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来客

続きです。

「あれ? プルームどこですかぁ?」


 正午手前、シュルームがあくびをしながら起きてくる。

ダンは遅めの朝食代わりに摂った軽食の片付けをしていた。


「プルームなら・・・・・・・早くに出てったぞ。まぁ、今日コーラル来るし、買い出しかなんかに行ったんじゃないか?」

「そらま・・・・・・・随分張り切ってますねぇ。ここのところ毎日どっか出掛けてませんか?」

「別にアイツのことだ、珍しいこともないだろ。それよりお前、コーラルの部屋のキノコ・・・・・・・ちゃんと片したんだろうな?」

「あ・・・・・・・」


 シュルームはダンから視線を逸らし、現実逃避するように日光の注ぐ窓際に向かう。

その後ろ姿にダンはため息をついた。


 ここ数日、ダンたちはすっかり体が鈍ってしまった。

別に特別忙しい日々を送って来たわけではないが、ここまでゆったりとした時間を過ごすのはほとんど初めてだった。


 しかしそんな優しく生温い時間を経たダンたちは、今や体が疼いて仕方ない。

退屈まではいかなくとも、この数日間の休暇はあまりにも刺激が少なかったのだ。

結局のところ、なんだかんだダンたちも冒険者ということだ。


 だから、この休暇の終わりにコーラルも交えて・・・・・・・少し景気付けに騒ぐなりなんなりしようというのが今回の集まりの趣旨だった。


 ダンは片付けを終え、シュルームは日差しに目を細めその温かさを瞼に感じる。

そんなところで、家の戸を叩く者があった。


「お、コーラルか?」

「・・・・・・・コーラルがノックなんかしますかね?」


 ここを尋ねるにしては律儀な来客に、二人は少しの違和感を抱く。

来るとしたらコーラルの可能性が最も高いのだが、どうも二人の直感はそうでないと言っていた。


「どうぞ」


 ダンが来客に対して入室を許可する。

こうして呼ぶまで勝手にドアを開けて入ってくることがなかった以上、いよいよ来客はコーラルではないようだった。


 しかしだとしたら誰だろうか。

少なくとも二人には全く心当たりがない。

この街に知り合いが少ないわけではないが、たいていの知り合いはわざわざ家に尋ねてくるほどじゃない。


 入室を促す声に応じて、ドアが開かれる。

日光の温度を蓄えた風が隙間から流れ込み、部屋の床を這う。

開かれたドアの隙間を満たす日の光の中に佇んでいるのは・・・・・・・。


「あ・・・・・・・サチ、さん・・・・・・・?」


 サチ・シックス。

変異体との戦闘の際に行動を共にした少女だった。

この先関わりがあるようなタイプの人間だと思ってなかったため、ダンは多少なりとも驚く。


「はい。あ・・・・・・・えと、お邪魔・・・・・・・します?」


 サチが入って来たのを受けて、シュルームは近くにあった椅子を引く。


「どーしたんです? ま、座って」

「あ、はい。ありがとうございます」


 サチは落ち着きなく内装を見渡しながら何故かおっかなびっくりシュルームの引いた椅子に座る。

シュルームも深く考えずにテーブルを挟んだ向かい側の椅子に座った。


 さっきまで洗い物をしていたダンも布巾で手を拭いてサチの話を聞きにテーブルの側にやってくる。


「あ、あの・・・・・・・プルームさんはどこに・・・・・・・?」

「えっ、なに・・・・・・・アイツに会いに来たんですかぁ!? こんなお堅そうな子もプルームみたいなの好きになるんですねぇ・・・・・・・。いや、逆にってこともあるのか・・・・・・・」

「え、は・・・・・・・? す、好きって、私が!? プルームさんのことをですか!?」


 サチは白い顔を赤く染めて首を激しく横に振る。


「ちが、違いますよ! ただ姿が見えないので、どこにいらっしゃるのかと!!」

「へぇ・・・・・・・分かんないもんですねぇ・・・・・・・」


 シュルームは頬杖をつき目を細める。

その様子にダンは呆れた風に後頭部を掻いた。


「シュルーム、あんまり揶揄ってやるな。それで・・・・・・・サチは俺たちにどういう用があって来たんだ? プルームは今は居ないが、俺たちでも聞ける話か?」

「あ・・・・・・・はい。はい! そうですね」


 ダンが本題に入ったことでサチは落ち着きを取り戻す。

ただ顔はまだ薄ら紅潮したままだった。


「今回私が訪ねて来たのは、コーラルさんについてです」

「・・・・・・・コーラル?」


 聞き返すダンに、サチはゆっくり頷く。


「はい。実はその、コーラルさんの特殊なコードについての情報収集を頼まれてしまいまして・・・・・・・」

「ならコーラルのとこに直接尋ねた方がいんじゃないですか?」

「あはは・・・・・・・シュルームさんの言うことはまぁ最もなんですが・・・・・・・こう、なんとなく後ろめたくてですね・・・・・・・」


 サチはそう言ってほっぺたを人差し指で掻く。

ダンは気づかなかったが、シュルームはその言葉がどうも誤魔化しっぽいことを感じとった。


「ふぅん・・・・・・・」


 シュルームは一人ニマニマとした薄い笑みを浮かべる。

サチはシュルームの見透かしたような視線に気づいて恥ずかしそうに俯いた。


「結構ガチじゃん」

「・・・・・・・」


 ダンには伝わらない程度の情報量の言葉でシュルームがサチに話しかける。

サチは無言のままだったが、それはもう肯定の意だった。


「まぁどちらにしろ、今日これからコーラルはここに来るし・・・・・・・しばらくここに居たらどうだ? 俺たちも別にいいし、コーラルもそういうのあんまり気にするタイプでもないし、問題ないと思うぞ」

「あ、来る・・・・・・・んですか・・・・・・・?」

「じきにプルームも帰って来ますよん・・・・・・・」

「あぅ・・・・・・・まぁ、はい。そういうことなら・・・・・・・よろしくお願いします・・・・・・・」


 こうしてサチの任務に対する話はまとまる。

さらに、その話の中心人物もちょうどやって来た。


 ドアが前触れなく開かれて、ずかずか自分の家に入るみたいにやって来る。

いや、実際に依然自分の家ではあるのかもしれない。


「およ? サチじゃん。あれ、何・・・・・・・みんなわたしの方見てどしたのさ」


 部屋に入って来たコーラルの背後でパタリとドアが閉まる。


「別になんでもないですよ。ね、りぃだぁ?」

「・・・・・・・はは、そうだな・・・・・・・」


 二人はサチと比べるのが馬鹿馬鹿しく感じられるくらいの勢いで入って来たコーラルに苦笑いを浮かべる。

そうして呆れるのと同時に「やっぱりこれでこそコーラルだな」とその感触を噛み締めていた。

続きます。

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