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猫の国

続きです。

「うぅ・・・・・・じゃりじゃりする・・・・・・」


 巨大な波に飲まれて、その後・・・・・・。

時間にして数秒。

気づけば砂浜まで流されていた。


 水中に落とされたのはついさっきのことなのだけれど、地上で浴びる重力をすごく久しぶりに感じる。

濡れ鼠なのも相まって体が重い。


 海水の混じった唾を吐きながら、体を起こす。

ラヴィもわたしと同じように浜に打ち上げられていた。


「ここは・・・・・・」


 どこだろう。

考えられるとすれば・・・・・・まさか、猫の・・・・・・。


「いや、そんなまさか・・・・・・」


 顎を拭いながら辺りを見回す。


「うぇ〜・・・・・・気持ち悪い〜」

「ああ、クソ・・・・・・持って来た種、全部どっか行った・・・・・・」


 ひとまず波打ち際にコムギとナエギも見つけられて、それには安堵する。

少なくともまぁ元気そうだ。


「っていうか・・・・・・これ・・・・・・」


 いったい何があったのかわからないが、浜にはわたし達以外にも沢山の人が横たわっている。

どれもやはり既視感のある、変わった服装の人たち。

その様子をラヴィも怪訝そうに見つめていた。


 少し嫌な感じがするけど、恐る恐る・・・・・・近くに倒れている人に近づく。


「あの・・・・・・」


 そしてその肩に手を伸ばし、触れる直前で・・・・・・伸ばした指先を引っ込めた。

触れずとも分かる。


「やっぱりこの人たち・・・・・・」

「・・・・・・死んでるね・・・・・・」


 ラヴィがわたしの横に並んで言う。

その言葉の通り、奇妙な装束に身を包んだこの人は既に息絶えていた。

その亡骸にはまだほんの少し温もりが残っていて、死後間もないことが察せられる。


 そんな死体が、いくつも・・・・・・無造作に転がっている。

明らかに普通の光景でない。

少なくとも・・・・・・パシフィカでは。


「とにかく、今はサチを・・・・・・」

「あっ・・・・・・」


 ラヴィの言葉に、この光景の衝撃を前に頭から抜け落ちていたサチのことを思い出す。

わたしたちの乗って来た船も、丁度この浜辺に打ち上げられていた。


 ラヴィと一緒に目に見えて壊れている船体に駆け寄る。

短い間だったし、命に関わるような事態にはなっていないだろうけど・・・・・・それでもやっぱり心配だ。


「よっ・・・・・・」


 急いで制御室のドアを開けようと引っ張る。

船体が歪んだせいで、かなり固くなっていた。


 金属がギリギリと軋む。

それでも力を込め続けると、やっとその扉は開いた。


「おわっ・・・・・・と」


 反動で尻餅をつき、またさらに一段階服の汚れが増す。

サチは開いたドアの隙間からぬるりと滑り出すように出て来た。


「サチ、大丈夫?」

「・・・・・・だ、ダイジョブデス・・・・・・」


 サチはラヴィの問いかけにうつ伏せのまま親指を立てる。

しかしその指も萎れるようにすぐにぐったりしてしまった。


「ちょっとこれ・・・・・・何がどうなってんの?」


 丁度そこに、コムギも辺りを見回しながら駆け寄ってくる。

ナエギはあまりにも無造作に転がる死体に複雑な表情を浮かべて、静かにコムギの後に着いてきていた。


「私たちにも・・・・・・まだなんとも・・・・・・」


 ラヴィはコムギの言葉にため息をつきながら空を仰ぎ見る。

今頃もう真理の庭に着いているくらいのタイミングだったはずだろうに、わたしたちがたどり着いたのは正真正銘の見知らぬ土地だ。


「考えられる可能性としては・・・・・・猫の国まで流されてしまった可能性が高い・・・・・・です」


 うつ伏せだったサチは仰向けになり、額に腕を乗せてそう呟く。

それが本当なら、あの海坊主というのにはだいぶ予定を狂わされてしまったことになるだろう。


「これ、船・・・・・・壊れちゃったけど・・・・・・」

「流石に水に浮かぶくらいのことは出来そうですが・・・・・・まぁそれだけではどうにもなりませんよね・・・・・・。猫の国に真理の庭の手が入ってからまだ日は浅いですが、意外にも高等な技術力を有していることが分かっていますから・・・・・・この国の技師がこの船を直せることを期待しましょう・・・・・・」


 サチは寝転がったまま、怠そうに息を吐く。

もう今は何も考えたくなさそうだった。


「しかしそうなると・・・・・・」


 サチに代わって、ラヴィが周りを一瞥しながら考えを巡らせる。


「どうにも・・・・・・この状況が気がかりだね・・・・・・」


 辺りに転がる亡骸。

仮にここが猫の国だとして、おそらくここでは何かが起きている。

そんな国で・・・・・・果たして他所から流れついたわたしたちの船を修理してくれる人など見つかるだろうか・・・・・・。


「それに、私たち自身・・・・・・今は自分の身を案じた方が良さそうだ・・・・・・」


 ラヴィの視線が、再び海に向く。

寄せては返す波を割いて、浜に上がってくる・・・・・・一匹の獣。

海坊主にトドメを刺した、巨大な犬・・・・・・あるいはオオカミ。

ここではわたしとラヴィだけが正体を知っているその獣が、その鋭い眼差しをわたしたちに向けた。


 かつてわたしたちを襲撃した辻忍者の一人・・・・・・。

あの時唯一取り逃がしてしまった、己の殺意と憎悪に従い続ける獣・・・・・・。

たしか、その名は・・・・・・。


「・・・・・・ヤマイヌ」

続きます。

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