表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/175

「決闘」

続きです。

 不思議と、心は落ち着いていた。

あるいはもう・・・・・・あたしは“終わり”を自覚しているのかもしれない。

そんな終わり方の一つとして、結末を受け入れようとしているのかもしれない。


 ラヴィとコーラル、二人には悪いことをしてしまった。

全てのきっかけは、あたしがあの日コーラルに話しかけたことかもしれない。

もしもあのとき、あたしが声をかけなければ・・・・・・あたしはきっと今でもあのパン屋でお兄ちゃんと一緒に「今日もお客さん来ないね」って言い合っていたんだ。

今思えば、それはそれでちゃんと幸せだった。

狭くて退屈なあの空間には、沢山の思い出と幸せが詰まっていたのだ。


 右腕は相変わらず動かない。

今はただの重りと同義だ。

パン屋で手折った枝を握る左手も、動かすのには痛みが伴う。

そんな肉体のコンディションとは裏腹に、思考はクリアーで澄み切った視界には森の緑が柔らかく風に揺れていた。


 水の音が聞こえる。

泉が近い。

風に乗って息遣いが耳に届く。

普段なら決して聞こえないはずの微細な音を、あたしの耳は明瞭に拾っていた。


 呼吸の音は二つ。

平常な呼吸音と、不安定で弱々しい呼吸音。

そのどちらがお兄ちゃんの息遣いか、実際の状況を見るまでもなく分かった。


「・・・・・・」


 お兄ちゃんは生きている。

やっとそのことに確信が持てて、ホッと胸を撫で下ろす。

でも・・・・・・。


「やっぱり、生きてるって分かると・・・・・・」


 道中決まっていたはずの覚悟が、一抹の暖かさを残して立ち消える。


「・・・・・・死にたくないな、やっぱ・・・・・・」


 嬉しい。

お兄ちゃんが生きてて、あたしが生きてて・・・・・・そして前途にまだ歩むべき道が続いている。

当たり前だけど当たり前じゃないこと。

そういう“普通”のことが心の底から嬉しいんだ。


 ここで、あたしはきっと一つの物語にピリオドを打つことになる。

だけど・・・・・・今日を最後のページにはしたくないって、やっぱりそう思えた。


 キラキラした水面が見えてくる。

その光の中に佇むドラディラの姿も、その後ろで樹木に磔になっているお兄ちゃん姿も。


「・・・・・・来たか」


 ドラディラはさして意外でもなさそうに笑う。

その嫌らしい笑みをお兄ちゃんに一瞬向けて、こちらに歩み寄る。


 あたしも、歩みを止めることなくドラディラとの距離を縮めた。


 見ててお兄ちゃん、相手は違うけど・・・・・・もう一回、決闘。


 握った枝がプラヌラを纏う。

ドラディラも、その青白い光を見て・・・・・・ポケットから二振りの剣を取り出し構えた。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