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続きです。

 しばらく悪戦苦闘していると、それを見かねたサチがわたしとラヴィの方を向いて言う。


「これは・・・・・・お箸、です。非常にシンプルなものですが、その汎用性の高さから真理の庭でも評価されていますよ。まぁ・・・・・・もう身をもって体験したので分かったかと思いますが、多少の練習が必要です・・・・・・。いいですか?」


 サチはお尻をずらして少しだけ体をこちら側に向けると、ラヴィとわたしの眼前に・・・・・・そのお箸を握った手をずいと突き出してくる。


「まず・・・・・・持ち方は、こう・・・・・・です。これで・・・・・・挟んだり、掬ったり、そして・・・・・・まぁこれはニャパンにおいては行儀が良くないとされているんですけど、刺したりもできます」


 実演を織り交ぜ、細かく説明してくれるサチ。

いったいいつどこで練習したのか、確かにサチの手つきはわたしたちとはまるで異なる。

見よう見まねでわたしたちもやってみるが、正直なところ・・・・・・できている気がしない。

やり方を教わって尚、やっぱりサチの滑らかな動作とはまるで違うのだった。


「まぁ・・・・・・とりあえず、向こうも苦戦している様子ですので・・・・・・一旦ナエギさんたちの方言ってきますね・・・・・・」

「あ・・・・・・」


 本当はもうちょっと教えてもらいたかったが、あーだこーだ言いながら悪戦苦闘しているイースト兄妹の声がこちらまで届いてくるので、そちらへ向かうサチを止めることはできなかった。

あの感じは・・・・・・放置したらこぼしかねない。


「えっと・・・・・・こう、やって・・・・・・」


 サチが去ってしまったので、自分の握る箸先と睨めっこして正しい形になるように調整する。

なんだか普段は使わない筋肉を使っている感じがして、それだけで手が少し震えた。


 それでもその状態をなんとか維持したまま、蕎麦に箸を滑り込ませる。


「くっ、あっ・・・・・・」


 下手したら手がつりそうだなんて考えながら、箸先をゆっくり開く。

そして麺の束を・・・・・・挟む。


「いよし! ねぇラヴィ! 見て見てっ!」

「いや・・・・・・それじゃまだ上手くいってるか全然分かんないよ」


 自慢するタイミングが早すぎたようで、ラヴィからお褒めの言葉は頂けない。

でも構わない。

ここから、ラヴィの期待通りの光景を見せてやればいいのだ。


 運命の瞬間。

実際に今箸を動かしているわけでもないラヴィすら、息を飲んでその瞬間を見つめる。

そして・・・・・・。


「・・・・・・っ」


 恐る恐る、ゆっくりと・・・・・・掴んだ麺を、持ち上げる。

力の均衡が崩れて箸先がブレるが、それでも・・・・・・それでも蕎麦は落ちない。


 持ち上げた蕎麦を口に運ぶ・・・・・・というよりは、むしろ口から近づく感じで、とうとうリフトアップした麺に口をつける。

そうなったら、もう・・・・・・勝ち、だ。


 麺が箸から滑り落ちてしまう前に、それを一気にすすり込む。

そして数回の咀嚼の後にそれを飲み込んだ。


 すっかりやり切ったつもりになって、ラヴィの方を向く。


「ど、どーよ! わたしにかかればこんなもんよ!」


 などと威張ってみるが・・・・・・。


「で、味は・・・・・・?」


 というラヴィの一言に何も言えなくなってしまう。

箸を使いこなすことに集中するあまり、その味を確かめる余裕がなかったのだ。


「あー・・・・・・っと、美味し・・・・・・かった、よ? うん・・・・・・だと思う、たぶん・・・・・・」

「はは・・・・・・それなら結構・・・・・・」


 ラヴィも、これには呆れた風に笑うしかなかった。


 しばらく二人で拙い手つきで食べていると、向こうでのコーチングを終えたサチが戻ってくる。

サチはこんなわたしたちを見て「あはは、頑張ってください!」と朗らかに笑った。

続きます。

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