階段の怪談
続きです。
その扉は、特別重くもなく開けるのは簡単だった。
ただどうしてかそれを開くことで胸に冷たいものが渦巻く。
開かれた扉、その奥の薄暗がりからひんやりとした空気が昇って絡みついてくる。
最初はちょっとした収納スペースに過ぎないだろうと考えていたが、その予想は外れた。
外れた・・・・・・のに、いざ“答え”を前にするとそれは自分でも驚くほどに違和感の無い景色だった。
「階、段・・・・・・」
こんなもの、普通の家には無い。
明らかに異質な、地下へ伸びる階段。
おかしい。
どう考えてもおかしな光景のはずなのに、どうしてか不思議と・・・・・・この眺めを知っているような気がする。
「・・・・・・」
降りて、様子を見に行くべきだろうか。
いや・・・・・・本当ならばこんなこと悩む余地もない。
なのに、どうしようもなくその空間に足を踏み入れることに抵抗があった。
呼吸も瞬きも忘れて、ただ茫然と地下へ続く薄い闇を眺める。
見たくないのに、漠然と恐怖しているのに、目が離せない。
意識が暗闇に吸い寄せられ静寂が満ちる。
血流の音が耳元に張り付き、何かを思い出しそうになる。
あれは・・・・・・そう、なんだったろう・・・・・・。
何か、とても・・・・・・。
「ねぇ? 忘れたの、ミスプリント?」
「っ・・・・・・!?」
突如響く、声。
静かで冷たい、少女の声。
その声は、地下へ続く階段から・・・・・・。
「そんな・・・・・・どうして・・・・・・」
それは語りかける声だけにとどまらない。
暗がりの中には、一人の幼い少女が立っていた。
表情ははっきり見えないが、真っ白な髪が闇の中で薄ら発光しているようにも見える。
あり得ない。
こんな少女が、ここに居るはずがない。
だってずっと何年間も閉ざされたままだ。
ならばなんだ?
悪魔か、幽霊か・・・・・・?
そういった伝承や現象が語られる地域は確かに存在する。
しかしこの少女は・・・・・・。
「ねぇ、忘れたの?」
少女は一歩階段を登る。
私は体が凍りついたかのように動かなくなる。
少女は迫る。
一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
そうして少女がこちらに手を伸ばそうとしたとき・・・・・・。
「ねぇー、ラヴィ! いるー!!」
玄関の扉が開け放たれる。
流れ込んできたのはコーラルの声だ。
その声に意識が階段から引き戻される。
そうしてから地下への階段を見ると、謎の少女の姿はどこにもなかった。
続きます。




