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ハンドレッドとの通信

続きです。

 サチの肩越しに覗いた操作盤の画面に・・・・・・誰かの顔が浮かび上がる。

それは髪もすっかり白くなった老人だった。

顔に刻まれたシワが、その人物の過ごした年月の長さを物語る。

目尻に寄ったシワは全体的な印象をどこか柔和なものにしていた。


「こんばんは、先生。問題なく、予定通りそちらへ向かっています」


 サチは画面の向こうのおじいちゃんに穏やかな顔つきで現状を報告する。

まさかこの人が五賢人の一人・・・・・・なのだろうか・・・・・・。


「えっと・・・・・・どなた?」


 サチの後ろから、ナエギが画面を指差しサチに小声で尋ねる。

するとサチは誇らしげな笑みを浮かべて、わたしたちにその人を紹介した。


「こちら・・・・・・五賢人の一人、ハンドレッド先生です! 向こうでは結構お世話になってる先生でして、この船を手配してくださったのもハンドレッド先生です」

『どうもみなさん、ご紹介に預かりました、ハンドレッド・ゲイズです。この度は私めどもにご協力いただきありがとうございます。真理の庭も・・・・・・あなた方に最高のもてなしを・・・・・・』


 サチの紹介に、ハンドレッド・・・・・・先生、は、ぺこりとお辞儀する。

その時に、背後の本棚に並べられた沢山の分厚い本の背表紙が見えた。


「船、この人が作ったの・・・・・・?」


 直接尋ねればいいものを、なんとなくサチに向かって尋ねてしまう。

しかしその声は当然ハンドレッド側にも届いているわけで、サチが説明を始める前に先生自身が話し出した。


『ははは、君が・・・・・・コーラルくんだね? サチくんがそちらでお世話になったようで、私としても喜ばしいよ。サチくんは・・・・・・その少し考えすぎるきらいがあるようで、他の学生ともどこか距離を置いているようだったから、こうして楽しそうにしているのを見ると安心するよ』

「ちょっと・・・・・・先生・・・・・・」


 知られざる学校での姿を暴露されてしまって、サチが顔を赤くする。

それにハンドレッドは笑いながらも謝った。


『ああ・・・・・・それで、その船だったね。それは私が作ったわけではありませんよ。みなさんも真理の庭に到着したら会うことになると思いますが、それはムジカ先生の作られたものですよ。五賢人の中では唯一の女性で・・・・・・はは、まぁなんというか・・・・・・なかなかクセのある人ですから、すぐに分かると思いますよ』


 ハンドレッドの言葉に何か思い出したのか、サチが苦笑いを浮かべる。

サチがこんな表情をするということは、本当にクセの強い人なんだろう・・・・・・。


「そ、それで・・・・・・先生のご用件は?」


 サチが気を取り直して通信を繋いだ理由について尋ねる。

それにハンドレッドはやはり穏やかな表情で答えた。

まるで孫と話すおじいちゃんみたいだ。


『用件・・・・・・というほどのことではないよ。ただ船の起動信号を受け取ったから、少し様子を・・・・・・と思っただけなんだ。それと・・・・・・あとはお客人たちのお顔をいち早く拝みたかったのもあるかもしれませんね。みなさん若々しさに溢れ、大変結構です。会えるその時を楽しみにしていますよ』


 ハンドレッドはそれだけ伝えると、またぺこりとお辞儀をして・・・・・・通信を切ってしまった。


 短い会話ではあったけれど、その人柄の柔和さは十二分に伝わってきた。

五賢人なんて言うと、なんとなくちょっと恐そうなイメージがあったから、少し安心だ。


「あれが五賢人か・・・・・・。なんか、思ったより・・・・・・普通の人だね・・・・・・」


 わたしの中では概ね好印象だったのに対して、ラヴィは少し残念そうというか・・・・・・どこか退屈そうにする。

それにサチは笑って応えた。


「実際、ハンドレッド先生は・・・・・・生徒たちの間では普通すぎるって言われてる方ですから・・・・・・。それでも、みんなに愛されている先生ですよ? 他の先生に比べたら授業が退屈かもしれませんが、けれど大切なことですから」

「なるほど・・・・・・他の先生は普通、とは違うんだ・・・・・・」


 ラヴィはサチの言葉に頷いて、まだ見ぬ他ね先生に思いを馳せる。

まぁ確かに、どうせ真理の庭なんて行くんなら・・・・・・こう、なんかすごいものを見たいという気持ちはある。


 その後、話題は真理の庭の先生についてのものになり・・・・・・サチがある程度のことを説明してくれた。


 ハンドレッド先生、それにムジカ先生・・・・・・それについてはさっきの話に聞いた通り。

その後に教えてもらった残りの三人の先生も、やっぱり個性的なようだった。


 オルファクト先生。

植物についての専門家で、現在なの知られている植物の十数パーセントは彼の見つけたものだそうだ。

物静かで、慣れるまでは少し冷たい人に見えるそうだけど・・・・・・その実植物への愛に溢れた、結構な情熱家らしい。


 リック先生。

色々な動物、さらには魔物について研究しているとのことだ。

その分析方法が独特で・・・・・・彼は“食べる”というプロセスを経てその生き物について知るのだそうだ。

そのために、リック先生の授業はしばしば食事会になることも・・・・・・。

因みにゲテモノな場合も多いから、生徒からすれば結構要注意な授業らしい。


 最後に・・・・・・アイリス先生。

彼は・・・・・・五賢人の中で最も若く、そして最も厳しい先生・・・・・・だそうだ。

若いと言ってもまぁおじいさんではあるのだけれど、ともかくその気難しさから生徒からはいまいち敬遠されているらしい。

サチ自身も、この人については未だによく分かっていないということだ。


 そうした話を聞いているうちに、すっかり辺りは暗くなってしまう。

今では水面も真っ暗くなってしまって、その内側が覗けなかった。


 もう明日の朝には、わたしたちは真理の庭に居る。

遅れて如実になってきた実感を胸に、わたしたちは眠ることにした。


 船は闇の中を真っ直ぐに突き抜ける。

きっと、このまま明日まで・・・・・・。

続きます。

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