お風呂へ行こう!
続きです。
そしてたどり着いたお風呂屋さん。
あの面倒くさい二人はナエギの押し付けて、わたしたち四人は女風呂に来ていた。
時間で言えば別にお風呂〜って感じでもないのに、脱衣所に入って行く人が何人か見えた。
チラチラと物珍しい異邦人故に視線が集まるが、でもこの服さえ脱いじゃえばもう中身はほとんど変わらないただの人間だ。
なので問題ナッシング。
着替えに関しても、どうやらここで買えるらしい。
しっかりその分の代金もあの二人に貰ってるし、なんだかんだで悪い人じゃないのかもしれない。
いや・・・・・・いい人とは言い難いけど、そんな「めちゃくちゃ悪い!」ってことは逆にできないタチだろう。
ただまぁ覗きくらいはしてくるかもしれないから、一応迎撃の準備も心の中でしておく。
「えっと・・・・・・」
あの二人に教えてもらった・・・・・・諸々の料金を渡す人を探す。
受付と監視を担っている人が、どこかに座っているはずなのだ。
そして当然そんな人が分かりづらい場所に居るはずもなく・・・・・・。
「あっ・・・・・・」
「あそこだね・・・・・・」
「ですね・・・・・・」
番台・・・・・・とでも言うのだろうか、そこに優しそうなおばあさんが座っている。
わたしたちの視線に気づくと、やっぱり一瞬物珍しそうな表情はするのだけど・・・・・・歳の功かそれ以上どうというふうでもなかった。
みんなで番台に向かい、そして事前に受け取っていた現地の通貨を出す。
「すみません・・・・・・これで、入浴・・・・・・と、それから・・・・・・着替え、買える・・・・・・んですよね?」
「ええ、四人分丁度・・・・・・」
おばあさんはそう言って、他の現地のお客さんに向ける表情と同じように笑うと、人数分の着替えと・・・・・・それから、これは料金分に含まれてなかったはずなのに、脱いだ服を入れる袋もくれた。
「あ、おばあさん・・・・・・これ・・・・・・」
「いいのよ・・・・・・。必要でしょう?」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
みんなそれぞれ自分の分の着替えを受け取って、脱衣所へ向かって行く。
わたしもぺこりと軽くおばあさんに会釈してその後に続いた。
脱衣所まで来ると、もう浴場の熱気を肌に感じる。
靴は入り口のところで脱いだので、ペタペタ木製の床の上を歩いて、みんなで隣接した荷物入れにそれぞれの持ち物を収めた。
と言ってもさっき貰った着替えだけだけど。
しかしこれで、やっとこの服を脱げる。
とっくに乾いてはいたけど、やっぱり匂うし、ベタつく感じはするしで、嫌は嫌だったのだ。
ラヴィもコムギも、思うままに服を脱ぎ始める。
わたしも、そう時間はかけずにすっぽんぽんになった。
脱いだ服は貰った袋に詰めて、荷物入れにシュート。
入浴の準備は整った。
のだが・・・・・・。
「あれ、サチ? どうしたの・・・・・・?」
サチはなんだか、わたしたちが裸になったのを見て目を白黒させている。
そういうサチは、未だ下着のみを残してもじもじしていた。
「いや、その・・・・・・そんなに躊躇いないのって・・・・・・普通、なんですか・・・・・・?」
「「あー・・・・・・」」
サチに言われて、三人で目を合わせる。
わたしとラヴィ、それからコムギは・・・・・・もうとっくに互いの裸なんて見慣れていて、だからそこに特段恥ずかしいという感情が湧かないのだ。
一番最初に肌を晒したときがどうだったかは・・・・・・正直もう覚えてない。
「えっと・・・・・・私たちはもう行ってるから、後からちょっと遅れて入ってきなよ。別にそんなじろじろ見たりもしないからさ」
結局まぁ裸になるのは仕方ないとして、タイミングをずらせば至近距離でどうこうということはない。
そうラヴィが主張するが、サチは意を決したように首を横に振る。
「いえ、ここまで来たからには! 私だってみなさんとっ!」
言葉の勢いのまま、顔を朱に染めて下着を脱ぐ。
トレードマークってわけでもないけど、特徴的なメガネも外した。
いや・・・・・・順番はメガネが最後なんだ。
「ほぇ〜・・・・・・そう言えば確かにサチの裸見るの初めてだねぇ・・・・・・」
「ちょっとコーラル・・・・・・」
さっそくじろじろ見てしまったのをラヴィに釘を刺される。
はっ、と慌てて態度を改めようとするが、既にサチは耳まで赤くして腕で胸元を隠して俯いた。
なんだか・・・・・・そこまでちゃんと恥ずかしがられると、より見てはいけないものを見てしまった感じがしてどぎまぎする。
今回は裸を見る側の立場であるはずのわたしが、なぜだか恥ずかしくすらなってきた。
「だ、大丈夫、大丈夫! 気にすることないよ! サチの身体、すっごい綺麗だし・・・・・・わたしたちの中で、一番“ある”んじゃない?」
「ち、ちょっと・・・・・・! へ、ヘンなこと言わないでくださいよ! 余計気にしちゃうじゃないですか!」
完全にフォローの仕方をミスって、より空気を妙な感じにしてしまう。
「ええい、いいからもう行くよ・・・・・・!」
こうしていてもどのにもならないのを見かねてか、コムギはわたしたちの腕を引いて浴場へ向かって行った。
引っ張られる形で、浴場と脱衣所を隔てる戸の前までやって来る。
そしてさっきまでの妙な空気に追いつかれる前に、コムギはガラッと戸を開けて、わたしたち全員を自分諸共浴場に放り込んだ。
途端にムワッと立ち上ってくる熱気。
剥き出しの肌を包む湿度。
不思議な香りのする木で組まれた巨大な浴槽にはかけ流されてるお湯が絶えず溢れ出していた。
「ここが・・・・・・ニャパンのお風呂・・・・・・」
流れてきたお湯が、わたしたちの足を濡らす。
その暖かさは、足の裏から染み入るようだった。
「木で出来てるけど・・・・・・これ、腐んないの?」
「えと・・・・・・もちろん手入れ無しでは腐ってしまうでしょうけど、それでも腐りづらい種類の木が使われているようです・・・・・・」
やっぱり多少自分の体を隠しつつ、コムギの疑問にサチが答える。
ラヴィは恥ずかしがっているサチとは対照的に、腰に手を当て仁王立ちし・・・・・・ニヤリと笑う。
「まぁまぁ、そういうのはとりあえず置いといて・・・・・・せっかくありつけたタダ風呂だ! さっさと入ろう!」
ラヴィと同じように、わたしも・・・・・・目の前にお風呂があるなら・・・・・・もう我慢できるはずもなかった。
もくもくと、視界が湯気に濡れる。
その熱気に誘われるように、わたしたちはその温かな液体へと歩みを進めて行った。
続きます。




