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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
VS 魔族編
108/160

107話 避難訓練…?

塔の主達側視点です。

「Aブロック避難完了しました」


 シャナの提案で避難訓練実施となったその日、塔の主達は学園にて動かず、参加した町の人々を誘導する兵士や騎士、それに生徒達の動きを見守っていた。


「大々的に、かつ定期的に執り行えば何かあった時動くのは早いな。これはいい案だ」


 ディアスは校庭に集まる町の者達を校舎の壁にもたれて遠巻きに眺めながら頷く。


 普段騎士や兵士にあまり馴染みのない参加者は、彼等と接する時は少し緊張しているようだが、訓練と聞かされているためか騎士や兵士も任務中とは違い和やかで、まだまだぎこちないながらも互いに良いコミニュケーションの場にもなっているようだ。


「区画ごとに避難経路は違うけれど、ブロックの誰かが覚えていれば、有事に逃げる際他の者も誘導させることができるからね。それだけでも騎士の負担が減る。…あとは学園側の受け入れ態勢だけど」


 ヘイムダールは学園の建物に近い場所にあるベンチに座り、目を閉じながらそう呟く。

 彼は避難訓練が始まった時から、異常が現れないか、敵が現れないかと、魔力の糸のようなものを町に張り巡らせて見張っているのだ。

 

 ただの避難訓練・・と言ってもクリセニアの町が戦闘訓練を始めてから数日経っている。

 もし敵がそれらを危険視した場合、動きがあってもおかしくないのだ。


 敵が魔族なのかルアールの元王なのかで対処法が変わってくる。

 魔族ならば、塔の昔の記憶や自分達の経験、それにハーンやシャナの話を聞く限りそれほど警戒する必要はないように思えるが、もしルアールの王ならば…。


 そう言う理由で塔の主達は警戒しているのだが、今のところ問題はなかった。




「食糧関係はシェールが動いているらしい」


 避難する様子と学園の食料の備蓄などを確認しに行っていたアルディスとノルディークが連れだって戻ってくる。

 避難するブロックは残す所3つほど。そのどれもが学園まであと少しの所に来ているので大丈夫だろうという判断だ。


 しかし…


 ヘイムダールはパチリと目を開けた。


「魔力反応だ」


 その声に彼等はすっと目を細めるが、あまり表情には出さない。

 周りに何かあったと悟られてパニックを起こさせるような真似は経験上避けている。


「どこかわかるか?」


 ディアスがベンチの上に地図を広げると、ヘイムダールは12ブロックに分けられた町の一区画を示した。


「よりにもよって…」


 ディアスのため息交じりの言葉はここにいる全員の心の声の代弁でもある。


 その区画にはシャナがいるのだ。


 シャナがいるとなると、何でもないことも大事になる可能性が上がる。

 

「あぁ…。シャナが魔力を使った…それも広範囲で」


 ヘイムダールがため息交じりに追い打ちをかけるように報告する。


「あのコントロール不能チビ娘がっ」


 魔力を使う時は範囲に気をつけろと昔から教えているが、シャナがそれを守れたことは…ほとんどない。

 どうしても予想より多く魔力を放出してしまうのだ。

 

 ディアスは半分怒りながら、ノルディークに視線を向ける。


「迎えに行ってやってはどうだセレン? お前の主だろうが」


「そうだね…。事が大きくなる前に回収するよ」


 ノルディークは頷くと踵を返したが、それをヘイムダールが後ろから止めた。


「待った。その必要はなさそうだ。シャナ達の魔力がものすごい速さでここに向かってる。もうすぐ着くよ」


 シャナのブロックは誘導員にシャナが混じっているため、一番遅く帰ってくると思っていたが、ヘイムダールが現在の速さを地図上に指を動かしながら伝えると、全員が眉根を寄せた。


