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小さな背中

続きです。

 なんだか、長い夢を見ていたような気がする。

まるで一つの物語のような、現実ばなれした夢。

けど、それが夢じゃなかったのを思い出すのに長い時間はかからなかった。


 体に感じる、一定のリズム。

揺れ。

それから・・・・・・暖かさ。

どれくらい昔だったか、つい昨日のことのようにも思えるお兄ちゃんにおぶわれた時のことを思い出す。


 あの時のあたしはまだ小さくて、少し年上なだけのお兄ちゃんの背中をすごく大きく感じた。


「ん・・・・・・あれ・・・・・・?」


 ぼんやりとしていた意識が浮上する。

曖昧だった思考と感覚がはっきりして、そしてやっと自分が本当におんぶされていることに気づいた。


「お、気づいた・・・・・・?」


 あたしを背負うのは、コーラルの小さな背中。

コーラルはあたしの声を聞いて、ちらりとこちらに視線を注いだ。

体格でいうと・・・・・・微妙にコーラルの方が小さいので、結構キツそうだ。


「あ、えっと・・・・・・ごめ・・・・・・」


 慌ててその背中から降りようと体を動かすと、それにコーラルがよろめく。

当たり前の結果ではあるのだけど、今のあたしにはそれを想像するだけの余力がないようだ。


「ふ・・・・・・くっ・・・・・・!」


 コーラルは必死の形相でなんとか持ち堪え、その後は・・・・・・今度こそ互いの調子を合わせてその背中から降りた。

あたしの足はしっかり自分の体重を支えていて、それでもう体力はだいぶ戻っているのが分かる。


 しかし、そうか・・・・・・。

コーラルたちが助けに来てくれていたのか・・・・・・。

結局、ああいうところで詰めが甘いのは・・・・・・まぁまだまだあたしは未熟ってことなのだろう。


「あ! ・・・・・・っていうかお兄ちゃん! お兄ちゃんは!?」

「大丈夫だよ。ラヴィが応急処置だけどやれることはやっておいてくれたから」

「そっか・・・・・・」


 コーラルたちが歩いているのは、泉からパシフィカへの帰り道。

とすれば案外あれから時間は経ってないことになる。

お兄ちゃんは・・・・・・これまたさっきまでのコーラルと同じように結構無理してる様子のラヴィに背負われていた。

コーラルとあたし以上に体格差があるから、たぶんこうやって歩けている時点ですごいと思う。


「・・・・・・」


 歩きながら、お兄ちゃんの背中を見る。

そこからは貫通した剣が突き出しており、しかしその刃は途中のところで綺麗に切断されていた。


「すごい・・・・・・あれってラヴィがやったの?」

「・・・・・・? あれって・・・・・・?」


 切断された剣についてコーラルに尋ねると、コーラルはなんのことか分からないように首を傾げる。

あたしがお兄ちゃんの背中を指差すと、それでやっとなんのことか分かったようだった。


「ああ、剣ね。違うよ。わたしたちは、森の前で倒れてた二人を見つけただけ。剣の切断なんて・・・・・・それこそ剣聖でもないとできない芸当じゃん。コムギがやったんじゃないの・・・・・・?」

「え、いや・・・・・・あたしじゃ・・・・・・っていうか、森の前!? 中じゃなくて?」

「中って・・・・・・泉のとこ? だって、わたしたちが行っちゃマズかったじゃん」

「それは・・・・・・そう、なんだけど・・・・・・」


 微妙な食い違い・・・・・・。

もしかして、あたしが朦朧としつつも森の外までお兄ちゃんを引っ張ってきたのだろうか・・・・・・?

いや、それにしたっておかしい。

剣の切断は、あたしには無理だ。

ましてやほとんど意識が無い状態でだなんて、ますますあり得ない。


「えっと・・・・・・じゃあ、ドラディラは・・・・・・? 見なかった?」

「え、ドラディラ? だから、わたしたち森に入ってないし・・・・・・死体とかは確認してないよ?」

「森の外には・・・・・・出てこなかった?」

「えっと・・・・・・それは、わたしたちもずっと見てたわけじゃないから分かんないや」


 答えながら「もしかしたら自分が見逃しただけかもしれない」と思ったのか、コーラルはラヴィに視線を送るが、ラヴィも首を横に振った。

つまり、結局のところ・・・・・・ドラディラの生死は不明のままということだ。


 なんだか、思ったより状況がややこしいことに気づく。

あたしが気絶してしまったばっかりに、現在に繋がるまでの過程がまるまる欠如してしまっていた。


 ラヴィが一歩一歩重たそうに踏み出しながら言う。


「まぁ、何か思うところはあるようだけど・・・・・・そういうのは後でいいよ。今は・・・・・・この結果だけを噛み締めて、それでいいと思うよ」


 ラヴィの視線が前へ向く。

その視線の先にあるのは、あたしたちの街パシフィカだ。


「コムギも、ナエギも・・・・・・生きてこの場所に帰って来られた。そうでしょ?」


 ラヴィの眼差しが、あたしに注がれる。

それにあたしは・・・・・・街の方を見て、静かに頷いた。


「うん。あたしたち、帰ってきたんだ・・・・・・」


 長い夢の終わり。

日常への帰り道。

今は眼前に広がるパシフィカの方こそ・・・・・・非現実的な夢のように見えた。

続きます。

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