キノコ男との再会
続きです。
「よっ、と・・・・・・」
菌糸の森。
そこには元々様々な洞窟が点在している。
それが昨日のモグラくんのせいであちこち崩れたり繋がっていたりした。
とにかく、ここで洞窟の入り口を見つけるのはそんなに難しいことじゃない。
わたしたちは早速、地下空洞に繋がる洞穴に足を踏み入れていた。
シュルームが取り出した携行ランプが、静かな暗闇をぼんやり照らす。
足元の土は水分を多量に含みぬかるんでいた。
「気をつけてください。視界も悪いですから・・・・・・」
風の通り道が少なく、あまり空気が循環しない。
それなのに不思議と空気が澱んでいるような感じはしなかった。
「う・・・・・・ちょっと寒いかも・・・・・・」
普通に気温は暖かかったから薄着で出てきてしまったが、洞窟の中の空気は冷たい。
普段は気にしないような衣服と肌の間にある空間、その隙間に入り込む空気に鳥肌が立った。
ダンは恐る恐るといった感じに身をかがめ、プルームは視線を鋭くして辺りを見回す。
わたしとシュルームは、それに比べたら幾分無警戒に歩いていた。
シュルームの足並みに合わせてランプの灯りが揺れ、その滲むような光が進路に伸びる。
冷たく湿った地面にはキノコらしい姿は見えない。
まぁ地面に生えてるキノコを探してるわけじゃないんだけど・・・・・・。
「ふむ・・・・・・」
シュルームも少し難しそうな表情を浮かべて顎を撫でる。
「こは少し・・・・・・なんというか、水浸しって感じですね・・・・・・。過ぎたるは猶及ばざるが如し、キノコの生育には適していません・・・・・・これでは・・・・・・」
そうシュルームが言いかけたときだった。
「待て! 何か近づいてくる!!」
一番後ろから、プルームの声が響き渡る。
その声の反響が止むと、ベチャッベチャッとぬかるんだ地面を踏み締める音が聞こえてくる。
テンポからして走っている。
「待って・・・・・・どこから来る? っていうか何が・・・・・・?」
一気に警戒心が跳ね上がり、身をかがめる。
どこからその音が近づいてきているのか、それが洞窟の反響のせいで分からない。
「くっ・・・・・・」
他に打てる手もなく、ダンが後方で盾を構え守りを固める。
音が徐々に近づいてくるが、その音は・・・・・・。
「後ろからだ!」
「よしっ!!」
後ろからなら好都合。
何が来ていたとしてもダンが受け止めてくれる。
例え殺意を持った何者かの接近であっても、それはダンに引きつけられるだろう。
足音の接近に緊張感が増す。
そして暗闇の中から姿を現すのは・・・・・・。
「えっ、は・・・・・・キノコ!?」
例のキノコ男だった。
その容姿に意表を突かれる形で、ダンの防御が緩む。
しかしキノコ男の疾走は衝突を恐れることなく、緩まない。
その結果・・・・・・。
「お、のわっ・・・・・・!?」
「ダン! 何やって・・・・・・ちょっ・・・・・・!?」
ダンの防御が捲られる。
そこから飛び出してきたキノコ男の勢いにプルームさえ、狼狽え対処できなくなってしまう。
走る人間大のキノコというのは、それだけ衝撃的なのだろう。
だが、わたしとシュルームは既に一度その姿を見ている。
それにダンたちの失態を目の前で見ているわたしたちには、既にキノコ男に対処するだけの余裕があった。
だからなんの問題も・・・・・・。
「あっ・・・・・・」
ガシっと、胴体を小脇に抱えられる。
てっきりなんらかの攻撃がくると思っていただけに、意外な動作に対処できなかった。
そしてシュルームも。
「あ・・・・・・」
わたしの二の舞である。
というか、シュルームはおそらくキノコ男の体に傷をつけたくないと考え、わざと手を出さなかった。
かと言ってわたしと同じように捕まったのは予想外のようだったけど。
「ちょ、ちょっと待ってください? なんでわたしたちだけっ!? りぃだぁたちはガン無視だったじゃないですか!?」
「こんのっ、はなせっ・・・・・・!!」
わたしたちを抱えたまま走り抜けるキノコ男に刃を突き立てようとするが、躊躇う。
わたしが一撃でも攻撃してしまえば、このキノコ男は死に向かって一直線だろう。
それは・・・・・・シュルームが望まないはずだ。
キノコ男の足は相変わらず早く、ダンたちを置いて瞬く間に駆け抜けてしまう。
わたしたちも、そうやって強制的に見知らぬ場所へ運ばれていく。
とりあえず・・・・・・今はもうちょっと安定する姿勢で、もうちょっとゆっくり走って欲しかった。
続きます。




