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モグラ魔物

続きです。

「どわぁっ!? こんのッ・・・・・・!!」


 土中から飛び出したそれに打ち上げられたダンが、空中で槍を構える。

その槍先が指すのは、巨大な・・・・・・おそらくモグラの魔物だった。


 プラヌラ結晶によって硬質化したスコップのような爪。

全身を覆う土に汚れた茶色い体毛。

まるで花弁のような形をした鼻先から退化した目にかけて、体内から露出した結晶で覆われていた。


 ダンの槍先が丁度その鼻先に命中する。

本来ならその鼻先は光の無い地中で活動するための感覚器官。

通常の生物なら弱点になるはずだ。

ところが相手は魔物。

サチの言ったように、魔物は痛がらない。


 結晶化しているとはいえダンの体重の自由落下による威力は凄まじく、槍は鼻先の一部を砕いた。

鮮血と結晶の破片が飛び散り、ダンは落下し地面を転がる。


 いきなりの接敵だったが、出だしとしてはまずまずだった。


「気をつけてください! 特別珍しい魔物でもありませんが、この個体のサイズははっきり言って異常です! もしかしたらここ一帯の地形が変わったのもこの魔物の影響かもしれません!」


 サチは注意を促しながらも、ちゃんとわたしたちが戦いやすいように後退する。

それとすれ違うようにプルームとシュルームは前に進み出て、魔物の次の動きに備えた。


「やれやれ、ちょっと病み上がりの慣らしにしちゃ・・・・・・ヘヴィじゃないか?」

「キノコの恨みっ!! 晴らさせてもらいますよ!」


 プルームはシュルームより数歩前へ。

シュルームは憎々しげな形相でリュックから自前の薬瓶を両手いっぱいに取り出した。


「いいか? プルーム! お前はまず安全第一だ! 無茶すんなよな!」

「分かってる!」

「シュルーム! お前はいつも通り後方支援を! 森だから火はエヌジーな!」

「そんなこと分かってますよ、りぃだぁ!」


 ダンは先頭で盾を構えながら、メンバーそれぞれに指示を出す。

そして最後にわたしに視線を向け・・・・・・。


「コーラル、は・・・・・・」

「大丈夫、心配しないで。もう昔のわたしとは違うから」

「そ、そうか・・・・・・。なら・・・・・・任せたぞ・・・・・・」


 ダンのパーティははっきり言ってバランスが悪い。

あろうことか素直に直接攻撃できるのが、よりにもよってタンクのダンだけだったのだ。

プルームは本領発揮するには条件付きで、シュルームは自らの調合した薬品での妨害が戦闘での主な役目だ。

そしてわたしも・・・・・・まぁお察しということだったのだが、それも以前の話だ。


 魔物は砕けた鼻先から血液をしたたらせながら、ぐずぐずの足場を整えてこちらに向く。

その動きは緩慢・・・・・・と言うほど緩慢でもないが、少なくとも瞬発力のあるタイプではなさそうだ。

何よりこちとら変異体を超えてきたのだ。

今更このくらいの魔物、相手ではない。


 ダンのコードの影響か、あるいは初撃をダンに喰らわせられたせいかもしれないが、既に魔物の敵意はダンに向いている。


「ダンが攻撃を受けたら、わたしが仕掛ける」

「分かった・・・・・・」


 お互いに身を寄せ合い、魔物の攻撃を待った。


 そしてその瞬間はすぐに訪れる。

日の光に魔物の巨大に発達した爪がきらめく。

ダンはその一撃を受け止めるべく、やや不安定になった地面を踏み締め盾を掲げた。


 金属の塊同士が正面衝突するような激しい音が鳴り響く。

薄ら火花が飛び、直接攻撃を受けていないわたしにもズシンと重い衝撃が伝わってきた。

骨に伝わる痺れにも似たその振動を合図として、ダンのそばから駆け出す。

魔物はまだ衝撃を逃しきれてない。


「いける・・・・・・!」


 鈍い、遅い。

どうあっても魔物の動きは間に合わない。


 一気に毛だらけのその懐まで潜り込み、柔らかくなった土を精一杯蹴って逆手に持ち替えた剣を突き立てた。


「くっ・・・・・・」


 重たい感触。

まるで岩石に向かって刃を立てたような硬さ。

しかしわかる。

これは超えられない硬さじゃない。

岩じゃない。

あくまで岩のように硬い筋肉だ。

刃は・・・・・・。


「通るっ・・・・・・!」


 全ての力を一点に集中させた刺突攻撃。

それは毛皮の鎧を掻き分け、そして筋肉の繊維に潜り込む。

瞬間、抵抗が一気に薄れて刃が根本までささる。

柄を握ったわたしの拳が、魔物の胸の辺りをどんと叩いた。


 本来ならこんな一撃は致命的になり得ない。

臓器にまで到達しない短剣の一突きなど、かすり傷同然だ。

だが・・・・・・。


「すごい・・・・・・これがっ、積毒・・・・・・」


 木の影からこちらを見ていたサチが、目を見開く。

そのサチに向かって「ふふん」と、誇るような笑みを見せた。


「あ・・・・・・」

「おわぁっ・・・・・・!?」


 瞬間、体が浮かび上がる。

ドヤッてる場合じゃなかった。

魔物が体を起こし、わたしを振り落とそうとする。


 こうなってしまえば、ダンのコードによる挑発もあまり意味がない。

挑発とは言うが、タンクの相手の注意を引く能力は認識に作用するもの。

使われた側からすれば、ダンだけが馬鹿みたいにめちゃくちゃ光り輝いて、それ以外のわたしたちは半透明になるようなもの。

