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油断

続きです。

「猫の・・・・・・館?」


 そう言われても結局なんのことだか分からなくて、ハンスケに聞き返す。

ハンスケは何かを誤魔化すように頬を掻き、斜めに視線を逸らしてから・・・・・・。


「ま、まぁ・・・・・・なんて言うんですか? いわゆる・・・・・・その、遊郭ってやつでさぁ。まぁなに、なんでこたぁない店でさぁ・・・・・・」


 と早口で言った。

しかし、どれだけ早口で言おうとその言葉を聞き逃すはずもない。

そして、この通りの妙な雰囲気と・・・・・・そのハンスケの誤魔化そうとする姿勢から、俺の辞書には無い“遊郭”という言葉の意味を浮き彫りにする。

つまりそれは・・・・・・。


「おい、なんだよ・・・・・・!? ここって・・・・・・要は風俗街ってことかよ!?」

「ま、まぁまぁ・・・・・・どうせならナエギの旦那も俺らと楽しんでいきやしょうよ。・・・・・・あの様子だと女には困ってねぇかも知れねぇが・・・・・・」

「だからあいつらはそういうのじゃないっての! じゃなくて! 冗談じゃない! こんなとこに来るのにどうしたって俺が必要なんだよ!」


 この“場所”が何かを知ったことで、頭のモヤが晴れる。

酔いが覚め、急に内臓の据わりが良くなった。


 ロクでもない男たちとは思っていたが、まさかこんなことに俺を巻き込むだなんて・・・・・・。

酔いのせいでなんとなくスルーしてしまっていたが、そう言えばこの通りに入ってくる時もおかしいと思ったんだ。

明確に他の区画とは切り離すような門があって、その決して広くない“異界への入り口”に少なくない人物が吸い寄せられていた。

その時点で俺は疑いを持つべきだったんだ。


「はぁ・・・・・・悪いが、俺は帰る・・・・・・」


 呆れて言葉も出ない。

額を押さえて二人に背を向けると、ハンゾウが強引に肩を引いた。


「おいおい、ここまで来てそりゃないぜ。あっしらが、この国の“粋”ってもんを教えてやる! な?」

「いいかげんに・・・・・・!」

「おっと・・・・・・約束を反故にすんのか? そりゃ粋じゃねぇやなぁ・・・・・・。まぁまぁ、代金はあっしが持ってやるから! 兄ちゃんも楽しめって!」


 ぎりり、とハンゾウの指が肩に食い込む。

ハンスケは肩をすくめて、そっぽを向いたまま口笛を吹いた。


 そしてそのまま俺は強引に・・・・・・。

ニャパンの夜に華やかに輝く朱色に飲み込まれていった。

続きます。

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