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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
VS 魔族編
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106話 鬼さんこちら

 そして三日目からは合同訓練となった。

 一体何と合同かと言えば、他国の軍や兵士の一部。腕に覚えのある貴族や王族である。


 彼等の国の王族は、相手が誰とは言わないものの、彼等の訓練を受けておいて損はないと軍や貴族やらをたきつけて強引に参加表明をした。

 これにはパルティア側も兵を受け入れるのはと難色を示したが。


「訓練ぐらい良いのではないかしら?」


 というリアナシアおばあ様の鶴の一声で承諾した。


 さらに4日目には、あまりに騒がしい学園の様子と、騎士や兵士や他国の者が入り混じる激しい戦闘訓練の噂に戦々恐々とする町の者達が、学園へ事情を聴きに来て魔族のことを知り、どうすればいいのかと騒ぎ出したため、一つの案を出した。


 そして5日目の本日、その案により、おそらくこの世界で初めてとなる避難訓練が執り行われることになったのだ。


「町の人間を逃がすために訓練とはな」


 ディアスが感心したように頷く。


「本来は火事や地震、水害が起きた時のための訓練でしゅよ。日頃から訓練していれば動けるものでしゅからね」


 そんなわけで、町中で避難訓練に取り組むことになった。

 この時の敵役は学生と、一部の兵や騎士達だ。

 

 そして私の衣装はと言えば…


「ふははははははっ、早く逃げねばこの触手の餌食でしゅ~っ」


 私の衣装は本日も手が使えない。

 しかし! 今回は手以上に動くたくさんの触手をもった・・・・くらげ(?)になりました。


 このクラゲの着ぐるみは手抜き感満載に見えるのに、私の魔力でふんわりふわふわと海に漂う動きを再現できるという謎の方向にすごい機能を持つ。

 そして、触手は数メートル離れた者を絡め取り、なんと! 痺れさせることができるのだ!


「マヒマヒひゃっほぅ」


「ぐはぁっ」


 大喜びで街の住人を捕まえていたら、仲間達に白い目で見られてしまった…。


 いやですね、皆さん。これは訓練ですよ。国に住む者として、町の安全のためにやっていることなのですよ。


 あぁ…視線が痛い。



 それでもこれは使命っ! と言い聞かせて悪役に徹して町の人達を追っていくと、ふいにキィィィンと耳鳴りがする。


「ちゅかれてましゅかね?」


 立ち止まって首を傾げると、町の人達を追いかけていたシャンティと、アルフレッド、オリンが同じように足を止めて振り返った。


「今の感じた!?」


「微弱だけどあの感じは魔力干渉だよね」


「おぉ、ヘイン先生のかける干渉に似てるな」


 えぇっ? いつの間に皆様魔力干渉の気配を感じられるように!?

 

 どうやら彼等は知らないところで特訓を積み重ねていたらしい。

 辺りを警戒するように見回し、先を走る町の者達の様子にも目を光らせた。


「魔族か、それとも…悪の帝王が現れたのか…?」


 アルフレッド君、悪の帝王ってなんですか…?

 どこから出てきたネーミングですかそれは。

 

「…ぶふっ」


 いきなりのネーミングに、きっとシリアスな場面のはずだが思わず噴き出した。


「笑ってる場合じゃないわよ、シャナ」


「俺らまで干渉されたらまずいぞ」


「シャナ(仮)も無いことだし」


 オリンめ…真剣な顔してさらっと吸い取る君のことをシャナ扱いしましたよ。

 ずもももももも~っと彼等の背後で黒いオーラをかもしながら揺れ動くクラゲと化していると、その私の触手をぎゅむっと掴む手があった。


「なんでしゅ?」


 少し引っ張られる感じに振り向けば、そこにいたのは同じクラスの頭脳派生徒。

 ついこの間、魔力干渉の上書きが可能かと質問していた子だ。


「シャナ、できるだけ広範囲に魔力干渉をして頂戴」


「うえぇっ? いきなりの無茶ぶりでしゅねっ」


「無茶でもなんでも、あなたは魔力干渉できると聞いてるわっ。それなら、先に干渉されておけば」


 ふっ…皆まで言わずともわかりますとも。

 干渉させておけば敵に干渉されることはないということね。おまかせをっ。

 そして私はここぞとばかりに気合一発、広範囲の人間に向けて(イメージで)魔力干渉を発動させた。





「「「はぁぁぁぁぁんっ」」」


「「「うぅぅぅぅ…あぁっ」」」





 なぜか周りから上がる悩ましい声、声、声!


