなんですか!
なんて驚いている間に、クラゲはなんと、分裂と増殖を始めた!
「にゃ…にゃんかこっちを見てましゅよ?」
「みてるね」
ノルディークが淡々とした声で告げると、クラゲはザっと上を見上げ、なんと壁を歩いて登ってくるではないか。
思わずぞっとして例の我が家での悪夢を思い出していると、防護壁の上に辿り着いたクラゲは手当たり次第に美形の服を剥くという暴挙に走り、おまけにヒル型に戻って魔力を吸い取り始めたのだ。
「や・・・やばいでしゅ!」
吸い取る君の恐怖再び。
しばらくの間、戦場には悲鳴と「ケケケケケケ~!」という笑い声が響いたのだった。




