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出航!!

続きです。

「えっと・・・・・・これが・・・・・・?」


 数多くの船が出入りを繰り返す船着き場。

その中でわたしたちがサチに案内された船は・・・・・・。


「はい、これですね」


 周りにある船とは全く異なるものだった。

周囲の船と比べると一回り小さく、たぶん本来なら個人用か・・・・・・そうでなくても、わりとわたしたちの五人でギリギリくらいに見える。


「まぁまぁ、見かけは不細工かもしれませんが・・・・・・性能は折り紙付きですよ。なんて言ったって五賢人の一人が主導して作られたものですから」

「五賢人、ね・・・・・・」


 ラヴィが眼前の船を見て、値踏みするような眼差しを向ける。

正直なところ・・・・・・わたしたちは五賢人の凄さみたいなものを身をもって知っているわけじゃないから、その名前を出されることで絶対的な安心感を得られるわけじゃないのだ。

ラヴィはギルドにある文献とかをそこそこ読み漁っているようだから、わたしよりはまだ実感あるのかもしれないけど・・・・・・かなり読んでるものは偏ってるみたいだから実際のところは全く分からない。


「えっと・・・・・・ていうか、その・・・・・・船って漕ぎ手っていうか・・・・・・動かす人が要るんじゃないの? いくら海が初めてって言っても、あたしたちもそれくらいは知ってるよ?」

「まぁ、その辺は・・・・・・だからなんかあんじゃねぇのか? よくわかんねぇけど・・・・・・」


 兄妹も一風変わった船を見つめて不安そうな表情を浮かべる。

そもそも船旅自体が初めてなわたしたちには、こう・・・・・・変わり種が出てくると正直ビビってしまう。


 そんなわたしたちの不安を感じ取ってか、サチは一足先に船体に飛び乗る。

既に他のものとは材質から違うその船は、サチの体重を受け止めて柔らかい波の中小さく揺れた。


「お、おお・・・・・・」


 確かに見た目以上には安定感があるようで、それには素直に感心するが・・・・・・それはそれとして恐怖心が勝る。


 わたしが踏ん切りつかずに広すぎる海の前ではあまりにもちっぽけな船を見つめていると、サチに続いて恐る恐るコムギが甲板に足を踏み入れた。


「よっ、と・・・・・・うははは、なんか慣れないね・・・・・・」


 初めての船の上で小鹿のようによろめくコムギを、サチが手を取って支える。

そうして臆しながらも自立すると、コムギはわたしたちの方へ笑みを向けて親指を立てた。


「ええい、ままよ!」


 ナエギも、妹に負けじと船に飛び込む。

無駄に勢いよく飛び乗ったのと、そもそもこの面子じゃ一番体重があるのとで、サチのときより激しく揺れた。

コムギはその揺れに倒れこそしないが、怖がってしゃがむ。

ともあれ、船はしっかりとその役目を果たし続けていた。


 正直、もう船の能力についての疑いは無い。

こうして三人が乗っても、船の状態は誰も乗っていなかった時と依然変わりない。

それこそ、上に乗っている人数が三に増えただけである。


 で、それはそれとして・・・・・・だ。

ここからはわたしの問題・・・・・・。

船が・・・・・・じゃなくて、わたしが。

わたしが、怖い。


 だって海だ。

泳げないわけじゃないけど、川や湖とは話が違う。

その果ては見えなくて、そこの見えない水の奥には何が潜んでいるか分からない。


「まったく、しょうがないな・・・・・・」


 いまだに勇気の出ないわたしを尻目に、ラヴィが船に上がる。

そうして船体の縁を掴んで、わたしに向かって手を伸ばした。


「ほら、おいで・・・・・・私のお姫様」

「お姫様・・・・・・って、なにそれ・・・・・・」


 ラヴィの言葉に苦笑する。

そして差し出された手のひらを掴まえて、船と地上の間にある海水を跨いだ。


 すぐにわたしのつま先は、船の硬い甲板を捉える。

わたしの姿勢が整うのを見ると、ラヴィはゆっくりその手を離した。


「ふふ、準備は・・・・・・良さそうですね・・・・・・」


 サチは全員の搭乗を見届けると、操縦スペースらしきところに体を滑り込ませていく。

わたしたちも勝手が分からない故に、それに倣って同じ部屋に入った。


 操作盤のようなものを見つめるサチに、後ろからやいのやいの話しかける。


「え、サチが動かすの!?」

「あ、お兄ちゃんお兄ちゃん! 後ろにも部屋ある!!」

「ほんとだ・・・・・・座席、ってよりは・・・・・・本当に部屋って感じだな」


 みんな好き勝手にあちこちを眺めつつも、サチがタッチパネルに手を伸ばすと・・・・・・そこに全員の視線が集まった。


「あの、ちなみに・・・・・・みなさんそんな注目していただいているところ悪いのですが・・・・・・。これ、自動操縦なので・・・・・・私は電源入れるだけですよ?」


 ポチッと・・・・・・実際には音もなく、サチが操作盤を起動する。

その瞬間、部屋の中の明かりが点いて・・・・・・まるで準備完了を告げるかのように船体が・・・・・・おそらく運航原理の根幹たる部分が駆動音と共に震え出した。

続きます。

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