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続きです。
あれから数ヶ月・・・・・・。
結局ドラディラの行方は知れないまま、パシフィカの警戒態勢は解除された。
どこかでもう死んでしまったか、そうでなくてももうこの周辺には居ないだろうという判断だろう。
コムギとナエギ、二人も長い休養の末全快した。
数日前から、確かパン屋の営業も初めていたみたいだ。
相変わらずお客さんはあんまりみたいだけど。
でも、ナエギが攫われた晩に護衛をしていたはずの二人の衛兵はちょくちょくお店に通うようになったらしい。
ナエギを守りきれなかったお詫び代わりか、もしくは単純にお店の味が気に入ったのかも知れない。
そういえば・・・・・・あの二人はあの晩、誰かに薬物で眠らされていたらしいけど、それはそれで結構怪しいらしい。
二人に外傷が見られなかったから、ドラディラが毒を盛ったというのは考えづらいということだ。
その件については、色々と情報が足りなくて結局謎のまま終わるかもしれないらしい。
まぁでも。
どちらにせよ、わたしたち・・・・・・それからコムギたちにとって、この一件は“終わった”。
でも・・・・・・実は、今日は新しい始まりでもある。
「本当によかったの・・・・・・?」
訳あってウチを訪ねているナエギに尋ねる。
それにナエギはどこか遠くを見つめながら「ああ」と頷いた。
コムギは、そのナエギの横顔を満足そうに見ている。
今日、この日より・・・・・・コムギは、正式にわたしたちのパーティメンバーになるのだ。
コムギを泊めた晩に、わたしが寝た後ラヴィがこの話を持ちかけていたらしいのだ。
そして今、ナエギがそれを認めた。
「もう、今回のことで散々味わったよ。コムギはとっくに・・・・・・俺が心配する必要もないくらいに成長してたんだって・・・・・・。だったら・・・・・・俺もいいかげん、前を見るしかないだろ。本当はまぁ・・・・・・ずっと前から分かってたはずなんだよ、俺も・・・・・・。結局、折り合いをつける必要があったのは・・・・・・俺だったんだ」
ナエギは息を吐いて肩の力を抜く。
これで・・・・・・ナエギ自身背負い込んでいた何かをようやく下ろせたようだった。
その瞳は曇りなく窓の外の景色を映している。
「ほら、だから言ったでしょ・・・・・・あたしは強いって。お兄ちゃん・・・・・・やっと認めたね」
「参ったよ・・・・・・本当に」
あんなことがあった後なのに、コムギの声は明るい。
けれどももうあの過去が頭の中に無いわけじゃない。
コムギは乗り越えて、自らの糧に変えたのだ。
「はぁ・・・・・・」
仲良さそうな二人を見て、ラヴィはため息を吐く。
そして呆れたような眼差しをナエギに向けた。
「そんなこと言って・・・・・・心配性はまだ治ってないくせに。ナエギ・・・・・・あんたが出した“条件”だよ。忘れたとは言わせないから」
「もちろん・・・・・・忘れてなんかないよ。ちゃんとそのつもりだ。しかし・・・・・・なんだか全部計画通りって感じで癪だけどな」
ラヴィの言葉に、ナエギが苦笑する。
わたしとコムギはなんのことか分からずに首を傾げた。
「「条件・・・・・・って?」」
わたし達の疑問に答えるようにと、ラヴィがナエギに視線で促す。
ナエギは少し困った風な顔で笑うと、後頭部をぽりぽり掻いた。
「えっと・・・・・・コムギがまだ教会で療養してた時のことなんだが・・・・・・この一件が片付いたときにまだコムギが冒険者になりたがってたら、俺はそれを認めるかって聞かれたんだ。それで・・・・・・その時俺はまだ決心がついてなくて、そこで俺からも・・・・・・譲歩のつもりで条件を出したんだ」
少し照れくさそうに俯いて、ため息を吐く。
しかしその後すぐに顔をあげて、そしてわたしたちの方・・・・・・特にコムギの方へ視線を向けた。
「こんな痛い目見た後も、まだ冒険者になりたいって言うようなら・・・・・・コムギの気持ちを認めようと思う。だけどその代わり・・・・・・俺もパーティに入るって」
「え゛、お兄ちゃんが・・・・・・?」
その報告に面食らうのは、コムギ。
ナエギからはそのリアクションも予想通りだったようで、コムギの・・・・・・なんならちょっと嫌そうな表情を見て笑った。
「えっと、じゃあ・・・・・・つまり・・・・・・?」
「そ。私たちは二人の問題を解決して・・・・・・それで新しいメンバーを“二人”ゲット。まさに一石二鳥でしょ」
「えぇ・・・・・・」
ラヴィは「二鳥二鳥〜」と両手でピースして笑う。
両手でピースしちゃったらそれは四鳥だ。
「まぁ・・・・・・そういうわけで、俺も・・・・・・よろしく頼む」
申し訳程度にわたしに頭を下げるナエギ。
それを未だに「えー・・・・・・」という表情で見つめるコムギ。
二人の人生の新たなページが、思わぬ形で捲られる。
そしてわたしたちにとっても・・・・・・。
満を持して、やっと・・・・・・わたしたちのパーティが出来上がる。
ある意味では、これでわたしたち自身もちゃんと冒険者としての一歩を踏み出すのだ。
追放(一応は)されてから、なんだか奇妙な巡り合わせがわたしを取り巻いている。
何かの歯車が回り出して、そして今日、また・・・・・・。
わたしたちの運命は、新たな方向へと流れていくのだろう。
続きます。




