ヤマイヌとの別れ
続きです。
わたしに代わって、ラヴィがその攻撃を受け止めようと剣を振り上げる。
しかし間に合わない。
わたしに迫ったヤマイヌの刃はわたしの喉にその先端を深々と突き刺さ・・・・・・。
「わ・・・・・・」
突き刺さらなかった。
誰の妨害があったわけでもなく、もちろんわたしの反応が間に合ったわけでもない。
恐る恐るヤマイヌの顔を見ると、ヤマイヌはすっきりした表情でニッと笑った。
「冗談でござる。これで一勝一敗、忍者たるもの負けたままでは要られぬ。さぁ・・・・・・お主の一勝分の代価は、もう十分支払ったであろう? この小屋の奥の林を抜ければ、整備された道に出る。その道を歩いていればじきに都も見えてくるであろう」
「なにさ・・・・・・人騒がせなやつ」
「忍者っていうのが・・・・・・だから、なんかそういう感じのやつなんじゃないか?」
ヤマイヌのいきなり見せた攻撃に兄妹が愚痴る。
ともあれ、とりあえず一旦は・・・・・・わたしたちの進むべき道も分かったようだった。
「それ・・・・・・どうするつもりですか・・・・・・?」
サチが眼鏡の位置を直しながら、卵を指してヤマイヌに言う。
その眼差しにはやや批判的な色が滲んでいるようだった。
「・・・・・・無論、育成法に関する書物を手に入れ・・・・・・桜龍を完成させるつもりでござる。お主たち・・・・・・確か、コーラルに・・・・・・ラヴィ・・・・・・と申したか? もう、お主たちにも関係ないであろう? ここまで着いてくるのを許したのも、拙者なりの誠意にござる。邪魔だてするのであれば・・・・・・例え女子供だろうと、その喉を噛み潰すことを厭わない」
ぎろり、と・・・・・・ヤマイヌがお遊び抜きの正真正銘「暗殺者」の顔をする。
サチはそのヤマイヌに不快感を隠そうともしないが、それ以上何かを言うこともなかった。
「まぁ・・・・・・ともかく、私たちも私たちで・・・・・・色々と片付けないといけない問題がある・・・・・・。ここで足を止めているわけにもいかないだろう」
「ラヴィ・・・・・・」
ここまではわたしの直感というか・・・・・・根拠のないある種の信頼感を持ってやって来たが、ラヴィはここからの歩み方を理性的に論ずる。
わたしたちの目的は・・・・・・結局のところこの地には無い。
早いところ船を直して、真理の庭に発つべきなのだ。
決して猫の国の不穏な流れを断ちにきたわけでもなく、ヤマイヌの野心の火を消しにきたわけでもない・・・・・・。
「・・・・・・分かった。行こう・・・・・・」
どこか後ろ髪引かれるような気持ちはあれど、ヤマイヌと卵を残して小屋を後にする。
一瞬振り返って見つめた卵に触れるヤマイヌの姿は、今まで見て来たヤマイヌの印象とはまたどこか違ったものに見えた。
続きます。




