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人の番人

続きです。

 わたしたちは、教授の遺志に従って世界樹を守り続けた。

あれは何人にも侵されてはならない聖域。

決して人の歪んだ欲望や思想にその摂理を汚されてはならないのだ。


 人として、超えてはならない一線がある。

人類がプラヌラと出会うまで、わたしはその実感が無かった。

それどころか・・・・・・そういった倫理観は発展の妨げになると思ってさえいた。

だが、プラヌラに触れて・・・・・・初めてあの言葉の意味が分かった。


 だって、プラヌラに出会ってから・・・・・・信じられないほどの速度で人類は終わりに向かっていったのだから。


 わたしとダーウィン、それから“彼”は人の番人だ。

人が人の領分をはみ出さないように、こんな世でも人が人で居続けられるように世界樹を人々の野心や悪意から守る。

 

 まだ若いわたしたちには・・・・・・迷いが無いわけでもない。

けれども、教授の信念に対しては疑いようがない。

実質、病も死も失われたこの世界で・・・・・・それでも人として老い、人として眠ったのだから。

教授は自らの言葉通り、人の道を歩み続けたのだ。


 わたしたちが目の当たりにしたそれは、答えを出せないままのわたしたちを、しかしその道に付き従わせるには十分だった。


 けれども・・・・・・。


 それでもわたしは、結局教授のように強くなかったのかも知れない。

どれだけ敵を退けても、技術的に人類が世界樹に接続するのは“不可能”だと分かっていても、人は止まらなかった。


 ただ無益に散っていく命。

それを見ていくうちに、もう・・・・・・全部失敗だったんじゃないかと思えてきた。

教授の言葉はあまりにも崇高で、しかし人はかくも愚かで・・・・・・。

もう、人は人に戻れない。

飛び方を知らないまま、世界を我が物にしようとしているのだ。


 わたしたちの故郷で、あるマッドサイエンティストの手によって一体の新たな巨人が建造された。

それは完全無欠なプラヌラの容器であるダーウィンを模倣した、人類の希望。

わたしたちにとっては・・・・・・人の愚かさの象徴。


 万人の理想を背負ったそれは・・・・・・人類がついに生み出した“世界樹に接続できる機体”だった。


 わたしたちは人の番人。

世界樹に接続できるものが、ダーウィン以外あってはならない。


 迷いは消えない。

世界はもう・・・・・・取り返しがつかない。

それでも、わたしたちはまだちょっとやれそうだから・・・・・・。


 教授の理想を胸に、今までと変わらず世界樹を守るのだ。

例え、わたしと彼以外の全ての人間を葬り去ることになっても。


 そういえば・・・・・・これは後になって分かる話なのだけど・・・・・・。

例の機体のパイロットは、陽くんだったらしい。

わたしたちの同級生だ。

優等生ってことで有名だった。


 本当に、運命っていうのは分からない。

あるいは・・・・・・もしかしたら陽くんも、自らの正義に従っただけなのかも知れない。

わたしももう、何が正しいのか分からないから。


 悪魔は・・・・・・いったいどっちだろうね・・・・・・?

続きます。

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