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アンデッドパーティー

続きです。

「くっそ・・・・・・あいつどこ行きやがった!?」


 それはあまりにも一瞬の出来事だった。

一陣の風が通り過ぎる内に、鮮やかに軽やかに二人を攫って行った。

キノコのくせに。


「落ち着いて、ダン。これだけぬかるんだ地面だ・・・・・・足跡はくっきり残ってる」


 プルームは幾分か冷静に状況を分析するが、その内心はかなり焦っていることを俺は分かっている。

いったい何年このパーティのリーダーをしてるのかって話だ。


「ふぅ、悪い。俺がこれじゃいけないな。あの二人も戦えないわけじゃないし、コーラルに関してはもう昔のコーラルじゃない。そんなに心配無いはずだ。だから俺たちは・・・・・・」


 着実に、一歩ずつ。

あのキノコの痕跡を辿って行こう。


 キノコほど身軽じゃないし、ここの地形への理解度も低いので小走りで足跡を追う。

幸いなことに人が滅多に近づくような場所じゃないようで、あるのはキノコの丸い足跡だけだ。


 コーラルも戦いを理解してきているし、シュルームはキノコの専門家。

何故あの二人が攫われるに至ったのかは分からないが、二人ならきっと上手くやれるはずだ。

あの変異体との戦いを経た今、コーラルの実力に疑いはない。

ただ、それでも懸念点はある。

それは・・・・・・。


「・・・・・・」


 俺の数歩後ろを走るプルームの様子を窺う。

その面持ちは真剣そのものの無表情だが、口元はうっすら焦りに歪んでいた。


 今俺が心配なのは、むしろプルームの方。

プルームはコードの性質上、あまり無理をさせたくないのだ。

このパーティの回復役を担っているシュルームが誘拐された状況では尚更。

しかし・・・・・・プルームは無理を厭わない性格だ。


 昔からそう。

仲間のためなら自分なんかどうなったっていいと思っている。

自己犠牲なんて言葉で飾れば、その様はまるでヒーローのようだが・・・・・・その実その犠牲を俺たちがどのように受け止めるかに酷く無頓着なのだ。

あるいは・・・・・・プルームが自らを犠牲にすることに対して、俺たちが何も思っていないとすら考えている節がある。

俺だってこれでもリーダーなもんで、仲間をちゃんと見てるんだ。


「プルーム。今はシュルームが居ないんだ。くれぐれも無茶はするなよ」

「分かってるよ、リーダー」


 分かってないな・・・・・・。


 このまま二人の居所に辿り着けるまで何事も起こらなければいい。

そうなれば俺の心配も杞憂に終わるだろう。

無事に追いつき、二人を奪還する。

それが理想的だ。

だが、そういった理想は・・・・・・往々にして実現されない。


「・・・・・・くそ」


 シュルームが落としていったランプの明かりが、行く手に転がる“それ”の姿を映し出す。

その醜悪なものの存在に、俺とプルームは表情を歪めた。


「これは・・・・・・」


 洞窟の壁にもたれかかるように倒れている、誰かの亡骸。

それがいつのものかなんて分からない。

ただ・・・・・・それがただの亡骸でないことは分かっていた。


 死体は四つ。

丁度・・・・・・一般的なパーティフルメンバーの人数だ。

それぞれバラバラのポーズで倒れている。


 腐敗した肉体の内側から骨が覗き、その骨に絡みつくように血管だか神経だかが走っている。

そして全ての死体は、内部から成長していったであろう薄紫色の結晶が皮膚や鎧を突き破って露出していた。


 これはもう人ではない。

人としてはとうに終わり、その体躯はプラヌラに侵され・・・・・・魔物と化していた。


 肉の水っぽい音と、骨が軋む耳障りな音。

魔物たちは人体の構造を無視して、その遺体を冒涜するように立ち上がる。

頭部が頭部として機能していないため、その視線がこちらに向くことはない。

だが間違いなく、俺たちを“見て”いた。


 この場合、俺に出来ることはなんだろうか。

プルームと二人で、この・・・・・・いわばアンデッドたちを蹴散らして盛大に葬儀をしてやってもいい。

だが、その場合・・・・・・プルームはどうなる?


 今、プルームの耳元では時限爆弾のカウントダウンの音が鳴っているのと同義だ。

時間をかければかけるほど、コーラルたちが死に近づいていくと感じている。

ここで今死体など見てしまったのだから、そのカウントダウンはますます早まっているだろう。


 そんな状況で、プルームが何をするかと言えば・・・・・・答えは明白だった。


 ここのところ全くリーダーらしいところを見せていなかった。

だが、ならばここらでそろそろリーダーらしいことをさせてもらおう。


 よろめくようにしてこちらに迫ってくる魔物を前に、自慢の盾を構える。

そして背後のプルームに告げた。


「プルーム、お前は行け。二人を助けに」

「えっ・・・・・・?」

「いいから! 行け! 俺ならこんな奴らなんでもないこと分かるだろ? それよか・・・・・・お前は先を急ぎたいはずだ。違うか?」


 顔だけで振り返って、プルームの瞳を真っ直ぐに覗き込む。

プルームはこういう・・・・・・“お願い”に弱いことも承知している。

だって俺は、このパーティのリーダーだから。


 プルームが静かに頷く。

そうして俺がこれ見よがしに突き出した腰に引っ掛けてあったランプをひったくるように取る。


「いいかぁ・・・・・・プルーム! タイミング逃すんじゃねぇぞ!」

「分かってる・・・・・・!!」


 今度は、ちゃんと分かってる返事だった。


 道中の危機も避けられるように、いつもより強めに挑発効果を使う。

本気の本気だ。

これでどの程度の範囲に俺の力が及ぶかは分からない。


 ただこの周辺にいる魔物は、俺の存在を感じ取ったはずだ。

もしかしたらあのキノコ野郎も二人をほっぽり出してくるかもしれない。


 だから、プルーム・・・・・・お前は迷わず走れ。


 迫ってきたアンデッドを槍で薙ぎ払う。

そうして、プルームの道を切り開く。


 プルームは俺の後ろからするりと抜け出して、体勢を崩したアンデッドの隙間を走り抜けて行った。


 アンデッドたちはそのプルームには目もくれない。

当然だ。

俺を見てもらわなきゃ困る。


 あいつばっか女の子にチヤホヤされるのは癪だし、こちとら失恋中の身だ。

このままここで、魔物と乱痴気騒ぎに興じてやろうじゃないか。

続きます。

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