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半人前は二人で一人

続きです。

 そうして食べること十数分。

慣れないながらも、蕎麦はほとんど完食に近い状態まで来ていた。

箸使いには・・・・・・これといって成長は感じられないけど。


 とにかく、もう蕎麦自体はすっかり平らげてしまって、あとは薄切りにされた鳥肉二切れを残すのみだった。

基本的にさっぱりした仕上がりのこの蕎麦という料理において、この鳥肉の油がアクセントとなっている。

そういった意味で非常に完成度の高い料理と言えるだろう。


 少しつゆを飲んでから、いよいよ最後の一口と・・・・・・その鳥肉に箸を伸ばす。

そのときだった。


「いやはやお嬢さん方、ここの蕎麦はいかがかな?」

「まぁ名店ってほどじゃないが、なかなかいい味だったろう?」


 わたしたちの食事の終わるタイミングを見計らっていたかのように、二人の男が妙な距離感で話しかけてきた。

お店の中から出て来たが、どうも・・・・・・そのお店の人とは思えない。

張り付いたような薄ら笑いが・・・・・・なんというか、少し胡散臭い感じがした。


「えっと・・・・・・」


 いきなり出て来た二人にどうしたものかと困っていると、その二人は勝手に互いに話し出す。


「あーあー、いけねぇや。だから言ったんだよ、いきなり話しかけるなって」

「そうは言ってもよぉ、俺ぁどうしたもんだか・・・・・・。どうもこういうのは慣れねぇからよ」

「ったく、みっともなく鼻の下伸ばしてたくせに・・・・・・いざってなると他人頼りかい。あーあー、てめぇみてぇなナヨナヨした男ばっかりだからミコ様も誰にも振りむかねぇ」

「なんだと!? そういうあんたもなぁ・・・・・・!」


 なんだか勝手に白熱してだんだん喧嘩じみてくる二人。

わたしたちに声をかけるように用意したであろうあの薄ら笑いもすっかり剥がれて、お互いに怒りの形相である。

何らかの目的があってわたしたちに話しかけたはずが、今ではそんなわたしたちなんか眼中に無く、二人で取っ組み合いを始めてしまった。


「あの〜・・・・・・」


 流石に止めようかとも思ってそろりと手を伸ばすが、まるで気づいちゃいない。

あんまり近づきすぎると殴り合いにでもなった時に巻き込まれそうで、これ以上どうということもできなかった。


 サチは迷惑そうに少し距離を取り、ラヴィは見せ物でも眺めているような感じで様子を眺めながら蕎麦つゆを啜っていた。

そこに背後から力強い足音がどすどすと近づいてきて、お店の中から額に青筋を立てた店主さんが出てくる。

最初会ったときは優しそうな表情をしていたはずの店主が、目を剥いて恐ろしい表情を浮かべていた。

そのありありと眉間の皺として刻まれた怒りを、店主は声にして放出する。


「こら!! ハンスケ、ハンゾウ! うちではナンパも喧嘩もするなって言っただろうが!! お前たちは・・・・・・これで何度目だと思っていやがる! ええい、とうとう愛想も尽きた! 今度こそお前らは出禁だ!!」

「へ・・・・・・?」

「いやいや、あっしらはそんな・・・・・・」


 店主の怒号を受けて、えっと・・・・・・ハンスケ、と・・・・・・ハンゾウ?はさっきまでの喧嘩は何だったんだというくらい素早い切り替えでわざとらしく肩を組む。

しかし微妙に歩調が合わなかったらしく、その途中でも若干言い合いみたくなっていた。


 そんな振る舞いに店主が騙されるはずもなく、しっかり一発ずつ二人をボクッと殴り付けてお店に引っ込んでいく。

二人はその後ろ姿を見て、やっぱり肩を組んだまま「お前のせいだ」とかなんとか言い合っていた。


 二人の背後に、今度は別の影が近づく。

それは二人の肩をポンと叩き、そして心底面倒そうな声で言った。


「はぁ・・・・・・二人とも、そこまでにしといてくれ・・・・・・。その・・・・・・みんな困惑してるから・・・・・・。俺も・・・・・・」


 その影、というのは・・・・・・ナエギだった。

なんだか珍しく頼もしい感じで二人を諌めてくれた。


「こ、これはこれは・・・・・・」

「いやはや、どうも情けねぇところ見せちまったみてぇで・・・・・・へへ・・・・・・」


 ナエギに水を差されたことで二人はやっと冷静になる。

お互い気まずそうに頭を掻きながら肩組みを解除した。


 しかし・・・・・・なかなか面の皮が厚いようで、この期に及んでまだ話を続けるつもりらしく、へこへこ頭を下げながら自己紹介をしてくる。


「あっしがハンゾウで・・・・・・こっちの半人前が・・・・・・」

「馬鹿言わねぇでくれ、半人前のハンゾウはお前だろ。へへ、どうも見苦しくてすいやせん・・・・・・俺はハンスケってもんです」


 ナエギに着いてきてなのか、見物しになのかは分からないが、コムギも完食後のお椀を持ったままこちらにやってくる。


「何これ・・・・・・?」

「えっと・・・・・・ちょっと、よく分からない・・・・・・ですね・・・・・・」


 コムギの疑問に、サチは苦笑いするしかなかった。

続きます。

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