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転機・・・・・・なるか?

続きです。

 窓から日の光が差し込む。

気がつけばわたしは、ぐしゃぐしゃになった布団の上で寝ていた。

隣ではラヴィもやや暑苦しそうに寝ている。

こんなにしっかり太陽が昇る時間になってもまだ寝ているのは、ラヴィにしては珍しい。

それもこれも、昨晩眠りにつくのが遅かったからだろう。


 昨日の夜は、ラヴィの部屋でお互い離れていた間どんなことがあったかの話をしていたのだ。

そして今日からのことについても。

そうやって色々と話していたら、わたしもラヴィも寝てしまったんだと思う・・・・・・たぶん。


「ラヴィ・・・・・・起きてぇ・・・・・・」


 さっそく今日はすることがあるので、いつまでもこうはしていられない。

わたし自身あくびをしながら、まだ布団を巻き込んで丸まっているラヴィの肩を揺すった。


「うぅ・・・・・・」


 返ってくるのは呻き声・・・・・・と、それから寝返り。

一瞬起きたかとも思ったが、そのまま止まってしまった。


「もう・・・・・・ラヴィが悪いんだからね・・・・・・」


 ラヴィがわたしより長く眠っていることは滅多に無い。

すなわちこれはある種のチャンスとも言えるのだ。


 イタズラ心に火がついて、ただでさえ暑そうにしているラヴィに身を寄せる。

そして無防備なラヴィのその服の中にするりと腕を忍び込ませた。

暑そうにしているだけあって、その肌はややじっとりとしている。

わたしも人のことを言えた口じゃないけど。


 そうしてそのまま脇に手を這わせようとして、自分の場合はそんなに脇はくすぐったくなかったのを思い出してやっぱりお腹の横あたりをスーッと指でなぞることにした。


 脂肪と筋肉が作り出す微妙な起伏を触れるか触れないかくらいの絶妙なタッチでなぞる。

眠っているラヴィの反応は薄いが、うっすらと鳥肌が立つのを指先に感じておそらく効いているであろうことは分かった。


 ところが、意識が無いだけにラヴィは突然無造作に動く。

わたしは触った辺りをぽりぽりと掻き、そしてその虫の這うような感覚から逃げるように寝返りを・・・・・・。


「あ、ちょっ・・・・・・」


 もちろんわたしの制止の声はラヴィの耳には届かない。

いや、耳には入っただろうけど、脳に届かない。

つまるところ・・・・・・。


「んなっ、っっっつ・・・・・・!!」


 わたしの忍ばせた腕はラヴィの寝返りに巻き込まれる形で・・・・・・なんか、どうにかなった・・・・・・。

具体的にどういう状態かと問われると自分でもよく分からないけど、筋肉の筋というか、あるいは神経か、そういったものがこう、ピキッてなる感じの痛みが少なくともわたしの腕が“どうにかなってはいる”というのを告げていた。


 別にラヴィの下敷きになっているわけでもないので早急にその腕を引き抜こうとするが、このピリッとした痛みが腕を素早く動かすのを許さない。

結果的に、腕の関節は動かさずに肩を使ってそろりそろりと腕を抜いていく。

そして、この騒動でラヴィはやっと目を覚ましたようだった。


「ん? あれ・・・・・・コーラル、どうかした?」

「な、なんでも・・・・・・ない」


 やっぱり、そう悪いことはできないものだ。

頬を掻くのに腕を曲げると、一瞬強く痛んだのを最後にもうほとんど痛みは消えた。


※ ※ ※


「さてと、じゃあコーラル・・・・・・今日の予定は分かってるね?」

「うん、いちおーね。どんな感じかはちょっと想像つかないけどね・・・・・・」

「それは・・・・・・まぁ、私も・・・・・・」


 あの後一緒にシャワーを浴びて、今は遅めの朝食。

プルームの作るような手の込んだ料理じゃないけど、これはこれでやっぱり安心感ある。

わたしもちょっと手伝ったし、その補正もあって満足感の高い朝食だ。


 そして何より、もうわたしたちは今までのわたしたちじゃないのだ。

以前だったらあり得なかった話・・・・・・。

変異体討伐の功績はそんなに広くないパシフィカに瞬く間に広がった。

わたしたちがまだパーティたり得る人数に達していないということを含めて。


 つまり、何が起きたかというと・・・・・・。

わたしたちとパーティを組みたいという人たちが結構沢山出てきたそうなのだ。

そういう声が大きくなるのを感じ取ったギルドが、わたしたちの現状も鑑みてそういう志願者たちの面接を開くことになった。

その面接官は、もちろんわたしたち。

こう、わたしたちが選別する側だからそんなに緊張することでもないはずなんだけど・・・・・・。


「うぅ・・・・・・」


 フォークで刺そうとしたミニトマトが弾きだされるように皿の上を転がる。

ラヴィもわたしも、こういう経験は初めてで・・・・・・とにかく緊張していた。


「ねぇ、ラヴィ・・・・・・面接するってことは、たぶんなんか質問とかした方がいいんだよね?」

「ん、まぁ・・・・・・たぶん? まぁそんなお堅いやつでもないっていうか、私たちじゃそうなりようがないだろうし・・・・・・普通に聞きたいこと聞けばいいだけ、のはず・・・・・・」

「な、何聞いたらいんだろ・・・・・・」


 もちろん、ワガママを言おうと思ったらそれはいくらでも出てくるだろうけど、現実的に考えるとなるとどういうことを確認した方がいいのか分からなくなる。

そもそもこの状況自体がわたしたちにとって現実的じゃなさすぎるのだ。


「っていうか、ほんとにわたしたちで大丈夫なのかな・・・・・・」


 変異体を討伐したというその看板に嘘は無い。

しかしじゃあその看板に相応しい中身かと言うと・・・・・・いささか疑問が残る。


 結局のところ、こっちも試される側なのか・・・・・・。

ならば道理でこうも緊張するわけだ。

この面接がわたしたちの転機になってくれるかどうかは、わたしたち次第でもある。


「ま、今はやたら考えたって仕方ないよ。たぶんギルドの人も立ち会ってくれるだろうし、進行?とかはそっちに任せちゃってもいいんじゃない?」

「そう・・・・・・ならいんだけどねぇ・・・・・・」


 未だ逃げ回り続けていたトマトを、そこでやっと仕留める。

しかし今度は力を入れすぎたみたいで、潰れて中身のゼリー状の果肉が飛び出してしまった。


「あー・・・・・・」


 潰れたトマトを仕方なくフォークで掬うようにして口に運ぶ。

最初から破けている分、少し酸味を強く感じた。


 まだ色々と、考えはまとまらない。

もともとわたしの頭はこういうことを考えるように出来てない。

とにかく、なんであれギルドに向かうしかない。


 一足先に食べ終えたラヴィが、急かすでもなくこっちをじっと見てくる。

わたしはその視線に気付きつつも、変わらぬペースで食事を続けた。


「コーラル、野菜食べるようになったね」


 ラヴィが食べるわたしを見てくすりと笑う。

わたしはそれがちょっと恥ずかしくて「んー、まーね」と唇を尖らせて答えた。

続きます。

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