「お色気大会でしゅか?」 


 皆が一斉に声をあげたので、驚きのあまり私は出遅れてしまったようだ…。


 とりあえず心の中で「むはぁん」と悩ましい(?)声をあげ、一応参加した気分だ。

 

「しょれとも~…美味しくいただいてくだしゃいモードでしゅか?」


 目の前で蹲ったアルフレッドに、ウネウネと触手を怪しく動かしながら声をかけると、彼は眉根を寄せて苦しげな表情を作り、脂汗を浮かべて息を荒げながら告げた。


「ぬかった…以前味わったのは魔力干渉じゃなくて、シャナ味の魔力を吸い取っただけだった…干渉はこんなダメージがっ」


「そ…そうねっ…ぬかったわね。先生の魔力干渉はこんなじゃなかったものっ」


 何故かシャンティまでゼィゼィ言いながら同意し、オリンもコクコクと頷く。


「なんでしゅか。意味が分かりましぇんよ?」


 首を傾げる私をシャンティは睨み据え、蹲る他の人々を指さして言った。


「全員興奮状態なの! 媚薬よ媚薬! あんたの魔力はエロいのよ!」


「いひゃひゃひゃひゃっ」


 笑ってはおりませんよ…。

 シャンティに勢いよくほっぺたを引っ張られたのだ。それも渾身の力で。

 

「幼児虐待でしゅっ」


 「はうんっ」と声を上げてシャンティが手を離すと、私は頬をさすり膨れた。


「幼児…虐待っ…イイ響き…はぅっ」


 うぉぉぉぉぉっ…何やらどこかで誰かが幼児虐待という言葉で萌えた気配がしたっ。

 身の危険を感じてぞわぞわするっ。

 

 クラゲ姿でブルルルルっと一瞬震えた。


「と、とにかく…これで敵の魔力干渉は防げたはず・・んっ」


 私に魔力干渉するよう提案した生徒は、そこまで言ってやはりガクリと膝をつく。


「動けねぇんじゃ意味がねぇだろっ…はぁっ…」


 お、アルフレッドは少し持ち直したようだ。

 息を大きく吐きながら立ち上がるが、やはり肩で息をし、時折ぴくぴくと体が動く。


 この魔力干渉、自分の魔力を自分に流し込んでも全く発動しないので、試すことができないのが残念だ。

 一度でいいからその謎の…と言っても自分の魔力だけれど、魔力干渉を試してみたいものだ。


「そんなにすごいんでしゅか?」


 思わず触手でシャンティの背中をすっと撫でてみる。


「ひゃあああんっ」


「にゃんと悩ましい声!」


 彼等の興奮とは別の興奮で私の目は輝く。


 シャンティは怒りと羞恥で顔を真っ赤にし、私はそれを無視して目をギランッとさせ、アルフレッドとオリンを見た。


 二人はじりじりと後退していく。


「なんでしゅか、逃げることはないでしゅよ。おねーしゃんにすべて任せなしゃい」


「その目が僕達を弄り倒したいと訴えてる!」


 オリンが非難するように叫ぶと、私はジト目で彼等を見た。


「当たり前ではないでしゅか。若紫達の悶える姿を見るのも光源氏のお役目なのでしゅよ」


「「何の話!?」」


「源氏物語でしゅ~っ」


 私は触手を伸ばして彼等に襲いかかり、アルフレッド達は驚異の身体能力でそこから逃げる、避ける、転がる!


 こんなところにも戦闘訓練の成果が?

 なんて思わず呆然と見つめていると、アルフレッドが身動きの取れない者達の背を叩いて回った。


「皆この感覚に耐えて逃げろ! でないとシャナの餌食になるぞ!」


 アルフレッドの叫びに生徒達が気合を入れて立ち上がり、バタバタと走りだす。

 なぜそこで気合を入れるのだ。

 

「まったくもって失敬でしゅね~。でしゅが、そう来るならば…面白いでしゅ…。緊急事態でしゅが…鬼さんこちらとまいりましょうか!」


 「うふふ~。つかまえてごらんなさ~い」「まてよ~」の世界!

 現実はもっと殺伐としているけれど。


 バタバタと走り去る町の人々と学生の背中を見つめ、私はにんまりとほほ笑む。

 近づいてきているかもしれない敵、はとりあえず今は姿も見えないので置いておいて…

 

「むふふふふふふ。逃げ惑うがよい人間よ・・今すぐこの触手の餌食にしてくれりゅわ~っ」


 魔族、もしくは例の王様が来ているのかもしれないが、欲望に忠実な私は、触手を唸らせながら、逃げる子兎ちゃん達を追い、捕まえることに専念することにした。


 向かうのは避難所である学園。


 さぁ、何人の悩ましい声が聞けるかしらん?


「ぐふふふふふふふ」


町人女 「きゃああああっ」

町人男 「うわああああっ」


逃げ惑う人々…

そして、その後ろにはうねる触手をもった白い不気味な生き物が!


シャナ「パニック映画のようでしゅ」


にゅるんっと触手が足の遅いお嬢さんを絡め取り


町娘 「あぁぁぁぁんっ」


気絶した。

だが、幸いなことに触手は物を運ぶ力が強いらしい。そのままぐるぐると触手で娘さんを巻き、シャナは次の獲物へ・・。


もはや…クラゲというよりエイリアンであった…。


シャナ「ちっけいな!」

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