海坊主
続きです。
どんな夢を見ていただろう?
とにかく、船の上という慣れない環境のせいか少し変わった夢を見ていた・・・・・・気がする。
だが、そんな夢の内容は・・・・・・鈍い頭痛を前に一瞬で記憶の底に沈んでしまった。
「いてて・・・・・・」
目を覚ますと、座席に寝転がっていたはずのわたしの体は床に投げ出されていた。
頭が痛いのも、その時にぶつけたからだろう。
普段なら自分の寝相が原因だと考えるだろうが、今は・・・・・・その原因があまりにも明らかすぎて自分を疑う余地がない。
まだ日の昇り切らない薄明るい時間。
船は異常な揺れに襲われていた。
荒々しい波が散弾のように部屋の窓を叩き、甲板を水浸しにしていく。
既にみんなはこの部屋には居らず、制御盤の部屋に集まっているようだった。
飛び起きたわたしも、すぐにみんなの元へ向かう。
荒れに荒れた海の中、サチは制御盤に食らいつくようにしがみついていた。
この異常事態は真理の庭側からも把握できているようで、制御盤の画面には昨晩ぶりのハンドレッドが映っている。
「ねぇ、みんな・・・・・・いったい何が・・・・・・?」
状況は分からずとも、この緊張感は伝わる。
何か危機的状況にあることは明らかだった。
「まだ分かりません。いったい何が起きているのか・・・・・・今先生が具体的なことを・・・・・・」
サチはわたしの疑問に答えながら、外の光景と制御盤の画面の間に視線を往復させる。
十秒も経たないうちに、ハンドレッドは結論を語り出した。
『君たちの・・・・・・この船の周りに、巨大な生物の反応がある。そして・・・・・・おそらくそれは・・・・・・』
ハンドレッドが言い切る前に、まるで船が何かに殴打されたかのように激しく揺れる。
その跳ね上がるような衝撃に、わたしたちは全員体勢を崩した。
「何・・・・・・あれ・・・・・・」
その最中に見た、外の光景に唖然とする。
海中から波を割って飛び出してきた、真っ黒な丸い頭。
弛んでシワのよった皮膚にぼんやりと浮かび上がるように、薄ら白く光った二つの目玉がこちらを見つめていた。
その不気味な眼差しにゾッとする。
こんな生物は見たことがない。
そして・・・・・・魔物ともどこか雰囲気が違う。
有機的なのに、どこか生物らしさを欠いていて・・・・・・その目玉からは本能や意志を感じなかった。
ハンドレッドが続ける。
『今・・・・・・君たちは猫の国のそばに居る・・・・・・。そしてその怪物の正体は、おそらく・・・・・・猫の国の生体兵器・海坊主だ』
続きます。