相手の怒りを誘っているわけじゃない。


 そしてそういった認識されづらくする能力というのは、まぁ現在進行形でブッ刺さってぶら下がってる人物には当然効果は薄いよねというハナシだ。

だって刺さってるんだもん。


 まぁつまり・・・・・・。


「のっ、うおっ・・・・・・!!」


 暴れる魔物の上半身に振り回されて、景色がぐるぐる回る。

遠心力によって、わたしの手は今にも剣から離れそうだ。

そしてこの勢いで飛ばされれば、少なくともまだしばらく療養が要るくらいの傷は間違いないだろう。

つまり、結構マズい。


「おい、シュルーム!」

「任せてください!!」


 下でダンがシュルームに向かって叫ぶ。

それにシュルームが嬉しそうに頷いて、薬瓶の一つを放った。

それは魔物の体にぶつかると砕け、ガラス片と中味のオレンジ色の粉塵を飛び散らせる。


「あ、あれ・・・・・・? 確かこの色・・・・・・」


 嫌な予感がする。

何から何まで知っているわけじゃないが、シュルームの作った薬でこの色・・・・・・しかも粉末状のものと言えば・・・・・・。


 外気と反応した粉塵が、激しい光と、それから熱をもって爆ぜる。

そう・・・・・・思った通り、これは爆薬だ。


 魔物の上半身がわたしもろとも炎に包まれる。

その爆発は巨石の衝突以上に激しい衝撃をもたらし、魔物を転倒させた。


「おいバカ! 火は禁止っつったろーが!」

「うるさいですねぇ。りぃだぁ・・・・・・勝ちゃいいんですよ勝ちゃ。それに・・・・・・ねちねちした攻撃じゃキノコの恨みは晴らせませんからねぇ」


 幸いこの爆発では周囲に被害は出なかった。

わたしはモロに食らったが。

魔物もまだ体勢を整えられてはいないようだ。

わたしはモロに食らったが。


「こんのっ・・・・・・!」


 起きあがろうと動き始めた魔物から剣を抜き、急いでその体から駆け降りる。

魔物の体自体が盾になって爆発を直接受けなかったため、こちらのダメージは少ない。

たぶんちゃんとシュルームの計算のうちなのだろう。

・・・・・・そうであってくれ。


 再び動き始めた魔物を見て、急いでダンの後ろに隠れる。

そしてシュルームに視線を向けて怨念を注いだ。


「あはは、いやはやどうも悪かったネ」

「後で同じ目に遭わせてやる・・・・・・!」

「こわぁ・・・・・・」


 さて、わたしが攻撃してから既に何秒経っただろうか。

それなりのダメージはもう入っている気がするが、どのくらいかという感覚はまだ掴めてない。


 魔物は口から粘ついた・・・・・・鮮血と呼ぶにはいささか黒っぽい血を垂らしながら、再びその爪を振るおうとする。

みんなその様子に再び身構える。

が・・・・・・。


「もう大丈夫ですよ」


 そこに身を隠していたサチが戻ってきた。


「あの魔物に次の一撃を繰り出すだけの時間はありません。実際に一部始終を見ると、さすがに恐ろしいまでの能力ですね・・・・・・積毒というのは・・・・・・」


 振り上げた魔物の爪は振り下ろされることはない。

この森には不釣り合いなくらいの巨体なそれは、よろめくようにして再び地に臥した。


「見てください。溢れる血液に結晶が混じってます。この進行度だと、どの道長くはなかったでしょうね・・・・・・」


 広がる血だまりのそばにしゃがんで、サチが言う。

サチの言う通り、その血液には砂つぶのような結晶がキラキラ日の光を跳ね返していた。


「こう見ると・・・・・・やっぱり病気なんだねって改めて思うよ・・・・・・」


 身近だが、恐ろしい。

プラヌラというものは本当に不思議だ。


「で、どうするよ・・・・・・コレ」


 先ほどの戦闘では結局出番の無かったプルームが、魔物の死体まで歩み寄る。


「持ち帰って食べるかい? ちょっと食材にするには・・・・・・処理が面倒くさそうなシロモノだけど・・・・・・」


 料理好きなだけあって、もう既に食材としての吟味が行われている。

魔物の死体を放置しておくというのも、他の生物たちにとってはよくないことなのでギルドの方ではできる限り持ち帰るように言われている。


「あ、食べるなら私もご一緒してよろしいですか? 私、魔物って食べたことなくて・・・・・・」

「なるほど。サチさんがそう言うなら、ボクが骨を折らない理由は無いね。というわけで・・・・・・シュルーム、よろしく頼むよ」

「えぇー・・・・・・わたしあんまりこういうのリュックに入れたくないんですけどぉ・・・・・・」


 渋るシュルームだが、もう拒否権は無いに等しい。


 文句を言いながらも、リュックの口を広げて魔物に押し当てる。

そして・・・・・・。


「消えた・・・・・・」

「消えましたね・・・・・・」

「消えたな・・・・・・」

「・・・・・・みんな今更何言ってんですか・・・・・・」


 相変わらずどういう仕組みになってるのかさっぱりだが、こうしてあの巨大な魔物はすっぽりリュックに収納されてしまう。

切り分けておかないと取り出す時もあのサイズで出て来るから「あ・・・・・・」とは思ったけど、めんどくさいからそれについては黙っておいた。

後で困れ、爆発の恨みだ。

続きます。

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