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コーラルの実家(?)帰省

続きです。

「コーラル、動かないでよ」

「分かってるよ、もう・・・・・・・」


 椅子に座らされたわたしの膝小僧にラヴィの手が伸びる。

その指は丁度わたしの膝の皿の位置に貼られた絆創膏の端を摘んだ。


 菌糸の森での一件の後、療養という名目で長い休みを取っていたがそれも今日で終わりだ。

今、ラヴィの手によって最後の絆創膏が剥がされようとしている。


 ラヴィはゆっくり丁寧に絆創膏を剥がす。

今やほとんど染み程度になっている傷跡がそれに伴って引っ張られて、それが少し痒かった。


 なんでこんなことをラヴィにやらせているかと言えば、数日前にわたし自ら剥がした時は一緒にカサブタまで剥がしてしまって・・・・・・・それを見たラヴィが「コーラルは雑だから」と名乗りを挙げたのだ。

別にカサブタが剥がれるくらいなんでもないのに、ラヴィは結局宣言通り最後まで丁寧にやり切った。


「もう流石に治ったねー・・・・・・・」


 ラヴィに完全に塞がった傷口を見せびらかすように脚をぶらぶらさせる。

それを見たラヴィはわたしの膝をデコピンで弾いた。


「まったく・・・・・・・コーラルと初めて会った日はまさかこんなことになるなんて思わなかったよ」

「わたしだってそうだよー・・・・・・・」


 振り返ってみればなかなかの密度で色々なことがあった。

体中の傷が治りきるまで数日を要したが、それとほとんど同じくらいの日数の間にラヴィと出会って変異体を倒すに至っている。


「さ、コーラル。そろそろ時間じゃない?」

「え・・・・・・・もうそんなん?」


 今日はこの後、久しぶりにダンの家に向かうことになっている。

色々と厄介ごとが片付いた後の・・・・・・・打ち上げ?みたいなものだ。

ラヴィも別に来てもいいのに、ラヴィはこっちの家で留守番することを選んだ。


「じゃあ、そろそろ行くけど・・・・・・・ラヴィはほんとに来なくていいの?」


 椅子から立って、鈍った筋肉を伸びでほぐしながらラヴィに尋ねる。

それにラヴィは以前と同じ言葉で答えた。


「うん、いいよ。久しぶりなんだから、水入らずでやってきな。私はその間にコーラルの部屋の、まだ片付いてない荷物を整理しておくから」

「えぇ〜、でも・・・・・・・泊まりになるかもしんないよ? そしたらラヴィ、さみしくなーい?」

「そんなこと言って、ほんとは寂しいのはコーラルでしょ」

「それはまぁ・・・・・・・そうかもね・・・・・・・」


 これからまた別の仲間のところに遊びに行くだけだから別にそんなことないはずなのに、ラヴィと離れるのに一定の心細さを覚える。

それは事実ではあった。


「ふふ、なんだ・・・・・・・やけに素直じゃん」

「うっさいなぁー・・・・・・・」

「拗ねないで拗ねないで、次行くことがあったら私も行くよ」

「ちぇー・・・・・・・」


 必要になりそうな荷物は前日の夜に既にまとめている。

こうなれば後はもう本当に出発するだけだった。


 ラヴィに見送られる形で玄関までやってくる。

開いたドアの外側に出るのは、わたしだけ。


「それじゃ・・・・・・・」

「気をつけて行っといで・・・・・・・あ、あとコレ・・・・・・・」

「ん・・・・・・・?」


 出発直前になって、ラヴィがわたしの手のひらに紙幣を握らせてくる。


「お小遣い」

「えっ、いいよ。わたしだって一応持ってるし・・・・・・・」


 諸々の報酬金とかは一応半分ずつということになっている。

過程はともかく功績としては結構大した成果を上げてしまったので、もちろんそれに見合った実入りはあった。

だからお小遣いなんて貰わないまでも、別に困らない。

ただでさえ生活必需品とか食べ物とか、ラヴィが買ってくることが多いというのに・・・・・・・。


「いいんだよ、こーゆーのは貰っとくもんなの」

「でも・・・・・・・」

「ほら、行った行った!」

「あ・・・・・・・」


 結局お金は渡されたままドアは閉められてしまう。

なんで追い出されるみたいな感じになってるのか・・・・・・・。


「まったくもう・・・・・・・」


 仕方ないか、とため息をついて歩き出す。

すっかりラヴィの家の周りの道は頭の中に入っていた。

今やもう一人でもラヴィの家とダンの家を行き来できるのだ。


 まだ午前の日差しは薄く柔らかなヴェールのように空から降り注ぐ。

その暖かさをつむじの辺りに感じながら、家の前の道を進んだ。


 なんとなく後ろ髪引かれる思いで振り返る。

すると、少し後ろの方に家から出て来たラヴィがこちらに手を振っているのが見えた。


「もう・・・・・・・気づかなくてもずっと振ってるつもりだったの!?」


 あるいは、ラヴィにはわたしが振り返るだろうという確信があったのかもしれない。

自分で言うことでもないが、わたしの考えや行動は読みやすいし・・・・・・・。


 こちらに手を振るラヴィにわたしも手を振りかえす。

そうすることで、確かに何か満たされるものがあった。


「さ、行こ」


 久しぶりにプルームの作るご飯が食べられるだろうし、向こうに置いて来た荷物も持ち帰ることができる。

今や我が家がわたしには二つだ。

まぁお得ってことで・・・・・・・。


 あくびを噛み殺して、ラヴィの家がある静かな区域から賑やかな喧騒の方に踏み出した。

続きます。

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