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館の中へ

続きです。

 やがて、俺を含めた十名が遊女に選ばれる。

その十人の中に、ハンゾウとハンスケは含まれていない。

こうなることが想像つかなかったわけでもないだろうに、それでも二人は満足そうだ。

元より志が低かったのか・・・・・・あの一瞥でもう十分なのだろう。


 あの二人に関しては・・・・・・ますます呆れてくる。

そして、選ばれてしまった俺は・・・・・・逃げることもできず、ミコ様の案内に従って館の奥へ進んでいた。

丁度視線の高さに柔らかそうな毛に包まれた耳が揺れる。

その様子には・・・・・・いわゆる“猫”に対して向ける可愛らしいという感情はあるが・・・・・・。


「あの・・・・・・俺・・・・・・」

「いいの。気にしないで。ハンスケ様でしょう? 安心して、あなたを悪いようにはしないから」

「え・・・・・・ハンスケを知ってるのか?」


 なんとかここから抜け出せないかと直接ミコ様に尋ねるつもりだったが、当の本人は全てを見透かしたように意外な人物の名前を出してくる。

かつてこの少女は、あの・・・・・・よりにもよってハンスケを相手に選んだのだろうか。


「・・・・・・」


 俺の問いへの返事はない。

ただ歩みを進めるたびに軋む床の音だけが沈黙に響く。


 館の内装は・・・・・・先ほどまでの会場とは違って落ち着いた雰囲気だった。

差し込む月明かりのみを照明とし、どこからか涼しげな風が吹いてくる・・・・・・気がする。

この静寂も、気まずいものでなく・・・・・・どこか落ち着くものだ。


「さ、お客様・・・・・・お名前を伺ってもいいかしら?」


 ミコ様が歩みを止め、その大きな瞳でこちらを見上げる。

その小さな手は、たどり着いた部屋の戸にかけられていた。


「あ、えと・・・・・・俺は、ナエギ・・・・・・。その、ここにはハンスケたちに無理矢理連れてこられて・・・・・・。だから・・・・・・」

「ふふっ。分かっています。けど・・・・・・ナエギ様、どうかこちらへいらして。少しばかり・・・・・・わたしとお話しましょう?」

「は、なし・・・・・・って・・・・・・」


 いったい、どういうことだろう。

何か、何かが変だ。

なんだか、俺が思っている以上に・・・・・・ハンゾウ・ハンスケとの深い繋がりを感じる。

あの二人は・・・・・・いや、ミコ様も含めたこの三人は・・・・・・いったい何を考えているのだろう。


「さぁ、ナエギ様・・・・・・」


 ミコ様は小さく戸を引き、隙間から部屋の内を覗かせる。

その全貌は未だ知れないが、隙間から溢れてくる一筋の灯りが俺の頬を照らした。

そして・・・・・・戸にかけた方とは逆側の手、そのふわふわの白い毛に包まれた手で俺の手を引いた。


「・・・・・・」


 雰囲気のせいか、目の前の少女を“そういう人”と認識してしまっているためか、それだけで妙にドキドキする。

その短い指は温かく、触れた肉球の感触が・・・・・・なんだかいよいよ色っぽい感じがして、どれだけ取り繕おうと思っても顔が熱くなっていった。


 一応女性に囲まれている身という自覚はあるだけに、耐性はある方だと思っていたが・・・・・・コムギは論外として、コーラルやラヴィと触れ合うのとではまるで違う。

彼女たちと同じくらいの背丈の獣人の少女に、俺は今まで感じたことのない“女”を感じてしまっていた。


「どうされましたか、ナエギ様・・・・・・?」


 手を引かれてなお立ち尽くしていた俺を不思議に思ったのか、ミコ様がぐいと顔を近づけてきて俺の瞳を覗き込む。

狼狽える俺を見ると、透き通った瞳を愛おしそうに細めて頬を綻ばせた。


 茫然自失。

まるで変な魔法でも食らってしまったかのように、手を引かれるまま・・・・・・部屋の内側に誘われるしかできなかった。

続きます。

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