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続きです。

 しばらく歩いているとすぐにギルドに到着する。

まだ完璧に道を覚えたわけでもないけど、だいぶ慣れて来てはいた。


 通る場所通る場所、やっぱり希薄ながら既視感がある。

これからほとんど毎日通うことになる道だ。


 目当てのものは決まっているので、ギルドに立ち入ると真っ先にそこへ向かう。

浮き足たったわたしの後ろを、ラヴィはゆっくりと着いてきた。



 コード観測器。

冒険者お馴染みの道具だ。


 家から握りしめてきた硬貨を投入口に入れる。

それに反応して魔導回路が起動し、二つの小箱のロックを解除した。


「・・・・・・」


 少し、緊張してくる。

根拠のない自信に突き動かされてここまでウキウキで歩いてきたが、流石に実際の結果を目前とすると怖気付きもする。


 けれども、気持ちの整理はあらかたついてる。

それにこの後にはラヴィとの楽しい時間が待っているみたいだし。

残念会でも、そういうのは嬉しいし、楽しい。


 意を決して小箱を二つ同時に開く。

それと同時に箱の中に転送されてくる一枚の紙、一本の針。

それを取り出すと、そっと小箱を閉じた。


 すぅーっと息を吸う。

吸って、吸って、やめ時が分からなくなって苦しくなって、そうしてやっと息を吐いた。


「い、いくよ・・・・・・?」


 振り返って、後ろから覗き込んでいたラヴィに決意表明というか、タイミングの確認みたいなのをする。

ラヴィはそんないまいちおどおどしてるわたしを見て小さく笑って、わたしの肩に手を置いた。


「大丈夫だよ。別に心配要らない」

「う、うん・・・・・・それじゃあ・・・・・・」


 いよいよだ。

運命の瞬間。


 コードの成長っていうのは、回数に限りがあるわけじゃない。

人生の中で何度でも起こり得る。

ただ同時に、最低でも何回は起こるみたいな、そういうものもない。


 コードの成長と向き合うとき、そこにはいつでもこれが最後かもしれないという可能性がつきまとう。


 唾を飲んで、その針を指紋の中央に突き刺す。


「いつっ・・・・・・」


 緊張で力みすぎてちょっと刺しすぎた。


 わたしの緊張感が伝染したのか、ラヴィも様子を固唾を飲んで見守る。


 針の傷跡から溢れる血液。

コードと同じ色をしたそれは表面張力で球のようになる。

その雫を、観測紙に押し付ける。


 血印のように、一枚の白紙の血の指紋を刻む。

その血液の染みは、しかし水に溶けるようにさーっと紙全体に広がり、やがて消えた。


 わたしの肩に置かれたラヴィの手に、ぎゅっと力がこもる。

前のめりになっているようで、その体重がわたしにのしかかっていた。


「あっ・・・・・・」


 そして、始まる。

わたしの血をインク代わりに、紙に文字が浮き出る。

その文字の内容は・・・・・・。


『一秒毎に1ダメージ与える積毒を武器攻撃に付与。効果時間は200秒。積毒は任意で・・・・・・』


「あ・・・・・・」


 ガクッと、体の力が抜ける。

効果時間がさらに10倍。

普通の異常系コードだったら破格だけど、わたしの場合はそうじゃない。


 ラヴィの体重が乗ってたのもあって、よろめく。

ラヴィも支えを失って、バランスを崩した。


「おわ、あっ・・・・・・!? つぅ・・・・・・」


 二人して、その場で重なるように転ぶ。

わたしの手のひらから離れた観測紙はふわりと宙を舞って床に落ちた。


「はぁ、あ・・・・・・」


 そんな状態だけど、立ち上がる気持ちが起きてこない。

またか、という気持ちが重りになっていた。


 結局、ショックはショックだ。

やっぱり。


 ラヴィの体の下で、体を捩ってうつ伏せから仰向けになる。

そしたら体を起こそうとしているラヴィの顔が、わたしの視線のすぐ正面に来た。


「ダメでした」


 舌を出して笑う。

わたしがそうやって取り繕うと、ラヴィの表情は少し切なそうというか、悲しい表情になった。

続きます。

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