「速すぎる。追われているのか?」


 誰かがシャナを担いでさらに全力疾走すればようやく出るようなスピードだ。

 アルディスが心配そうに尋ねれば、これにはヘイムダールが首を傾げた。


「そんな気配はないような感じだが…シャナの走る速度にしては、速い…ね?」


 何者かに捕らわれて移動しているのかと皆に不安がよぎったところで、背後から声がかかった。


「それなら間違いなくシャナだろう。今日着ていたあの変な生き物は空中を滑るように移動できると喜んでたぞ」


 声の主はハーン。そして、その隣にはシェールがいた。





 シェールはしばらく父親に監禁されて少々痩せたが、なんとか父親を説き伏せ、幼い妹がそれなりの年になるまで、ある程度の期間公爵代理として協力することになるらしい。


 とりあえずは国にも仕えねばならないため、今回は公爵代理としてのはじめての仕事で、学園側に備蓄食料などを運ぶことになったそうだ。


 ハーンは、身内が襲ってくるということで、申し訳なさ…は感じていないようだが、荷運びぐらいはと朝からシェールに協力していたのだ。

 ゆえに二人揃っての登場である。




 シェールはなんとなくシャナがいそうな方向を見やって告げる。


「シャナの身の危険は感じられない…というか、喜んでるような…?」


 魔狼だけあって感情が流れてくるのか、胸を抑えながらシェールが告げると、嫌な予感が膨れ上がってくる。


 そして…それはついに彼等の元にも聞こえてきたのである。



「~す・・て」


「なんだ?」


 一番に反応したのは耳のいいハーンだ。

 振り返り、避難所への入り口、学園の校庭の出入り口の一つに目を向けた。

 

 男達がそちらに顔を向けると、小さく響いた声はすぐに大きなものに変わる。


「「助けてくれぇぇぇぇ~!」」


 この叫び声に騎士や兵士が一斉に腰の剣に手をかけ、町の者達がびくりと震える。

 駆け込んでくる者達は息も絶え絶えと言った様子なのに、騎士や兵士達を見ても止まろうとしない。


「お前達も逃げろ! あれはきっと魔王だ!」

「魔王に違いないわ!」


 口々に魔王魔王と叫ぶため、緊張は(いや)が上にも高まり、校庭にいた町の者達が慌てた様子で校舎へと避難誘導されていく。


 駆け込む者達は興奮した様子でさらに告げる


「俺達は捕らわれる! 捕らわれて喰われるんだ!」


 喰われる?

 

 と、そこで塔の主達は首を傾げ、ハーンは目の前を走る男の方を掴んで止めた。


「おい」


「はあぁぁぁぁぁん!」


 突然色っぽい声を出されてその場に(くずお)れた男に、ハーンはぎょっとして思わず手を引いた。

 

「ハーンの名前呼びましたよ?」


 ノルディークがにこりと微笑み、ハーンは呆れた表情で返した。


「今のはあきらかに違うだろうが…。それより…おい、お前、俺にそういう趣味はないと先に言っておくが、人を食う魔王って言うのはどんな奴だ?」


 地面に(くずお)れた男に尋ねると、男はびくっと震えた後、潤む目でハーン達を見つめたかと思うと、今度はギッときつく睨んできた。


「魔王からは誰も逃げられねぇ! あの触手に絡め取られていかされちまうんだ!」


 どこにいかされると? と男達の頭に疑問符が飛び交う。


 そして、ついに最後尾と思しき者達、つまりは学園の生徒達が校庭に駆け込み、騎士、兵士、塔の主達は身構えた。


「「「ヘイン先生!」」」


 最後尾を駆けてきたのはシャナの友人、シャンティ、オリン、アルフレッドの三人だ。

 三人とも悲鳴のような声でヘイムダールを呼んだ。


「シャナに何か!?」


「ちっがーう! シャナが来るわ!」


 シャンティが首を横に振って叫ぶ。その声にはひどく力が込められている。


「は??」


 男達が首を傾げていると、三人はヘイムダールの目の前で止まり、息を荒げて口早に訴えた。


「あれは危険だ!」

「たぶん、誰も勝てないと思います! ここに来るまでに騎士も数人餌食になって!」

「とにかく! シャナが来るのよ!」


「「「逃げてください!」」」


 声がはもった瞬間、遂にそれは姿を現した!



「泣き~ 叫び~ 喘ぐ声~ すてちな~ エロボイス~」



 謎の節で歌いながら現れたのは、ちんまりとした着ぐるみのクラゲ…。

 しかし、そこから伸びる触手には老若男女が数人絡めとられ、校門前でゲットしたらしい騎士はその触手の先で喉を撫でられていた。


「にゃ~んでしゅよ、にゃ~ん」


 幼女に鳴き声まで強要される騎士に、なんだか同情を禁じ得ない…。

 あまりの光景に唖然としていた塔の主達がはっとした時には時すでに遅く、騎士の数人が剣を抜いて襲いかかっていた!


「「シャナ!」」


 いくらシャナでも武人達に襲われては一溜りもない!

 ノルディーク達が叫んだが、シャナはふりんっと腰を振ると、にんまりとほほ笑んだ。


「触手乱れ打ち~!」


 その言葉の通り、触手が残像を起こすほどの速さで打ち出され、兵士達が次々と・・・・


「召し捕ったりでしゅ~!」


 捕まった…。


「ほぉ…何本あるんだその触手?」


 ハーンが感心しつつ尋ねると、周りの者達は声を揃えて



「「「そういう問題か!?」」」



と叫んだのだった…。


 

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