桜龍の卵
続きです。
「着いてくるな」
「やだ!」
「・・・・・・着いてくるなと言っている・・・・・・」
「やーですぅー・・・・・・」
あの後、わたしたちの手で船を運べるわけもなく、また見知らぬ土地でどこへ向かったらいいかも分からず、ヤマイヌの後をつけていた。
初めは尾行だったのだけど、すぐにバレて今に至る。
「でも・・・・・・コーラル、実際ヤマイヌに着いて行ってどうするの?」
ラヴィはわたしに至極真っ当なことを尋ねる。
実のところ、特段わたしに深い考えがあるわけでもなかった。
「んー・・・・・・まぁ、こうやって着いて行ってれば、どこかには着くでしょ・・・・・・」
「どこかって・・・・・・どこですか・・・・・・」
わたしの言葉にサチは呆れて笑う。
その行き先を知っているのは、ヤマイヌだけだ。
でも、ヤマイヌもヤマイヌで・・・・・・わたしたちが着いてきているのをそんなに問題にしているようにも思えない。
わたしたちなんか撒こうと思えば容易く置き去りにできるはずだ。
こうしてわたしたちの同行を容認している以上、とんでもないところへは向かわないはずだ。
背の低い草が風に葉を揺らす砂利道を歩くこと数分。
気がつけばもう海は見えなくなっていた。
もう十分な明るさに達した太陽が、半分獣道みたいな道を照らす。
ヤマイヌはそこから、藪をかき分けるように更に道とは言い難い道へと入って行った。
そうして右へ行ったり、左へ行ったり・・・・・・もうなんだかよく分からない道順を進むと、急に視界が開けて・・・・・・そこに一軒のボロ屋が現れる。
「これは・・・・・・」
しばし足を止めてその様子を眺めるが、ヤマイヌは構わずずんずん小屋へ進んでいく。
「あ、ちょっと・・・・・・」
慌ててその背に追いつこうと走り出すが、踏み出した足がぬかるみにとられる。
地面から染み出してきた水が靴の中まで染み込んできて気持ち悪い。
けど・・・・・・まぁ、体の汚れとかに関しては正直今更だ。
「おっ、とと・・・・・・」
ぬかるんだ地面を拙い足取りで進み、ヤマイヌの入って行った小屋を目指す。
そうしてやっとこさたどり着いたそこには・・・・・・。
「あっ、と・・・・・・これは・・・・・・」
「どうした? コーラル?」
ラヴィがわたしの肩越しに小屋を覗く。
そしてわたしと同じものを視界にとらえた瞬間、その視線をヤマイヌに滑らせた。
「足場悪い〜・・・・・・あたしもうお風呂とか入りたいんだけど」
「流石にあのボロ屋に風呂はないだろ・・・・・・。あのヤマイヌってのも、いまいちよく分かんねぇし」
コムギとナエギも、愚痴りながらわたしたちに追いつく。
サチもその後すぐに追いついて、わたしたちと同じ方を向いた。
ヤマイヌはまた、何かを企んでいる。
それは全て・・・・・・プレコを倒すために。
だから、わたしたちにそのために重要な何かを見せるはずはないと・・・・・・そう思っていたのだ。
それを見る前までは・・・・・・。
床すら張られていない小屋の内側。
枯れた藁の積み重なったところに・・・・・・あまりにも無造作に・・・・・・。
うっすら桜色の・・・・・・わたしの膝の高さくらいの大きさのある卵が置いてあった。
「それが・・・・・・?」
ラヴィが言葉少なにヤマイヌにその卵について尋ねる。
「決まっているであろう? これは・・・・・・血花・桜龍の・・・・・・卵だ」
猫組辻忍者・・・・・・ヤマイヌの居た里の切り札。
未だ生まれていない生体兵器の卵が、そこにはあった。
「これを私たちに見せて・・・・・・いったいどういうつもりだい・・・・・・?」
「別に見せたかったわけでもござらぬ。拙者はどちらでもよかった。着いてきたのはお主らよ」
ラヴィの問いに、ヤマイヌは答えない。
自らの真意は明かさず、ただ事実のみを突きつけた。
ヤマイヌは笑う・・・・・・。
「あるいは・・・・・・お主らを生かしておけぬ理由が欲しかっただけかもしれぬぞ? 無闇に殺すのも忍びないのでな。拙者の寝ぐらを突き止めてしまっては・・・・・・」
ヤマイヌの瞳が冷たく輝く。
「お主ら・・・・・・邪魔だな」
わたしの反応が追いつく前に・・・・・・ヤマイヌの刃が日陰を切り裂くように閃いた。
続きます。




