109話 魔王様お茶をする
「ついに現れましゅたねー!」
ぶわっとクラゲの触手が高速で魔王に襲いかかる!
もちろん狙いはエロボイス発動だ。
「ほぉ、魔力を流すことでその魔力を具現化し、形を保つ…。なかなか素晴らしいが、脆いな」
ハーンパパ…もとい魔王ファルグがスッと掌をこちらに向けると、私の放った触手達がその掌の手前でピタリと動きを止めた。
「にゃんとっ!?」
何か壁でもあるかのように一定の場所から動かなくなり、見えない壁らしきものを押しても、叩いてもびくともしない。
となれば…
私はむむむむむ~っと唸りながら触手を一つの束に纏め、その束の先を丸い塊にすると、それをその壁に向かって思い切り叩きこんだ!
「クラ拳骨でしゅ!」
クラゲと拳骨を繋げてみました!
もう一つおまけに海の怪物クラ~ケン、ならぬクラ~ゲン骨…なんちゃって。
我ながら、少々オヤジ臭かったわ。
とまぁ、反省は後に回して、拳骨はファルグの腹めがけて抉るように繰り出された。
だが、やはりこれも彼の手前で壁にぶつかった様に跳ね返され、私はその反動で、拳骨に引っ張られるようにして後ろにゴロンゴロンと転がる羽目になったのだった。
「シャナ、無茶しすぎ」
転がる私を止めたのは…ヘイムダールだ。
以前から魔力干渉を味わっていたせいか、すでに私の魔力干渉を克服し、平然とした顔をしてそこにいる。
「私の魔力を中和したとか、そういうことでしゅか・・?」
エロボイス聞き放題が破られたかとしゅんとすれば、ヘイムダールは小さくため息をついて答えた。
「種明かしをすると、吸ってもらったんだけどね」
そう言って彼はぺろりと唇を舐めるシャンティを見やり、私は「おぉ」と叫んで手をポンッと叩いた。
それはそれで理解したとして…
「しょこ~! 何一般のお嬢しゃんを口説いてるでしゅかー!」
起き上がり、ちらっと他の男達を見やれば、彼等はなんと! 魔力干渉の苦痛(または快楽とも言う)から逃れるために、同じように干渉を受けた学生をとっつかまえて吸うように迫っていた!
吸えば魔力干渉の魔力が消えるので苦しみから解放されるのはわかっているが! だが!
納得できないものもあるのです!
「私より先に他の皆を口説くとは何事でしゅか!」
「怒りのポイントはそこなのか!?」
シェールが何か言ったけれど、耳に入りません!
私が皆を口説くよりも先に口説いていることも、私を口説かずに皆を口説くことも許せぬ~っ。
私はギラリと目を輝かせ、嫉妬のクラゲの触手鞭を炸裂させる。
わきわきわきわきわき・・・・
動きはあれだが、クラゲ鞭は男達を叩い…たのではなく、あちこちに触れ、揉み、くすぐった。
私の気分は昔の昼ドラの浮気された奥さんだ。癇癪・・の代わりにクラゲの触手で楽しんではいるが。
そうこうしている間にも次々とクラゲの触手鞭は彼等に襲いかかる。
バシバシ音を立てて叩くのではなく、彼等の体の表面を舐めるように撫でるのだ。
「うっ…ふぅっ」
「くっ…はっ」
「んあぁっ」
「あぁんっ」
「く…」
順番で言いますならば、ノルディーク、アルディス、ディアス、シェール、ハーンだ。
意外にもディアスがなかなかのエロボスでありました。
欲を出して、もう少し堪能しようと一番弱そうなシェールを襲ってみる。
「やめ…」
シェールが根をあげそうになった時、彼は私を見て、大きく目を見開いた。
正確には、その視線は私…ではなく、どうやら背後に向かっているようで、そぉっとそちらを窺えば、そこには見物する魔王の姿が…あるはずだったが、それはとあるお方の体で遮られていた。
「オイタはいけないとさんざん言われていただろう! 没収!」
魔王と私の間に入った怖いモノ知らずなこの壁の正体は、我が兄エルネストであった。
彼は叫ぶなり、私のクラゲヘッドをぎゅむっと掴み、そのまま上に引っこ抜いてしまった!
何ということ!
私が着ていたクラゲの下は、嬉しはずかし、いつものかぼちゃパンツオンリーだ!
これは…
「うっふんセミヌードでしゅっ」
衆目の前で脱がされたからにはサービスをせねば片腕で胸を隠し、お尻をフリフリ、ポーズをとった。
「ぐはぁ!」
・・・・・今、少々遠い場所で、同じクラスの者と思しきものが鼻血を噴いて倒れたようです。
あれは、度々幼児好き発言をしていた者だろう。
筋金入りの幼女好きのようだ。
とりあえず私に襲いかかってこなければ問題は…無いことにしておく。
今はそれどころではないのだ。
クラゲを脇に抱え、兄様は少々荒い息を吐きながらじりじりと私に迫ってくる。
「母様にはこれは失敗作だったと言っておく。それよりシャナ、町の人も巻き込むのはよくないだろう! お仕置きだ!」
おぉ、兄様…。それは正論で大変素晴らしいのですが、できれば後ろに注目してくださいな。
兄様の体で見え隠れする魔王は、この状況を楽しんでいるのか、私がぶっ飛ばして鼻血で顔がぼろくちょになったムキマッチョの部下を無理やり叩き起こし、彼にテーブルセットを用意させ、自分はひとり優雅にお茶タイムを始めているではないか・・・。
「えぇと…エルネスト、背後に魔王が」
私の傍で唖然と事の成り行きを見守っていたヘイムダールが声をかければ、兄様は振り返り、お茶を飲む魔王を見て小さく会釈した。
「少し待っててください」
「構わんぞ」
いやいやいやいや! 構ってくださいな魔王様!
「さぁ、お説教を始めようか」
流れがおかしいのに止める人がいない!
そして、ブラックお兄様降臨!
いや、もう、ホント、構ってください魔王様!!
「おちりぺんぺんはもう嫌でしゅー!」
結局・・その後、私はお説教2時間コースとなり、存分にお茶と景色(?)を楽しんだ魔王は、にやりと微笑んで告げた。
「なかなか面白かった。次は3日後に来る。その時こそは…勝負開始だ。正々堂々とな」
魔王はにやりと微笑むと姿を消し、私は…そこからさらにお尻を叩かれる羽目になった。
またもや公開お尻ぺんぺん…。
がっくりと項垂れる私の姿に、遠巻きに見つめていた生徒から声が…
「かぼちゃパンツとお尻ぺんぺん…」
一体誰だー! 幼女に萌えているのは!
気になって仕方ないわ~!
ハーン 「結局…お茶をしに来ただけなのか」
ノルさん「攻撃予告はしていったようだけどね」
ヘイン君「今代は…律儀だな…」
シャナ 「先代は違うのでしゅか? あのムキムキハゲマッチョ」
男達はしばし黙り込む。
ノルさん「・・・・嵐のようにやってきて」
ヘイン君「全てをなぎ倒す…」
ディアス「デストロイヤーと呼ばれた男だ」
シャナ 「・・・・・ハーンもはげましゅかね?」
シェール「気にする所はそこなのか!!?」
魔王様、とりあえず開戦予告だけしていきました。




