船旅
続きです。
夕焼けていく空のオレンジが水平線に滲む。
わたしたちを乗せた船は軽やかに波を割って水面を滑っていた。
初めこそその揺れに多少参ったのだが、それもすぐに慣れた。
もともと常日頃から色々なものに揺られているから、そういう意味では三半規管が鍛えられているのかもしれない。
少しうるさいかもと思っていた駆動音も、船がトップスピードに乗ってからはほとんど波の音に混ざってしまった。
今は・・・・・・制御盤のある部屋の後ろの部屋・・・・・・一個のテーブルを囲うように座席の設置されたスペースで各々気ままに過ごしていた。
座席は存外柔らかく、たぶんベッドの代わりも兼ねている。
いや、もしかしたらそんな設計意図は無いのかもしれないけど・・・・・・みんながみんなそれぞれの快適を追求するうちに、それらが収束する形でみんな座席の上に寝転がっていた。
サチだけがまだ行儀良く座っている。
座席に腹這いになって、サチの膝下へ近づく。
そこからサチの顔を見上げ、一つ尋ねた。
「ね、ね? どれくらいで真理の庭には着くの?」
「そうですね・・・・・・つつがなくいけば、明日の日の出にはもう着いてますよ」
「そっかぁ、明日かぁ・・・・・・」
乗る前は散々怖がってたくせに、今ではちょっと降りるのが惜しい。
せっかくだから、もうちょっとだけ乗っていたい気分だった。
存外快適だし、この船に対しての絶対的な信頼感が芽生えてからは、わたしの目にどこか恐ろしげに映っていた海もその美しさだけを感じさせてくれる。
半身を起こして、ガラス戸の外へ視線をやる。
もう陸地は見えない。
広々とした海の中、ただ沈みかけの太陽のみがキラキラ輝いていた。
しかし、突然そこに別な光が加わる。
その光の出どころは・・・・・・操作盤の部屋からだ。
「あり? なんか不具合・・・・・・?」
前の部屋から漏れる光に目を細める。
しかしサチはすぐに首を横に振り、わたしの不安の芽を払拭してくれた。
「違いますね・・・・・・何か、通信が入ったみたいです・・・・・・」
サチは一人立ち上がり、操作盤の前へ向かう。
わたしは、とりあえず様子を見にその後に続く。
それを見たラヴィたちも、少し億劫そうに体を起こし・・・・・・やがてサチの元へ向かった。
続きます。




