103話 対魔力干渉用生物
さて、口にはまだおかずが入っているけれど、肝心の戦闘状況を見て見よう!
「アルバート! レオノーラをくれないか!」
・・・・・・
・・・・
ディアス、急いで外に出たと思ったらこの時とばかりに父様に娘さんをください宣言していたよ。
「100年早い!」
しかし父様、そこはディアスの願いを退けて剣ごとディアスを吹き飛ばした!
「ぐぅっ」
見た目にはただ吹き飛んでいるように見えるが、吹き飛んだ後、ディアスがしきりに剣を持っていた方の手首を振っている所を見ると、どうやら痺れているようだ。
どれだけ馬鹿力なのだ父様。
ノルディークとアルディスはなにがしかの礼儀を守っているのか、魔法は極力使っていない。
使ったとしても、父様の足元に落とし穴を出現させるとか、頭上に金タライを召喚するとか、どこぞのコントのようなことしかしていない。
やる気はあるのだろうか…?
一番まともなのはハーンだ。
彼は少し大きめの大剣を手に父様に切り込み、甲高い金属音を辺りに響かせる。
父様もハーンと打ち合う瞬間だけ笑みを浮かべ、足を動かしているのがわかる。
「ハーンの剣は重そうだ…」
私の隣でお茶を飲みながら、ヘイムダールは感心している。
私にわかるのはハーンの時のみ父様が立ち位置から動くということだけだが、ヘイムダールや兄様、リアナシアおばあ様、それに元冒険者の母様には彼等の実力差がわかるようだ。
「ディアス兄様は勝てるかしら」
姉様、心配しすぎてディアスの嫁に下さい宣言に気が付いていないっ。ディアスも不憫な…。
でも、応援はしませんよ。姉様は私のモノですからねっ。
「あぁっ」
姉様が小さく悲鳴を上げた瞬間、ディアス、ノルディーク、アルディスが思いきり宙に吹っ飛ばされた。
面白いぐらい三人とも同時に吹き飛ばされ、堪えたのはハーンだけだ。
父様はまさに黒いオーラを身に纏い、シュコォ~シュコォ~と息を吐き出しそうな雰囲気である。
どこかで見た悪の帝王みたいね・・・。
「父しゃまがんばれ~っ」
日頃あの男達には遊ばれている気がするので、ここぞとばかりに父様を応援しておく。
すると
「シャナは後で説教!」
「にゃんでしゅとー!」
流れ弾が当たりました!
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1時間ほど経ったろうか、ようやく庭は静けさを取り戻した。が、その姿は原形をとどめていない。
「皆でちゃんとお片付けして下さいな」
日頃の鬱憤を晴らしてスッキリした父様に、にっこり微笑んで告げたのは我らが母様だ。
庭の惨状を見て額に青筋が立っているように見えるのはきっと気のせいではないだろう。
父様以下、ボロボロの男達がサカサカと庭の片づけをはじめだした。
「うぉっ、もう魔族の襲撃にあったの!?」
朝食も終わり、男達の片づけを見ながらゆったりお茶を飲んでいると、ボロボロの庭の向こう側から声がして私達の視線はそちらに向いた。
そこにいたのは、庭の惨状に目を丸くする我が悪友、爆発ウェーブヘアのシャンティ、筋肉質アルフレッド、そばかすオリン、それから第二王子ルインだ。
ルインは王子様なのに暇なのか…?
「うぉっ、て…シャンティ、だんだん男っぽくなりましゅね。誰の影響でしゅか」
4人を出迎えた私は、じぃぃっとアルフレッドを見上げた。
「俺じゃなくてお前だと思うんだがな」
「同感」
アルフレッドに続いてオリンまでもが私を犯人にするとは失敬な。
とまぁ、それはともかく、またディアスとヘイムダールに魔法の特訓をしてもらいに来たのかと問えば、4人は首を横に振り、オリンが小さな箱を掌に乗せて差し出した。
プレゼント?
