忍び寄る暗雲
続きです。
太平の都、パシフィカ。
良い子は眠りにつき、悪い子も酒場で酔い潰れる夜。
いつものように平和な夜に、不穏な影が忍び寄っていた。
「アニキ、ここが・・・・・・」
「ああ、ここがパシフィカだ。噂通りの平和ボケした街。流石に門は閉まっちゃいるが、塀も低いし古い。侵入すんのも容易いだろう」
「流石アニキ! 勉強になりやす! じゃあオイラが一足先に忍び込んで様子を見てきやすね!」
「おいおい、そう急くな。俺たちの狙いを忘れたわけじゃないだろ? いいか、俺たちの狙いは二つ。最近ここらで発見されたっていうキノコと、それから・・・・・・ある男だ。たったのそれだけさ、ことを急ぐ必要はない」
「わ、わかりやした!」
パシフィカ付近の茂みで言葉を交わす二人。
片方は夜闇に姿を溶け込ませるような、まるで暗殺者然とした男。
それに付き従うのはまだ未熟さを残したやや肥満気味の男だった。
“アニキ”と呼ばれた方の男は、爬虫類然とした瞳を細めて街明かりすらまばらなパシフィカを睨む。
「待ってろよ、パシフィカ。俺たちの手にかかればこんな街なんざ・・・・・・余裕よ。ばっちり稼がせてもらうぜ」
「流石アニキィ! なぁアニキ、この街にゃ・・・・・・いいオンナは居るかな?」
「はぁ・・・・・・お前はまたそれかよ・・・・・・。あんまり騒ぎは起こしたくねぇからな、攫うにしても一人だけだぞ?」
肥満気味の男はその言葉に瞳を輝かせる。
パシフィカの街明かりに手を伸ばして、ご馳走を前にした時のような笑みを浮かべた。
歪んだその口端からは一筋の唾液が伝う。
「へへ・・・・・・久しぶりに、オンナの肉が食える・・・・・・」
「ほんとにお前・・・・・・・・・・・・ほどほどにしとけよ・・・・・・」
「大丈夫! もちろんアニキにも分けてあげるさ!」
「そういうことじゃなくてだな・・・・・・はぁ・・・・・・」
何か嫌な思い出があるのか、男は気持ち悪そうに舌を出して痰を地面に吐いた。
空に昇る月だけが、その全てを見届ける。
これからこの街で何が起こるのか・・・・・・それはまだ誰も知らない。
そしてきっと、最後まで誰にも気づかれることなく全ては終わってしまうだろう。
日が昇れば、二人は我が物顔でパシフィカに入り込む。
ただ一つの家族のみが、計画の渦中に飲み込まれていた。
続きます。




