理解不能
続きです。
吹き荒れる鱗粉に追い込まれるように、みんな集まっていく。
その鱗粉の渦の発生源である魔物の死体に。
「ど、どういうこと? この魔物、死んだんじゃないの?」
何が起こっているかも分からないし、何が起こるのかも分からない。
互いの死角を補完するように背を突き合わせて、誰にでもなく尋ねる。
わたしの声に答えたのはサチだった。
「断言はしかねますが・・・・・・魔物が体内に保有していたプラヌラが肉体の機能停止を受けて鱗粉に乗り換えたのかと・・・・・・」
「は? 何それ、意味わかんないんだけど!?」
「これは・・・・・・その、まだ公にされていないんですが、真理の庭の見解ではプラヌラは生物ではないかという考えがありまして・・・・・・もしそれが事実だとしたら、プラヌラが意思を持って鱗粉を掌握したというのも考えられなくはないです・・・・・・」
サチの言うように、鱗粉は意思を持ったかのように統制のとれた動きをしている。
空を行く鳥の群れのように、規則的で整然としているのだ。
そして・・・・・・。
「なにっ・・・・・・?」
一瞬の内に辺りを吹き荒れていた鱗粉が消えた。
しかし当然、それは助かったなどという意味ではない。
明らかに異常なことが起こっていた。
「空が・・・・・・赤い?」
吹き荒れる鱗粉の動から、急に静に切り替わったのを受けてプルームが呟く。
その視線は空に向いていた。
わたしたちが居るのは変わらず森の中。
しかし何かに日光が遮られたかのように薄暗く、太陽が燃えているはずの空は濃淡のない一面の禍々しい赤色に染まっていた。
いや、空だけではない。
わたしたちのいる周囲数十メートル以外が、全て謎の赤色に置き換わっている。
全く風が吹かないせいか、屋外とはとても思えないほどの閉塞感と重圧感。
相変わらず森の中に居るはずなのに、まるですぐそばに壁があるんじゃないかというような息の詰まる感覚があった。
誰も・・・・・・知識もあって頭のいいサチでさえも今いったい何が起きて自分たちがどういう状況にあるのか分かっていない。
「ねぇ! りぃだぁ! みんな! ま、まもっ、魔物がっ・・・・・・!」
「え・・・・・・?」
怯えた様子のシュルームが魔物の死体があった場所を指差す。
その声に反応してみんなの視線が集まるが、そこには・・・・・・真っ黒に染まった魔物の体があった。
ぴくりとも動かないことから死体に相違ないことはわかるが、それにしても状態が奇妙だ。
やがてそれはさらに異常を来たしより不安定になっていく。
水に絵の具を溶かした時みたいに輪郭が滲み、体が薄ら透けてその下の地面が目を凝らせば見えるようになっていた。
その滲んだ黒色は汚染するように地面に染み込む。
それに伴って魔物の体もぼやけて崩れて、ゆっくりと地面に沈んでいった。
「・・・・・・」
訳がわからない。
今起きている全てのことに理解が及ばない。
そして最も恐ろしいのは・・・・・・。
この状況を抜け出す方法が、全く見当のつかないことだった。
続きます。




