「決闘」
続きです。
不思議と、心は落ち着いていた。
あるいはもう・・・・・・あたしは“終わり”を自覚しているのかもしれない。
そんな終わり方の一つとして、結末を受け入れようとしているのかもしれない。
ラヴィとコーラル、二人には悪いことをしてしまった。
全てのきっかけは、あたしがあの日コーラルに話しかけたことかもしれない。
もしもあのとき、あたしが声をかけなければ・・・・・・あたしはきっと今でもあのパン屋でお兄ちゃんと一緒に「今日もお客さん来ないね」って言い合っていたんだ。
今思えば、それはそれでちゃんと幸せだった。
狭くて退屈なあの空間には、沢山の思い出と幸せが詰まっていたのだ。
右腕は相変わらず動かない。
今はただの重りと同義だ。
パン屋で手折った枝を握る左手も、動かすのには痛みが伴う。
そんな肉体のコンディションとは裏腹に、思考はクリアーで澄み切った視界には森の緑が柔らかく風に揺れていた。
水の音が聞こえる。
泉が近い。
風に乗って息遣いが耳に届く。
普段なら決して聞こえないはずの微細な音を、あたしの耳は明瞭に拾っていた。
呼吸の音は二つ。
平常な呼吸音と、不安定で弱々しい呼吸音。
そのどちらがお兄ちゃんの息遣いか、実際の状況を見るまでもなく分かった。
「・・・・・・」
お兄ちゃんは生きている。
やっとそのことに確信が持てて、ホッと胸を撫で下ろす。
でも・・・・・・。
「やっぱり、生きてるって分かると・・・・・・」
道中決まっていたはずの覚悟が、一抹の暖かさを残して立ち消える。
「・・・・・・死にたくないな、やっぱ・・・・・・」
嬉しい。
お兄ちゃんが生きてて、あたしが生きてて・・・・・・そして前途にまだ歩むべき道が続いている。
当たり前だけど当たり前じゃないこと。
そういう“普通”のことが心の底から嬉しいんだ。
ここで、あたしはきっと一つの物語にピリオドを打つことになる。
だけど・・・・・・今日を最後のページにはしたくないって、やっぱりそう思えた。
キラキラした水面が見えてくる。
その光の中に佇むドラディラの姿も、その後ろで樹木に磔になっているお兄ちゃん姿も。
「・・・・・・来たか」
ドラディラはさして意外でもなさそうに笑う。
その嫌らしい笑みをお兄ちゃんに一瞬向けて、こちらに歩み寄る。
あたしも、歩みを止めることなくドラディラとの距離を縮めた。
見ててお兄ちゃん、相手は違うけど・・・・・・もう一回、決闘。
握った枝がプラヌラを纏う。
ドラディラも、その青白い光を見て・・・・・・ポケットから二振りの剣を取り出し構えた。
続きます。




