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菌糸の森へ、再び

続きです。

 ラヴィの家から戻り、わたしたちは再びダンの家に集まっていた。

みんなすっかり身支度は済ませて、ダンも久しぶりに重たそうな鎧を着込んでいる。

プルームとシュルームは軽装で、非戦闘員のサチは相変わらず制服のままだ。

わたしは、一応気休め程度に革製の防具を上に来ている。


「さて、じゃあこれから菌糸の森に向かうわけだが・・・・・・徒歩だぞ!」

「「ええ〜、徒歩ぉ〜・・・・・・?」」


 ダンの言葉にプルームとシュルームが隠そうともせず項垂れる。

まぁそれも無理のないことで、実際菌糸の森は微妙に遠い。


「ええい、文句を言うな! いいか? 今は変異体討伐の報酬である程度貯えがあるがな、もうあんなことは早々無いからな! だから無駄遣いするわけにはいかないんだ! 今回のは別に依頼でもないし、儲けは無いんだから」

「キノコがあるじゃないですかぁ〜・・・・・・」

「キノコって毒キノコだろ? そんなもん売ったって良い値はつきゃしねぇよ」

「はぁ〜、りぃだぁは分かってないですねぇ〜・・・・・・」


 シュルームがいくらゴネようと、ダンの意思は変わらないようだった。


 なんだかこうして一歩引いて見てみると、わたしが居たこのパーティって、変な人の集まりだったんだな、と思う。

たぶんその変な人って言葉は少なからずわたしにも当てはまるのだろう。

まぁ悪い気はしないけど・・・・・・間違いなくいいことでもない。


「いいですかりぃだぁ! 毒も薬も同じですよ! どんなキノコにも必ず・・・・・・とは言いません、使い道があります! それに・・・・・・サチが見つけたってキノコは酩酊作用があるって話だったじゃないですか! これ絶対なんか使えますよ!」

「麻薬じゃねぇか!!」

「別にちょっと酔ってきもちーくらいなら全然市場に出せるじゃないですか!」

「その程度の作用だったら菌糸の森のヌシなんていう幻想を生み出してねーわ!!」


 まだ何やら言い合いを続けている二人を見て、サチが強張った苦笑いを浮かべる。


「はは、まぁ気にすることはないさ」

「え・・・・・・ぁ、は、はい・・・・・・」


 そうして唖然としていたサチの手を引いて、プルームが一足先に家から出てしまう。

まぁ確かに・・・・・・いずれにしろ歩きでいくなら二人の言い合いは時間の無駄でしかない。


「はぁ、やれやれ・・・・・・。わたしも成長したってことかな・・・・・・」


 少なくとも、昔のわたしだったらシュルームに加勢して同じように文句を言ってただろう。

二人は・・・・・・まぁ好きでああやって言い合ってるから、そんなに気にすることもない。


「じゃ、お先〜・・・・・・」


 わたしもプルームとサチと同じように、二人を残して家を出た。


 少し先の方を歩くプルームたちの背中に駆け寄り、一緒に街の外を目指す。


「あ、えと・・・・・・コーラルさん、お二人は?」

「だいじょぶだいじょぶ、すぐ来るよ」


 こちらに振り向いたサチの言葉に答えながら、まだ日の高い空を見る。

キノコ狩りに、サチによるわたしの情報収集。

やることはそんなに多くはないが、まぁ今からだと丸一日かかってしまうだろう。


 背後からはやっと家を出て来たダンたちが、小走りで合流して来る。

街の大通りに面したダンの家。

ギルドまでの距離も、街の外までの距離も短い。

こうして全員が揃って歩き出す頃には、もう街の外への門が目前だった。


 五人で乾いた土を踏み、風が地を撫でる草原に踏み出す。

昼どきなのもあって往来は多く、街の出入り口付近は賑やかだ。

因みにわたしたちのお昼ご飯はプルームが急ぎで作ったサンドイッチだ。

シュルームに持たせていて、タイミングを見て向こうで食べるか、道中食べながら向かうかする予定だ。


「その・・・・・・変異体の討伐以来、菌糸の森のプラヌラ活性が不安定になっているようですから、そこだけはみなさん気をつけてくださいね」


 街を出るなり、サチがみんなの顔色を確かめつつそう告げる。


「あ、それ・・・・・・ラヴィも言ってた」


 プラヌラの濃度やらが不安定になると、それだけ危険度は高くなる。

単純に、何が起こるか予測がつかなくなるからだ。

ちょっと変わった魔物が現れたり、不可解な現象が起こりやすくなる。

まぁでも・・・・・・。


「ちょっと危険かもくらいが丁度いいでしょ、わたしのコード診るなら」


 いくら危険度が上がったところで菌糸の森は菌糸の森だ。

変異体とか言う特例中の特例を除けば、そこまで致命的にはまずならない。


 森まで何十分、いや何時間かかるだろうか。

幸い今日の気温は暖かいので、こうしてみんなで歩くのは苦ではなかった。

まぁだからこそ、やっぱりラヴィも来ればよかったのになと思わずにはいられない。


 穏やかな風がわたしたちを包み込み、祝福するように髪の毛を撫でていく。

暖かな日差しは柔らかく肩を滑り落ち、土と草の匂いが爽やかに香る。


 冒険者としての日々が帰ってきた実感が、それでやっと湧いてくるようだった。

なんて、大袈裟に言ってみたりして・・・・・・ちょっと数日休んだくらいだけどね。

続きます。

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