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再び扉へ

続きです。

「あれ? ラヴィ? 居ないの・・・・・・?」


 コーラルの声が近づいてくる。

私が「コーラルの部屋を片付ける」と言ったことをしっかり聞いていたようで、足音はこちらに向かって来ていた。


 コーラルの接近を感知して慌てて地下への扉を閉める。

閉めた後にどうしてこんなに焦っているのだろうかと自分でも疑問に思った。


 数秒とかからずコーラルは部屋にやって来る。

そしてその視線はすぐに私を見つけた。


「あ、居た居た。ずいぶん頑張ったね」


 コーラルは私が運び出した荷物やらに視線を這わせながら私に語りかける。

ひとまずこの扉については意識が向いていないようホッとした。


「コーラルこそ。もう帰って来たの?」

「あ、いやいや。それなんだけどさ、なんかシュルームがもっかい菌糸の森行きたいって言うから、それに付き合うことになった」

「菌糸の森・・・・・・?」

「そうそう。だからたぶん・・・・・・今晩は向こうに泊まることになると思う」


 菌糸の森。

私たちが変異体の魔物と戦った例の森だ。

あれの出現以来プラヌラの活性が不安定になっているという話を聞くが・・・・・・。

まぁあの面子なら心配要らないだろう。


「分かった。けど・・・・・・しばらく冒険者らしいことしてなかったから、気をつけること!」

「うん、分かった!」


 コーラルの方を向いて一言だけ言っておくと、元気な返事が返って来る。

少なくとも、まぁ・・・・・・コーラルが楽しそうで何よりだ。


「それでさ・・・・・・」


 コーラルが私の方へトテテと駆け寄り、上からしゃがんでいる私を覗き込む。

まだコーラルが何かを言う前だったけど、どんなことを言うつもりかは表情を見れば分かった。


「私は行かないよ。別に、どうしても私が必要って場面でもないでしょ」

「ちぇー」

「それに・・・・・・こっちも、思ったよりやることが多そうだから・・・・・・」


 最初こそコーラルを一人で送り出したのは、ダンたちとの時間に水を差しちゃ悪いという理由だったが・・・・・・。

今はそれだけにとどまらない。

だって見てしまったのだから・・・・・・。

この家には、何かある。


「んー、まぁ・・・・・・しょうがないかぁ・・・・・・。まぁじゃあ明日、か・・・・・・もう少しかかるかも分からないけど、そのくらいには戻ると思うから。あ、あとキノコ要る? たぶんキノコ狩りしに行くカンジだからさ」

「え、キノコ!? うん、いやまぁ・・・・・・食べられるやつならあって困るものでもないけど・・・・・・」

「おけおけ! じゃお土産に持って来るね!」


 コーラルはコーラルで結構忙しくなり始めているようで、伝えるべきことを伝えるとすぐに去ってしまう。

そうしてまた、一人になった。


 一人になって向き合うのは、またしてもあの扉だ。

あの少女は何者なのか、その手が私に触れていたらどうなっていたのか。

そもそも、それは本当にそこに居たのか。


 漠然と、しかし本能的に、恐ろしいものに触れようとしているという感覚がある。

得体が知れないのもそうだが、そうでなくてもあれは間違いなく私の恐怖だ。


 触れてはいけない。

知ろうとしてはならない。

それと同時に・・・・・・私は知らなければならない。


 コーラルはこれからもう森に出るのだろう。

ここからは横やりが入ることはあり得ない。

しかし、さっきはコーラルが来なければ危なかったかも知れない。


 恐怖に立ち向かうには・・・・・・。


「気をしっかり持たないとね・・・・・・」


 閉めた扉に再び手をかける。


 気道がきゅうとしまり、鼓動が早まる。

扉を開けたがらない腕の筋肉を勇気で鞭打って、躊躇いが生まれる前に一気に開け放った。

続きます。

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