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城下町と異邦人

続きです。

 立ち並ぶ建物に、まだ朝になってからおそらく二時間も経っていないのに賑わう往来。

すれ違う人々、わたしたちを追い抜いていく人、その全ての人々が必ずと言ってもいいほどわたしたちを一瞥していった。


「ここがニャパン・・・・・・」


 町に入っていく前にも言った気がするが、踏み入ってからももう一度繰り返す。

今まで見て来たどんな町とも雰囲気が違う、本当に不思議なところだ。


「えっと・・・・・・それで、わたしたちは・・・・・・ギルドに行けばいい・・・・・・んだよね?」

「そう、なるね・・・・・・」


 見慣れない町並みに圧倒されながら、わたしの言葉にラヴィが答える。

わたしの中では物知りなイメージのラヴィでも、独特の発展を遂げた島国はやはり物珍しく映るようだ。


 わたしもラヴィと同じように、歩きながらあちこちに視線を這わせる。

それは決して確かな意志を持った視線ではなく、無目的にただあたりの様子を網膜に映すだけのものだ。

しかしその一方で、漠然とではあるがギルドらしきものを探してもいた。


 きっと、ギルドの建物は・・・・・・真理の庭の人たちが建てるだろうし、だからわたしたちの目にもすぐに“ギルド”と分かるものに映る・・・・・・と、そう思っていた。

のだが・・・・・・。


「ねぇ、ラヴィ?」

「どうした、コーラル?」


 言葉ではそう聞き返してくるが、わたしが言おうとしていることはもう分かりきっているようで表情も変えず、こちらを見ることもない。

そんなラヴィに・・・・・・おそらく想像した通りであろう言葉を送る。


「ギルド・・・・・・どこ・・・・・・?」


 十分に大規模な町ではあるから、まぁそうすぐ見つかるものでもないのだろうけど・・・・・・。

わたしの楽観的な推測は、おそらく外れだ。


 建物の並びや道の通り方はずいぶん整然としているようだから、そこに例えば・・・・・・それこそパシフィカのような建築様式の“異物”があるようなら、なんとなくでもそういうノイズは感知できるはずだろう。


「と、すると・・・・・・どうする? ひとまずアレ、目指してみる・・・・・・?」

「まぁ・・・・・・やっぱりそうだね・・・・・・。アレだよなぁ・・・・・・」


 わたしとラヴィの会話に、みんながアレの方を向く。

まだこの町にたどり着いて間もないのに“アレ”で共通認識が得られてしまうほど“アレ”は目だっていた。


 おそらく町の中央・・・・・・。

まだこの町に入ってすぐのわたしたちにもよく見える・・・・・・巨大な建造物。

この町の中からならどこからでも見えるであろう巨大な“石垣”。

ただでさえスケール違いなその石垣の上に威圧的かつ荘厳に聳えるのは・・・・・・見た目こそわたしたちの知るものとはかけ離れているが、知っている言葉に当てはめれば、それは・・・・・・おそらく“城”だった。


「アレ・・・・・・何階建てだよ・・・・・・。パッと見でも・・・・・・四・・・・・・五階はあるんじゃないか・・・・・・?」


 ナエギが手でひさしを作ってその巨大な影を見上げる。

サチも圧倒されるように、しかしどこか不思議そうな表情を浮かべて城を見上げていた。


 ランドマークという言葉が相応しすぎるその巨大さ。

この町について全然知らないながらも、あそこまで行けば絶対何かがあるというのは明らかだった。


「じゃあ・・・・・・行く、かぁ?」


 あそこに行けば何かがある・・・・・・というのは、決していいことばかりを指していない。

少なくとも・・・・・・流れ着いただけの異邦人が不用意に近づいていい感じではない・・・・・・気がする。

だから、こう・・・・・・ビビってるわけじゃないけど、いまいち気乗りしない。


「ねね、その前にさ・・・・・・!」


 しかし、そんな逡巡にコムギが明るい声で割り込む。


「あそこ行く前にさ、ほら・・・・・・あたしたち、朝食がまだじゃん?」

「え・・・・・・?」

「港町で買ったのも・・・・・・ほとんど食べちゃうか海の藻屑になるかしちゃったし! ここはさ・・・・・・提案なんだけど・・・・・・!」


 コムギは軽やかに、そして鮮やかにわたしたちの前まで躍り出る。

なんの迷いもなく、なんの憂いもなく・・・・・・ただ自らの肉体の声に忠実に・・・・・・。


「色々考えるのは後にして・・・・・・ご飯にしない? せっかくだしさ!」

「はは・・・・・・」


 コムギの提案にラヴィが肩の力を抜いて笑う。


「確かにもっともだね。腹が減っては戦はできぬって言うし・・・・・・どこか、近くの食べ物屋さんに入ってみようか」


 そう答えるとラヴィは、さっきまでとは違う表情で辺りを見回し始める。

ギルドを探してたときより、今の方が楽しそうだ。

そして・・・・・・それはわたしも同じ。


「・・・・・・っと、食べ物屋を探すなら・・・・・・やっぱり・・・・・・」


 辺りを探り回っていたラヴィの瞳がわたしに止まる。


「コーラル! 自慢の嗅覚で美味しいところを突き止めて・・・・・・!!」

「えぇ・・・・・・!? しょうがないなぁ・・・・・・」


 別に自慢したことのない嗅覚で、食べ物の匂いを探る。

別にわたしの感覚ってそんな鋭敏じゃないのだけど・・・・・・。


「お・・・・・・!」


 しかし、そんなわたしの自己認識とは裏腹に・・・・・・大した時間も要さずに微かだが美味しそうな匂いをキャッチする。

どうやら食べ物限定でわたしの嗅覚は本来以上の能力を発揮するみたいだ。

今度からは自慢した方がいいだろうか。


 ラヴィに大役を賜った案内人として、ビシッと行き先を指差す。


「方角はあっち! 肉の焼ける匂いを察知!!」


 ニャパンに流されてから東西南北は全然分かんなくなっているので、“あっち”にて失礼。

太陽がどちらから昇って来ていたかを把握していれば分かることだったのにというのは内緒だ。

こういうときに限ってこの手の知識は「あれ? どうだったけ?」となるのが世の常だ。


「はぁ・・・・・・本当ならまずこの服をなんとかしたいところでしたが・・・・・・仕方ないですね・・・・・・。案外、こういうところに情報が集まってくるかもしれませんし・・・・・・」


 服に染みついた海水の匂いを気にしているサチも、この行き先の決定に同意する。

わたしの嗅覚はお風呂の探知には使えないので仕方ない。


 こうして、この町で・・・・・・まずは最初に・・・・・・とりあえずご飯を摂ることに決まった。

続きます。

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