眼差し
続きです。
しかしまぁ、何はともあれ・・・・・・これで帰れるのだから一安心だ。
何か間違いがあったりしたら、もうみんなに合わせる顔がないからな。
特にコムギ・・・・・・。
事態が収束に向かっていくのを感じて、やっと心が平常になっていく。
この会場の熱気も自分にはもう関係のないことだと思うと、途端に苦痛でなくなった。
ハンゾウやハンスケたちへの怒りも萎んでいく。
今思えばちょっと俺も口が悪すぎたかも知れないという気もしてくるが、まぁ俺の怒りは決して不当なものではないから引きずることもないだろう。
というか、肝心の二人はもう俺の言葉がまともに届かない程度には酔っているし・・・・・・。
舞台上の煌びやかな少女たちに背を向け、この明るすぎる空間から逃げるように外に向かって一歩を踏み出そうとする。
ところが、それをハンスケに制された。
仕方なく振り返って、分かりきったことをハンスケに伝える。
「いやいや、さすがに見りゃ分かるだろ。あり得ないって。ほら・・・・・・ミコ様、だっけか? 誰も見ちゃいないよ。きっと今夜も、あの人は客をとらない」
しかしハンスケは、妙に真剣な眼差しを俺に向け首を横に振る。
「いいや、彼女は選ぶ・・・・・・ナエギ殿を・・・・・・!」
「あのなぁ・・・・・・いくら俺が周りよかちょっと目立つ異邦人だからって、この何百人もいる客に紛れたら違いなんか分からないって。俺はもう・・・・・・俺のやるべきことを果たしただろ? だから・・・・・・」
だからもう帰らせてくれ、と・・・・・・そうハンスケに言いかけたところだった。
真っ直ぐと、綺麗な瞳がこちらを見つめるのを感じる。
俺の目は、その瞬間・・・・・・例のミコ様という少女の視線とぶつかっていた。
「・・・・・・あ」
「ほら! 言うたであろう! この色男めっ!」
唖然とする俺の背を、ハンスケが嬉しそうに叩く。
ハンゾウはこちら側に注がれた視線を感じて、もはやそれを拝んでいた。
鈴の鳴るような声が、やはりこの喧騒を貫いて・・・・・・俺の耳元に響く。
「旅のお方・・・・・・今宵は、わたしと・・・・・・」
馬鹿馬鹿しいと、そう思っていた“神力”。
それを真実だと錯覚させるほど、不思議と神秘的に胸に響くその声。
間にある距離を無視して、彼女に手を引かれているような感じさえした。
ミコ様は微笑む。
真意の全く見えない、しかし胸のうちをざわざわさせる不思議な笑顔だった。
続きます。




