一方そのころ男湯では・・・・・・
続きです。
「それで・・・・・・」
かぽーんと、どこかで手桶が音を立てる。
俺は一人・・・・・・ならよかったのだけど、ハンゾウとハンスケに挟まれて湯船に腰を落としていた。
せっかくの入浴だというのに気が休まらない。
「それで、結局・・・・・・二人の目的は? 俺たちに話しかけたの・・・・・・その他の理由って方、どうせロクでもないことだろうけど・・・・・・いったいなんなんだよ」
「へぇ、そいつぁ・・・・・・」
ハンスケはゴマをするように湯の中で手を揉む。
しかしハンゾウがハンスケの言いかけた言葉に被せて、強気に言い放った。
「おっと・・・・・・そいつはまだ秘密だ。まぁまぁ、兄ちゃん・・・・・・今更断るってのは・・・・・・ちと筋が通らねぇやなぁ?」
「んなことないだろ。何にしたって・・・・・・聞き入れるかどうかは話の内容次第だ。俺は・・・・・・あいつらみたいな警戒心の薄いお人よしとは違う」
「ふぅ〜・・・・・・」
ハンゾウは俺の目を見もせず、姿勢を崩して湯船に深く体を沈め息を吐く。
そして一度濡れた手で顔を拭ってから言った。
「あっしもねぇ・・・・・・半人前の半蔵と呼ばれちゃあいるが、兄ちゃんが考えてるほど愚鈍ってわけでもねぇんだ。あんたが心配してんのは・・・・・・連れの小娘どもだろ? まぁあんな年若い娘たちに囲まれてるのは羨ましい限りだが・・・・・・今回は嬢ちゃんたちを巻き込むのは“ナシ”だ。あっしらが手を借りたいのは・・・・・・」
そこでハンゾウはやっとこちらを向く。
そしてニッと、人当たりのいい笑みを浮かべた。
「兄ちゃん、あんただよ・・・・・・」
「・・・・・・俺? なんか・・・・・・ちょっと信じられないな。下心しか無さそうな顔してるのに・・・・・・よりによって俺? まさか・・・・・・そういうシュミなのか? 意外と・・・・・・」
「馬鹿言っちゃいけねぇ。ま、それもある意味“粋”ではあるかもしんねぇけどよ・・・・・・。そういや兄ちゃん・・・・・・結構色男かもしれねぇな・・・・・・」
「う・・・・・・」
急に俺に寄ってくる意味ありげな視線に息が詰まる。
まさか本当に・・・・・・俺狙いのパターンもあるのか・・・・・・?
いや、さすがに・・・・・・か・・・・・・。
「んな豆鉄砲くらったような顔すんなって。安心しろぃ、あっしはおなごにしか興味ねぇよ」
「じゃ、じゃあ・・・・・・結局、俺をいったいどうするつもりなんだよ? 下心の塊みたいなお前らを・・・・・・いったいどうして俺が信用できると思う? やっぱり・・・・・・どうにも、二人の言葉を飲むにはなんだかさっきから色々不自然すぎる」
俺の疑いの眼差しに、ハンスケは視線で「どうすんだよ」とハンゾウに文句を飛ばす。
それをハンゾウは手振りだけで「まぁ待て」と制し、俺に向けて再び言葉を重ねた。
「ずいぶん酷いこと言ってくれるねぇ・・・・・・だが、まぁ事実だ。あっしにあるのは下心、それでいいじゃねぇか。下心ってのは少なくとも幾分正直だ。この嘘っぱちばっかの国じゃあ、下心ほど信用できるもんもなかなかねぇぞ」
「結局・・・・・・下心ではあるんだな・・・・・・」
ある種の開き直りに、妙な頼もしさを感じつつも呆れる。
しかし結局のところ、いったい何を企んでいるのかは明かすつもりはないみたいだ。
まぁ、でも・・・・・・ここは一旦、その“下心”を信じてみようかと思う。
「・・・・・・分かった。けど・・・・・・俺があんたらの要求を飲むんだから、絶対にコムギたちには手を出すなよな」
釘を刺すつもりで睨みをきかせる。
しかし二人は本当にそんなつもりなどないようで、俺が要求を飲んだことにホッと胸を撫で下ろした。
「ああ、もちろんだ。約束する。あの嬢ちゃんたちは兄ちゃんだけのもんだ。なぁハンスケ、それでいいよなぁ?」
「へぇ、そりゃもちろん。俺にゃなんの文句もありませんぜ」
二人は顔を見合わせ、やっぱりどこか品を欠いた感じでニタァっと笑い合う。
なんだかその・・・・・・言ってしまえばスケベそうな感じというか、小物な感じが・・・・・・一周回って信頼に値する。
確かに、下心っていうのは・・・・・・案外信じられる・・・・・・のかもしれない。
「っていうか! 別に俺はあいつらとはそういうのじゃないから! ただの仲間で・・・・・・」
「「へぇへぇ・・・・・・」」
二人は「分かってますから」みたいな顔でニヤニヤ笑う。
やっぱり・・・・・・下心なんてものは、ロクでもないだけかもしれない・・・・・・。
続きます。