ではなさそうだ。心なし悪友達の顔がにやついている所を見ると、この箱を開けたら何か恐ろしいことが起きるような…。
私は出そうとした手をひっこめ、ヘイムダールに視線でお願いした。
「魔力干渉を受けてるシャナの方が適任なのに」
シャンティのぼやきは無視しておく。
絶対嫌な予感がするから。
「そう言うならヘイン君に魔力干渉しましゅよ。それならいいでしゅかね?」
ワキワキと手を動かすと、ぎくりとしたヘイムダールはさっと箱を手に取り、蓋を開けた。
「あぁ・・ひょっとして専門科の子供達が言っていた魔力干渉を発見するモノ?」
ヘイムダールは背が高いので椅子の上に乗っても箱の中身が見えませんっ。
シャンティ達は頷く。
「はい。会議?の時に報告したものの改良版だと伝えてほしいと言われました。吸引してくれて、相手の魔力を自分の魔力に変換することもできる様になったそうです。ただ、一つだけ問題があって…やっぱり見た目が…」
一体どんな見た目なのかと、椅子の上でにょっきにょっきと背を伸ばしてみるのだが、やはり見えない。
こうなればヘイムダールの背中をよじ登って! と思い立った瞬間、ぐるりと振り返られて私は一歩出遅れた。
「シャナ、できるだけ魔力を抑えるイメージで俺に魔力を送ってみてくれるか?」
少し腰を曲げたヘイムダールに私は頷きつつ箱に目をやったが、箱はヘイムダールの手で蓋をされていてやはり中身が見えなかった。
きっとこれは最後のお楽しみとかそういう感じなのだと思う…。
でも、このお楽しみ、なぜか背筋がゾクゾクして、全身の毛がこう・・ぶわぁっと逆立つような…とにかく嫌な予感しかしないお楽しみだ。
見たくない、けれど隠されてしまうと見たいと思うのが人間だ。
「いきましゅよ~」
そろそろと手を伸ばし、むむむぅ~と眉根を寄せて魔力を送り込む。ちなみに魔力は抑え込んでいるイメージだ。
イメージなので効果はどうかと問われると、実は全くない。
ただイメージで動きだけ遅くしてみました! というやつだ。
「ちょっ…待てっ…相変わらず…無駄に魔力が…うっ…あぁっ」
悩ましげな声はイカンですナ。
メイドさんとシャンティが耳をダンボにして目を輝かせている。
とりあえず魔力を送るのをやめ、魔力を抑えるイメージであるスローモーションの動きはそのままに、椅子の上で「はちょ~っ」と太極拳的な動きをしてみた。
意味はない。が、メイドさん達はリスの太極拳に萌えた様で悶えている。
おおむね好評?
「うっ!」
ヘイムダールが突然小さな叫びをあげ、箱から手を離した。それと同時に箱はコロコロと床を転がったが、中身は空だ。
おんや? 中身はどこ行った?
箱を持っていたヘイムダールに目をやれば、彼の手に何やら黒い物体が…。
それは、ごっきゅんごっきゅんと奇妙な音を立て、少しずつ大きくなっていく…。
その姿は、まるでヒルのようで…
ヒル…?
「みぎゃあああああああ! 虫ぃぃぃぃぃ!」
私が悲鳴をあげると、ヒルらしき生き物は、ティッシュ箱サイズまで大きくなったところで、私に飛び掛かってきた。
「にょああああ!」
ベチンッ!
アタックしました。
ヒルはべしょっと床に叩きつけられると、そのまましゅうしゅうと音を立てて青色の煙をだし、消え去った。
何あの気持ち悪い物体!!
「だ、だれでしゅか、あんな気持ちの悪いもの生み出したのはっ。断固抗議しましゅよ!」
ぜーはーと肩で息をする私に、シャンティはうんうんと頷き答える。
「あの虫の名は吸い取る君3号。魔力干渉の魔力にのみ反応する優れた生き物です。彼等は被害者の肌から直接魔力を吸い取るので、主に顔面に取り付き、あのように巨大化して最終的に破裂します。そこから出た青い煙を吸い込むと、魔力を自分のモノにできるそうですよ」
シャンティさん無表情に報告するの止めてくれませんかね…。
「ちなみに、見た目がアレだが、性質的には吸い付いて離れないから、名前候補に『シャナ』というのを押しておいた」
アルフレッドの言葉に私は目をむく。
「ぬぁんでしゅと!?」
「今の所最有力候補だよ。対魔族の画期的な新生物。その名はシャナ! 素敵だろう?」
オリンがうんうん頷いた後、私はぶわっと自分の魔力が膨れ上がるのを感じた。
「人の名前を不気味生物につけるでないでしゅ~!!」
その叫びと共に、私の魔力は瞬間的に爆発。
父様達の戦いでズタボロの庭は・・・・
「まぁ、庭がキレイになったわ」
更地になりました。
その姿に母様がにっこり。
ちなみに、修繕作業をしていた男達がそこに転がっていたのは
・・・・見なかったことにする!




