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森の変化

続きです。

 森の中。

一見したら静かで、どこにも危険など無いように思える。

しかし・・・・・・。


「気をつけてください。既に周囲には複数の魔物の気配があります。どれも特別危険な個体ではないですが、向こうはもう・・・・・・こちらに気づいていますよ」


 そう言いながらサチがさらに周囲に視線を走らせる。

大胆な説だがアナライザーはそもそも他のコード保有者とはまるで違う世界を見ている可能性があるという話をラヴィがしていたのを思い出す。

少なくとも今、わたしには見えていないものをサチが掴んでいるのは確かだった。


「こっちに襲いかかって来そうなの?」


 出来るだけダンの影に隠れるような位置取りをして、ついでに姿勢を低くしてサチに尋ねる。

それにサチは首を横に振った。


「少なくとも現段階では殺意は感じません。しかし油断は禁物ですよ。魔物には生物特有のいわば本能のようなものが欠如しています。痛みや死を恐れず、その行動原理は私たちの常識の通じるようなものじゃありません」

「・・・・・・って、言ってますけど・・・・・・それならサチ先頭じゃない方がいいんじゃないですか? 別にりぃだぁの後ろからでも道案内はできると思いますよ?」


 そう言ってサチの方を見るのはシュルーム。

シュルーム自身あまり積極的に戦闘に加わるタイプでもないし、彼女自身の経験上出た言葉なのだろう。


「それについては・・・・・・私はみなさんの目ですから。人の目は前についているものでしょう?」

「は、はぁ・・・・・・」

「それに、一時的とはいえ今の私たちの関係は仲間です。つまり・・・・・・私の身の安全については、みなさんを信じてるってことですよ。仲間は信じてみるもの、なんですよね?」


 サチはどこか満足気な表情を浮かべ、プルームに視線を送る。

プルームはその視線を受けて気まずそうに笑った。


「は、はは・・・・・・。実は、その・・・・・・その言葉、ダンの受け売りなんだよね・・・・・・」

「あっ、そうなんですか!?」

「あ、うん・・・・・・そ。だからボクの言葉みたいな感じ出されると・・・・・・その、本人がこの場にいる手前、非常に恥ずかしいのです・・・・・・」


 自信過剰でナルシスト。

そんなプルームにしては珍しく、きちんと恥ずかしそうに赤面する。

しかしまぁ・・・・・・なんだかんだでわたしたちもプルームの仲間に対する想いは伝わっているし、そんなに恥ずかしがることでもないような気がする。

少なくともわたしの前を歩くダンの背中はどこか誇らし気だ。


 しかし順調にキノコの群生地に向かっていた歩みは急に止まる。

他の何者でもない、先頭で案内役のサチが足を止めたからだ。


「どうしたのかい?」


 プルームがサチに並んで、その表情を窺う。

サチは周囲の景色に視線を何往復かさせてからプルームの言葉に答えた。


「これは・・・・・・地形がまるで変わっています・・・・・・。少し前から違和感はあったのですが、今確信に変わりました。プラヌラの不安定化と、あとはラヴィさんによって一帯が焼き払われた影響ですかね・・・・・・それによって環境が大きく変わっています。植生のみならず地形までもが・・・・・・」


 サチの言葉で進路の方に視線をやるが、そもそも以前の状態を全く覚えてないから全然わからない。

けれども、事実としてわたしでも分かることが一つある。


「それって・・・・・・キノコまでの道順が分かんないってこと!?」

「・・・・・・以前生えていた場所、と思われるところに行くことは難しくはないでしょうが、そこに生えているかは分からないですね。もっと言えば・・・・・・」


 サチが喋っているうちに、シュルームの顔がどんどん青ざめていく。

そして・・・・・・。


「もう・・・・・・もう例のキノコがこの森のどこにもないかもしれないってことですか!?!?」


 その表情は、変異体の魔物と遭遇したとき以上に絶望に満ちていた・・・・・・かもしれない。


「も、もちろん、まだそうと決まった訳ではありませんし・・・・・・! それに多少の環境の変化があったとしても元の場所と同じエリアにある可能性は高いはず・・・・・・」


 慌ててフォローを入れるサチだが、シュルームはみるみるうちに萎んでいく。


「いい。いいですよ、気遣わなくて・・・・・・。種類にもよるでしょうが・・・・・・キノコは極めて限定的な環境で育つって、わたしが一番よく分かってます・・・・・・。ちょうどサチが持ち帰ったサンプルを萎らせてしまったのと同じように、適切な環境でなければすぐにダメになってしまいます。地形が変化するくらいの変動、それもほんの数日のうちに起きた変動だとすると・・・・・・絶望的、でしょう・・・・・・」


 語っているうちに自分自身の言葉で勝手にダメージを受けて、どんどん声が小さくなっていく。

今のシュルームは風に吹かれただけでも崩れ去ってしまいそうだった。


 しかしそこに訪れるのは風ではない。


「ああもう・・・・・・どうしてこうも立て続けに!」


 何かを感じ取ったのか、サチが悪態をつきながらダンより後ろへ下がる。

ダンはそれを実質的な合図と受け取って、自前の巨大な盾を構えた。


「魔物です。迷いなくこちらへ向かって来てます! 現在の居場所は・・・・・・」


 あろうことか、サチは目を閉じてしまう。

普通のアナライザーなら絶対にしないことだ。

しかしサチの集中した表情から、サチが今現在も“見て”いるのだろうということは明らかだった。


「これは・・・・・・まさか!? 地中!? 加速した・・・・・・来ますっ!!」


 わたしたちの目には当然何も見えない。

しかしそれの接近は、森の土を踏む足の裏で感じ取ることが出来た。

振動、そして・・・・・・。


 土壌が緩み、周囲の樹木が斜めに傾く。

わたしの丁度真下、足元の土が盛り上がって・・・・・・。


「コーラル! どけ!」


 ダンがタックルでわたしを突き飛ばす。

その直後、土を吹き上げるようにして地中から巨大なシルエットが飛び出した。

続きます。

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