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瓦解

続きです。

 ただでさえ理解不能な事態に陥っているのに、状況は更に悪くなっていく。


「ねぇ、なんか・・・・・・狭くなってない???」


 地面が、縁の方から崩落するように赤に蝕まれていく。

崩れた大地と樹木は、どうなっているのかもわからない赤色の空間に飲み込まれて行った。


「っ・・・・・・。これは・・・・・・」


 サチが額に汗を伝わせて眉をきゅっと寄せる。

いったいサチの目には何が映って、それをどう考えているのかは分からない。

が、良くないことが起きているのだろうということはあまりにも明らかだった。


 やがて、負荷に耐えられなくなったのか地面に亀裂が走る。

その亀裂はシュルームの足元まで伸び、そしてその足場を崩壊させた。


「っく・・・・・・!!」


 いち早く気づいたラヴィがシュルームの手を掴まえようと飛び出すが、ラヴィの伸ばした手はシュルームの指先を掠めるだけだった。

そして連鎖するように亀裂は広がり、ラヴィもシュルームと一緒に異様な赤に落ちていく。


「そんなっ・・・・・・! ねぇ、これ・・・・・・どうしたら!?」


 戸惑いの声を上げるが、その声に応える者はいない。

誰も何がどうなっているのか分からないし、どうしたらいいか分からないからだ。


 じきに訪れる崩落にそれでどう対処するつもりなのかは分からないが、ダンが警戒して盾を構える。

プルームも、サチの身を案じるように侵食してくる赤から遠ざけた。


 しかし、悲しいことにやはりそんなことをしたところで意味を成さない。


「・・・・・・ちょっと、これは・・・・・・」


 狭まっていく地面を見て、プルームが目を細める。


「・・・・・・どうしようも、ない・・・・・・かな」


 そう言うのと同時にそばにいたサチと一緒に赤色の空間に落下してしまった。


 わたしとダンだけが残され、足場も最早二人分しかない。

そして当然赤色の侵略が収まるわけもなく、すぐにスペースは二人分未満になる。


 爪先が地面からはみ出し、重心を乗せた踵の位置にも既に赤い亀裂が無情に輝いてる。


「コ、コーラル! とにかく俺の後ろに!!」

「無理! もうそんな足場ない! それに・・・・・・」


 後ろに行ったところでどうなるというのか。

わたしたちはこの状況に対してあまりにも無力。

ただ来たる結末を受け入れる以外残されていない。


 もう自分の体重を十分に支えられるほどの足場も無くなり、半ばダンの鎧にしがみつくようにして運命のときを先延ばしにする。


 わたしの脚は完全に宙に投げ出され、見下ろせば終わりのない赤色の上でふらふら揺れていた。


 この赤色に飲まれたみんなは、一体どうなったのだろう。

永遠にこの不気味な赤色の中を落ち続けるのか、それとも空間に飲み込まれた瞬間にこの肉体すら崩壊してしまうのか・・・・・・。


 恐い。

恐いは恐いけど、胸中を占める感情の割合は悲しみや諦めの方が強い。

どのみち、わたしたち二人だけ何かの偶然で助かったとしても、喪失があまりにも大きすぎる。


 いよいよダンの足元が崩れ去り、滑り落ちるように赤い空間に全身が投げ出される。

わたしはダンの体にしがみつき、目を閉じた。


 しかしダンはまだ粘り強く残された地面に手を伸ばし、その縁に指を食い込ませる。

ポロポロ崩れた土が、わたしに降り注いだ。


「っなぁ、コーラル・・・・・・」

「・・・・・・なに・・・・・・」

「俺、お前にっ・・・・・・」


 迫り来る赤はダンに言葉を続けることを許さない。

完全に空間は赤一色に染まり、その何もない赤のただ中をわたしたちは落ちていった。


 終わりの見えない落下。

視界の赤は霧が濃くなるように強くなっていく。

やがて視界が全て赤に染まった時、わたしとダンの体は何かに叩きつけられた。

続きます。

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