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後悔と迷い

続きです。

 ナエギのパン屋。

コーラルがコムギの見舞いに行っている間に、私はナエギといくつかの言葉を交わしていた。


「・・・・・・つまり、二人組の男に襲撃されたわけだね?」

「ああ・・・・・・ドラディラとカニバル、他の街では名の知れた悪党らしい・・・・・・。今ではもうギルドで指名手配されてるだろう・・・・・・」

「なるほどね・・・・・・」


 各地のギルドは魔物についての情報は共有しているが、犯罪者の情報は特別共有されてはいない。

それは結局のところギルドはその根が学術組織だからなのだろうが、どうせそれだけ巨大な網があるなら犯罪者のことも扱ってほしいものだ。

であればこの事件も起きていなかっただろう。


 が、それもたらればの話。

結局こうしてことが起きてしまったのだから今更言っても仕方ないだろう。


「二人のうち・・・・・・カニバルは俺が殺した・・・・・・。たぶん、だけど・・・・・・。なんかもう、今は色々ごちゃごちゃになって・・・・・・気分悪いわ・・・・・・」


 ナエギは頭を抱えてため息をつく。

その悩みの大部分は、やっぱりコムギのことだろう。

命だけは助かったが、それを不幸中の幸いと割り切れるほど人間は冷淡じゃない。


 まだ気持ちの整理のついていないナエギに代わって、思考を巡らせる。

コムギについては、もう“起きてしまった”。

そうなれば、次に危ないのはナエギだと思うのだ。


 この街でもその所業が知れ渡ったドラディラは、本来ならこのまま逃げ出してしまうのがベストだろう。

だが、ドラディラはナエギに相棒を殺害されている。

そして・・・・・・やっぱり人は、それを簡単には割り切れないと思う。


 ある意味では魔物より厄介な手合いだ。

ナエギから話を聞く前は、コムギが勝手に冒険者になってその先で重傷を負った可能性も考えていたが、その考えはもはやこの事態を前に“楽観的だった”と言うほかない。


 ナエギは尚も苦悩と後悔に囚われて、自分の落とした影を見つめる。


「はぁ・・・・・・俺が、俺がちゃんとあの時コムギの実力を認めてやれてたら・・・・・・きっとこんなことにはならなかったのに・・・・・・。あいつはいつも通りここに居て、あんな奴らに会うこともなかっただろうに・・・・・・」


 ナエギは自分を責め続ける。

その精神的な自傷を止めたい気持ちはあれど、慰めの言葉は思いつかない。

コーラルほど単純だったらいくらでも元気づけられただろうに。


 もう起きてしまったこと、今更悔いても仕方がない。

そもそも決闘の末ナエギが首を横に振ったことが分岐点たり得たかなんて定かではないのだ。

だからそう自分を責めるな・・・・・・と、そう理屈を組み立てることはできるが、それをナエギに言うのはあまりにも酷だ。


「こんなことばっかりだ・・・・・・。いつもああしておけばよかった、こうしておけばよかった・・・・・・そんなことばかり・・・・・・。そうならないようにコムギは絶対に冒険者なんかやらせないって決めてたのに・・・・・・その結果がこのザマだ・・・・・・」

「・・・・・・いつだって、完璧な選択肢なんて無いよ。ナエギは・・・・・・きっとよくやってきた方だ」


 世の中には、全てを運命のせいにして他人を恨むことばかりする人も居る。

あるかどうかも分からない運命のせいにすることでしか自分を守れない人が居るのだ。


 しかしナエギはそうじゃない。

これが運命だとしても、目に見えないそれに翻弄されるしかないとしても、力の限り抗い違う未来に辿り着こうとしている。

まあ、結果的にそれはコムギの束縛という形で表れてしまったが・・・・・・。


 コムギの方はどうなっているか分からないが、ナエギは・・・・・・きっとコムギ次第で立ち直れるだろう。

だから、これからするのは・・・・・・その次の話だ。


「ねぇ、ナエギ? こんな時に何言ってるんだって思うかもしれないけど・・・・・・」


「この件が片付いた後、まだコムギにその意思があったら・・・・・・私たちのパーティにコムギを誘うつもりだって言ったら、ナエギはどうする・・・・・・?」


 ナエギが私の言葉にその目を見開く。

瞬間的に、さまざまな記憶や感情がナエギの脳裏を駆け抜けて行ったのがその表情から見てとれた。


 数秒の沈黙の後、ナエギはゆっくりとその口を開く。


「俺は・・・・・・」


 語るナエギの瞳には、ある種の決意が満ちていた。

続きます。

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