101話 男達の戦い…
ふっと体が軽くなった…と思った瞬間、私の体はハーンの腕の中からすっぽりと抜け、目の前には壁が!
「がふぅっ!」
びたんっ!
という激しい音と共に私…現代に帰還。
壁に激突する前に見えたのは懐かしの青の館の玄関の壁だったので間違いなだろう。
「シャナ! ハーン!」
ずりりりり~と壁を垂直にずり落ちる私は、壁に当たっている体の面積の感触から行くと再び幼児だ…。
ナゼに??
バタバタと足音が近づき、私の背後でピタリと止まる。
「初転移したとクラウから連絡が入った…けど…シャナ、えぇと…無事?」
垂直はさすがにファンタジーな世界でも無理があったようで、私はぼちょっと床に落ちると、うつ伏せになり、そのまましばらく動けずにいた。
半分は痛みだが、半分はノルディーク、アルディス、ハーンのせいだ!
顔を上げ、三人をぎろりと睨むと、三人は目を逸らした。
思い当るのでしょう!?
「この服は??」
ノルディークは誤魔化すように私を抱き起す。その姿はなぜか出会った頃と同じ10才前後の子供だ。
「ちびハーンに続き、ショタノルしゃーん」
久しぶりの子供姿に思わずその首に腕を回し、スリスリ胸に甘えるのは忘れない。
人目と私の体力があればひん剥いて戴くのに!
なぜ彼が子供のままなのか? これは後から聞いた話だけれど、それは、私を喜ばせるため! ではなく、会議で顔を合わせた王族や貴族が、突然押しかけてくるということがあったからだったらしい。
鼻息荒くむふむふ言っていると、ノルディークがにっこりと黒い笑顔を浮かべた。
あ、何の質問でしたかね? ・・・そうそう、服でした。
私は25年前の過去で着て、現在ダボダボで体に引っかかっていると言った様子の洋服を見て、どう説明すべきかと首を傾げた。
「魔力の残滓が濃いな。魔族と交戦したと言っていたがそのせいか?」
ディアスも現れて私の服に注目する。
服だけでそんなことがわかるとは…よもやあれやこれやまでばれたりしていないだろうかとわずかばかり浮気した人間のような心境(想像)になりつつ、ドキドキしてきょろきょろと辺りを見回し、不審人物を演じていると、足元にケルベロスが近づいてきた。
小さな仔わんこはなぜかパンダの着ぐるみ服を着ている。しかもフードはちゃんと三つついていて、どの頭もきちんと被っているではないか!
何とカワユイわんこかっ…
『…ハーンの臭いが濃いな。交尾したか?』
中身はかわゆくなかった・・・
ドダダダダ ズガシャン!
激しい音がして振り返ると、父様が階段を…何段踏み外したのかは知らないけれど、一番下まで落ちていた。
共に階段を下りてきていた母様、姉様、兄様が目を丸くし、リアナシアおばあ様が苦笑している。
私は父様をじっと見つめるが、床とキスしたままなかなか起き上がってこない。
「あれはシャナの体だったが半分近く佐奈だったな。なかなか可愛かったぞ」
ハーンはにやりと笑みを浮かべて私を見る。
余計な情報を漏らすなー!
心でハーンに怒鳴りつつ、顔は思い出し笑いを浮かべる。
「むふっむふっぐふふっ」
ノルディークの腕の中で悶える私を見下ろし、ノルディークの目がすっと細められた。
「へぇ…ハーンは幼児も相手に?」
ノルディークからブリザードが!
これには私もかちりと固まり、口を閉ざすことにした。
一方、ハーンはというと、まるで挑発するようににやにやと笑みを浮かべて応える。
「あちらではまる一日と半日あった。その間に大人になったシャナは喰った。あぁ、中身もなかなか良かったぞ」
中身って佐奈のことよね!? 怪しい言い方してるけど佐奈のことよねっ?
「中身は先に戴いたので知ってますよ」
やはり誤解を受けました! 佐奈のことですよ!
…まぁ、別の意味の中身でも間違いじゃないけど。
バチバチと頭上で火花が散る。すると、その間にスラリと銀の輝きが現れた。
二人の間にスッと割り込んだ銀の輝き、それは…剣だ。
だが、なぜいきなり剣?
ノルディークもハーンも抜いた様子はない。だったら誰がと剣に視線を走らせれば、それを持っていたのは、ノルディークよりも黒い…
「お前達、少々顔を貸してもらおうか」
「父しゃま!?」
ノルディークよりも黒いオーラを発する父様だった!
