奇妙な同盟
続きです。
「それで・・・・・・結局、一体何の用なの・・・・・・?」
ひとまず落ち着いた様子の二人に、改めてその用件を尋ねる。
だいぶ適当だけど、一応二人の名前も覚えたし・・・・・・。
“俺”がハンスケで“あっし”がハンゾウだ。
その一人称の違い以外は・・・・・・まぁ容姿も普通に違うは違うんだけど、身に纏う雰囲気が同じすぎてあんまり差別化できない。
性格も似たような感じだし・・・・・・。
わたしの言葉に、ハンスケの方が朗らか・・・・・・と呼べるかどうかは微妙な笑みで答える。
「へぇ、まあ用って程のもんでもねぇけど・・・・・・何せ異国の旅の方なんて珍しいもんすからねぇ。おまけに・・・・・・その・・・・・・なかなかべっぴんさんで・・・・・・へへ・・・・・・」
「馬鹿、ハンスケ! そういうのはまだ包み隠しとけってんだい! いいか・・・・・・こう距離の詰め方ってのはもっと自然にだな・・・・・・」
ハンスケの言い分に、今度はハンゾウが割り込み始める。
流石のわたしからも、思わず「はぁ・・・・・・」とため息が漏れた。
つまるところ・・・・・・結局大した用は無いみたいだ。
「ラヴィ・・・・・・」
これ、もういいよね・・・・・・という眼差しと共にラヴィに話しかける。
ラヴィはわたしの視線に頷いて、椅子から立った。
「さて、じゃあ・・・・・・みんな食べ終わったし、お会計してこうか。私たちだって暇じゃないからね」
ラヴィは「暇じゃないからね」の部分は絡んで来た暇人二人に目線を向けて強調する。
それにハンスケは「やっちまった」という表情をし、ハンゾウは「ばかやろう!」と小声で言ってハンスケの頭を叩いた。
そうして、ハンゾウがまだ食い下がる。
「まぁまぁ! まぁまぁ! どうか待ってくんなせぇ! あっしらの力になると思って・・・・・・!」
そうハンゾウが懇願するが、ラヴィは当然冷たくあしらう。
「はぁ、だから・・・・・・結局、なんかナンパかなんかでしょ・・・・・・。ちょーっと歳の差的にもあり得ないし、無謀だと思うけど? 私たち・・・・・・これからギルドに向かわなくちゃならないから、あなたたちに構っている暇は無いの」
ラヴィは、今度こそお店の中へ向かおうとする。
他の・・・・・・わたしやコムギたちも、もう二人には構わずラヴィについて行こうとした。
そんな時、ハンゾウはポカンと口を開けてラヴィの言葉を反芻する。
「ぎ・・・・・・るど・・・・・・」
数回その響きを口の中で確かめるようにして、そして何か光明を見出したかのように、消えかかっていた笑みを取り戻した。
そして先程までより元気な声色で言う。
「はいはい・・・・・・はいはいはいはい! ギルド! ギルドね! いやぁ、どこかで聞いた言葉と思ったけど、おたくらあそこへ行こうとしてたのかい!」
ラヴィは別段その言葉には反応しない。
しかし・・・・・・。
「しかし旅の方・・・・・・そのギルドってのは、ちと奥まったところにありまして・・・・・・現地の者の案内があった方がいいんじゃないかい? お嬢さん方、場所・・・・・・分かりますかい・・・・・・?」
「え、何・・・・・・!? 場所分かるの! あっ・・・・・・」
この言葉もラヴィは無視するつもりだったのだろうが、思わずわたしが口を滑らせてしまう。
もちろん、わたしたちがギルドの位置を知らないのは事実だ。
けれども・・・・・・その道を尋ねるのが、この人たちでなきゃならない理由は決して無い。
だから、この・・・・・・見るからに面倒そうな手合いに“わたしたちがギルドの場所を知らない”と知られてしまうべきじゃなかったのだ。
それに気づいて慌てて口を塞ぐが、当然一度飛び出た言葉がなかったことになるわけではない。
「へぇ・・・・・・」
つけ入る隙を見つけたハンゾウは、ニヤリと笑った。
すかさずそこに、ハンスケが援護する。
「そうそう、それに・・・・・・俺たちの話聞いてくれるなら、湯屋奢らせてもらいますぜ! お嬢さんたち、きっと体流したいでしょう?」
「えっ、お風呂・・・・・・ですか?」
わたしに次いで口を滑らせたのはサチだった。
そういえば結構前からお風呂入りたがってたし、少なからず頭の片隅にいつもお風呂のことがあったのだろう。
ただ、口を滑らせたのサチだけでもなかったようで・・・・・・ハンハンブラザーズ(仮称)たちも「えっ、金はちょっと・・・・・・」「ここまで来たらケチるこたねぇだろ! あんたこそ粋なところ見せやがれ!」と言い合っていた。
「はぁ〜・・・・・・」
またやかましくなって来たことに、ラヴィがこめかみを押さえてため息を吐く。
「なんかもうさ、よくない? 逆にめんどそうだし、あたしもお風呂入りたいし。奢ってくれるってよ。・・・・・・ね?」
コムギがもうめんどくさがって、二人の提案を飲むようにラヴィに促す。
“奢る”の部分に念を押すみたいに、最後はハンゾウたちに目線を送っていた。
言い合っていた二人も、こうなってはそれに頷くしかない。
出した言葉を引っ込められないのは、お互いそうなのだ。
ラヴィはそれに、諦めたかのように肩を落とす。
「はぁ、分かった・・・・・・。じゃあ今回は特別に・・・・・・二人の手を借りることにするよ。た・だ! コーラルたちに手を出すのは許さないからね!」
「え、ええ・・・・・・そりゃもちろん!」
「ナンパは二の次、あっしらにもまた・・・・・・別の目的がありやすから!」
こうして、ラヴィと二人の間に・・・・・・合意の元一旦の利害の一致ということで関係が築かれる。
その流れで・・・・・・わたしたちは、ひとまず・・・・・・やっとこさこの海水を潜り抜けて来た身体を洗い流すために、ニャパンの大衆浴場へ向かうことになった。
因みに、毒を食らわば皿までってことで・・・・・・蕎麦代も奢ってもらった。
ちゃっかり二人もそれで出禁解除されてたから、まぁこれに関してもお互い旨みはあった。
続きます。




