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ニャパンのギルド

続きです。

 着いたギルドは・・・・・・案の定周りの風景に溶け込むような形で、確かにわたしたちだげじゃたどり着けるような感じではなかった。

なんかわかりやすくデカデカと「ギルド」って書いてくれたらいいのに・・・・・・まぁパシフィカでも別にそんな風には書いていないけど・・・・・・。


 一応はちゃんと道案内してくれたあの二人は・・・・・・役目を終えるや否やナエギと次の待ち合わせの話だけして帰ってしまった。

いや、まぁ・・・・・・居ても仕方ないは仕方ないんだけども・・・・・・。


「それじゃあ・・・・・・えっと、まず真理の庭と連絡がとれるかっていうことと、あとあの船をどうにかできそうな人を紹介してもらうってこと。ここで確認するのは、この二つってことで・・・・・・いいよね?」

「はい、それで十分なはずです。真理の庭と連絡がとれれば、ひとまず帰れる算段はつきますからね」


 ギルドに入って行く前のラヴィの最終確認に、サチが頷く。

わたしたちもそれぞれ確かめ合うように顔を見合わせて頷いた。


 色々あったような・・・・・・なかったような・・・・・・なんだか不思議な日だったけど、ひとまずこれでやっと丸く収まりそうだ。

ニャパンに上陸してから、言ってもまだ数時間。

昼時なのに、もう一日の終わりってくらいどっと疲れていた。


 ひとまず、わたしたちの事態の収束を目指しギルドに足を踏み入れる。

出迎えてくれる建物の内装も、やっぱりニャパン仕立て。

パシフィカのそれと比べるとかなりこぢんまりしたその空間には、一人の職員しか居ない受付が待ち構えており、その職員も退屈そうに頬杖をついていた。


「こりゃまた・・・・・・本当にここがギルドなのかってくらい閑散としてるね・・・・・・」


 ラヴィがギルドの様子を馬鹿正直にそう評する。

退屈そうな職員は、そのラヴィの一言でやっとこちらに気づいたようで顔を起こした。

忙しさに目を回すパシフィカのギルド職員とはまた違った疲れた表情・・・・・・というよりかは生気の無い瞳がわたしたちを映す。

その瞬間、ひび割れた大地に雨でも降り注いだみたいにその乾いた眼差しに光が宿っていった。


「うっそ!? 人!? 人来た!! え、しかも・・・・・・ここの人じゃない! え・・・・・・と、どうする? 何か・・・・・・あ、そう・・・・・・お茶でも飲みます!?」

「あ、えと・・・・・・」


 なんだかよほど人との繋がりに飢えていたらしく、ギルド職員は突然ベラベラ喋り出す。

服装こそニャパンで見るような着物だが、喋り方とか、その雰囲気から、ニャパン人ではないことが窺い知れた。


「ああ、いや・・・・・・別にお茶はいいんだ。少し頼みたいことがあって・・・・・・」

「あ・・・・・・そう、ですか・・・・・・」


 ラヴィの言葉に少ししょんぼりするが、すぐに表情を変えて職員らしい佇まいに居直る。

そしてわたしたちに向けて満面の笑みを向けて言った。


「それで・・・・・・どう言ったご用件でしょうか!」


 明るく元気でエネルギッシュな、ギルド職員としては百点の言葉・・・・・・なのだけど・・・・・・。

そこに久しぶりの会話への切実なる渇望が滲んで、なんだかちょっと恐ろしくもあった。


 それでも、わたしたちにとってもこの異国の地で出会う慣れ親しんだ空気感に少し安心感を覚える。

ラヴィも幾分かやりやすそうに職員さんに尋ねた。


「その・・・・・・実は私たち、紆余曲折あって・・・・・・ここまで乗っていた船が流されちゃって・・・・・・。その・・・・・・その船がまたちょっと特殊で、それを修理できそうな技師かなんか、知ってたら教えてほしいんだ」

「え・・・・・・何、遭難したんですか!? でもでも、ここまで来たからもう大丈夫ですよ! 仕事が無いだけで、やるべきことはしっかりやってますから! そういう方たちの所在はちゃんと把握してます! あっ・・・・・・ていうか、そういえばここの設備のメンテナンスを委任している方たちが・・・・・・丁度今日来ますよ!」


 軽い世間話じみたものも交えながら、職員さんはラヴィの言葉に答える。

その返答はわたしたちとしても非常に都合が良かった。

まさに渡りに船って感じだ。

まぁ船が壊れたからここまでくるハメになったんだけど。


 この勢いに乗って、ラヴィは二つめの確認事項を尋ねる。


「それで、もう一つ聞きたいんだけど・・・・・・ここから真理の庭と連絡をとることは・・・・・・できる?」

「え、真理の庭・・・・・・とですか?」


 どうやらこっちの方は何やら問題があるのかなんなのか、それは分からないが、職員さんは言葉に詰まった。


「えっと・・・・・・魔導通信機ってその・・・・・・結構色々規定がありまして、下手に使っていいものでもなくてですね・・・・・・。ましてやこんな辺境の・・・・・・ほとんど機能してないギルドですから・・・・・・。んと・・・・・・でも、遭難ってなると結構緊急事態は緊急事態ですよね・・・・・・」


 職員さんは「えーっと」と呟きながら、何かを思いだそうとするかのようにわたしたちの陥っている事態の重さと、その規定ってやつを天秤にかける。

そこから結局自分の脳みそに負荷をかけるのをやめて、座っていた椅子の後ろを漁り始めた。


「えっと・・・・・・マニュアル、マニュアルは・・・・・・と。あ、はは・・・・・・すみませんね、人が訪ねてくるのなんか久々で・・・・・・整理はしてるんですけど・・・・・・。もう、まさかこんな場所の担当になっちゃうとは思いもしませんでしたから・・・・・・ギルド職員も楽じゃないですよぉ・・・・・・」


 ごそごそ裏を漁りながら、その待機時間を埋めるように聞いてもいないことを話し出す。

いかに誰も来ないギルドであっても、書類のたぐいは多いのかもしれない。


 マニュアルを探すその後ろ姿をボーっと眺めていると、後ろの方からサチがラヴィに向かって小声で話しかける。


「ん? どうした?」

「すみません・・・・・・こんなときにあれですけど・・・・・・周囲に人の気配が・・・・・・それも複数人あります。さっきからの様子を見るに、このギルドに対してこれだけの人数が近づいているのは・・・・・・ちょっと自然じゃありません。それに・・・・・・気配に明確な“意思”があります」

「複数人って・・・・・・どれくらい?」

「具体的には分かりませんが・・・・・・7、8人・・・・・・。いくつかぼやけた気配もあって・・・・・・それを含めると・・・・・・」

「なるほど、まぁ大体は分かった」


 二人の小声のやり取りにはまるで気づかず、まだ楽しそうに色々話しながら探し物をするギルド職員。

しかし、ラヴィとサチの話を聞いたわたしたちの間にはピリッとした緊張感が走っていた。


「あっ! 見つかりました!!」


 職員さんが嬉しそうに声を上げる。

その瞬間・・・・・・。

バンッ・・・・・・と激しくギルドの戸が開け放たれ、幾人もの重なった足音がなだれ込んで来た。

続きます。

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