さすがにこれにはノルディークの笑みが凍りついたようだ。
私は巻き込まれないようにおぶおぶと手を動かし、ディアスに抱っこを求めた。
「シャナ、まさかディアスも?」
父様が訝しげに目を細めると、ディアスが「ありえん」と反論し、私は首を横に振ってちゃんと事実通りに三人を指さす。
「ノルしゃん、アルしゃん、ハーンでしゅよ。今の所」
しっかり懲らしめてくださいな。と動けぬ腹いせに私は仲間を売った!
「よぉく分かった…」
父様が彼等の間にかざしていた剣をすっと引くと、そのタイミングで階段を降り切った母様がにっこりほほ笑んだ。
「外でやって下さいなあなた」
父様は頷き、三人の男は強制連行だ。
「あらあら。あの三人、うちの魔狼相手に生き残れるかしらねぇ」
リアナシアおばあ様がころころと笑うが、私や姉様は普段の穏やかな父様か、最近のちょっとお間抜けな父様しか知らないので、その辺りは疑問だ。
父様って魔狼だから…やはり強いんだろうか?
「母様、父様はお強いのですか?」
姉様も疑問に思ったらしく首を傾げると、時々稽古してもらっている兄様が微妙な表情で空を仰ぐ。
そして、私を抱っこするディアスからはため息が漏れた。
「ノーラ、アルバートはああ見えて剣の腕だけは最強だぞ」
何気にひどいこと言ってませんかね・・・
「まぁ」
私も「まぁ」と驚きたいところだが、それは結果を見てからにしよう。
本当は見学に行きたかったが、動けぬ私はディアスに強制連行されることになった。
くっ…気になります。
しかし、あちらは父様にお任せして、こちらはこちらで何があったかを伝えることにした。
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「まぁ、ではハーン君の初恋だったのね?」
取り敢えず全部話し終えてふぅと一息つくと、母様が目を輝かせて喰い付いた。しかも魔族そっちのけの部分にだ。
「そう言っておりましゅたよ。罪な美少女でしゅね、私は」
むふふんと笑みを浮かべると、姉様が首を傾げる。
「ところで、最後の方の一夜の夢イベントって何かしら?」
おぉう、姉様、私が濁した大人な部分が聞きたいと!?
お望みならばその詳細を手取り足取り再現してあげても…むふふふふふ。
「ノーラはまだ知らなくていい。それより、ルアールの王が噛んでいると言ったな?」
ディアス、さらっと話題を変え、軌道修正しましたよ。でも、その顏に焦りが見えるのは慌てた証拠ですね。
ということは、まだ二人の関係は清いようだ。
とっくに関係を越えたと思っていたけれど・・・まぁ、良いことですね!
私はうんうん頷く。もちろんディアスの質問にではなく、姉様が清いことに対する頷きだったが、ディアスは私が返事をしたと思ったようだ。
「ナーシャ、ルアールの小僧に会ったことは?」
なぜリアナシアおばあ様に聞くのかと私は首を傾げる。
「…そういわれると、会ったことがないかしら。おかしいわねぇ」
何がおかしいのかと問えば、塔の主は各国の王が代替わりするとき、できるだけ塔の主全員と顔合わせをする様にしているそうだ。それは、今回の様に何か起きた時、塔も国も動きやすくするために各国の王が必ずすることなのだが、ここにきてディアスとリアナシアが会っていないという。
まぁ、時には塔の主の数人だけとしか顔を合わせていない王もいるにはいるのだが、リアナシアは全員と会うようにしているのだという。
「そもそも、ルアールの国王は代替わりを宣言していない」
ふと割り込んできた声に振り返ると、外に出ていたらしいヘイムダールがなぜか疲れた様子で現れた。
「庭がすごいことになってたんだけど…」
「訓練中だ」
「あの本気の戦いが!?」
ヘイムダールが驚き叫ぶ。
ぬあーっ! それはぜひ見たい。一体あの4人の戦いはどうなっているのだ!?
動けたら這ってでも行くのに!
あの三人のせいで動けぬこの身が恨めしい…。
「ヘイン、代替わりの宣言をしていないと言ったわね。どういうことかしら?」
リアナシアおばあ様が背筋を正し、真剣な表情で問うと、ヘイムダールの横にスッと影が降ってきた。
「それは私が説明いたしましょう」
現れたのは、第6騎士団所属。茶色の髪に蒼い瞳の、ストーカー騎士セアン・マッケイだった。
シャナ 「外はどちらが優勢でしゅた!?」
ヘイン君「アルバートかな。あぁ、でもハーンも強かった」
シャナ 「外に…」
ディアス「話が全部終わってからだ」
シャナ 「ぬおおおおっ 私を悶えさせてどうするつもりでしゅかディアス!?」
ディアス「誤解を生むような発言をするなっ」
セアン 「…話を進めても?」
ナーシャ「えぇ、大丈夫よ」
…大丈夫だろうか?と怪しむセアンであった…。




