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最終話

「俺達ここに残るから心配しなくていいよ」

 その言葉を十分に理解してからジェラールを振り返った。理解するのに大分時間がかかったがその間、誰も口を開かなかった。

「え?」

「日本で暮らすのは止めようと思うんだ。あかりと俺が一番幸せになれるのはどちらかと考えたんだよ。あかりはどう思う?」

 優しい声で私に問い掛ける。決してそれが決定事項ではなく、これから二人が話し合うための一つの意見に過ぎないというように。

 これまで口を開かなかったのは、ジェラールなりに幸せになる選択肢を探してくれていたからなのだ。

「うん。それがいいと思う。ジェラはこの世界ででももう幸せになれるよね?」

「大丈夫だよ。もう何かから逃げなきゃならないものも、隠れなきゃならないものもない。ここで、一緒に大きな家族を作ろう?」

「うん。うん、そうしよう」

「年に一度、日本へ渡ってお墓参りに行こう。兄ちゃんとも色々相談したんだ。兄ちゃんもここに残るつもりだって。あかりが了承してくれるなら、式は兄ちゃんたちと合同で挙げないかって言ってくれてるよ」

 知らなかった。ジェラールは兄ちゃんとも話し合いを進めていたんだ。私たちのために。

「今言ったこと、全部賛成だよっ。私に異論なんてないよっ」

 エロイがそこにいることも忘れて、私はジェラールに抱き付いた。

「本当に残酷だな、お前は……」

 という呟きは私の耳には入らなかった。


――五年後

「待って、ジェイ。お外は暑いんだから帽子を被らなきゃダメなのよ」

「ぼうし、いやない。あつくなあからだいじぶ」(帽子いらない。暑くないから大丈夫)

「ダメダメ。日差し舐めると倒れちゃうんだから。ジェイは倒れてお薬や注射をされてもいいの?」

「くちゅり、ヤッ。ちゅちゃ、ヤッ」(薬、イヤっ。注射、イヤっ)

「じゃあ、かぶっていくわね?」

 結局大人しく帽子を被らされた幼い長男、ジェイドににっこりと微笑むと、拗ねていた口がゆっくりと笑顔に変わった。

 外が大好きで、きかんぼうのジェイドはもうすぐ二歳半になる。ジェラールが三歳だった頃を思い出すと、いかにジェラールが聞き分けのいい子だったかを思い知らされる。

 子育ては甘くないと日々思うのだが、それでも笑顔や寝顔を見ればその苦労もすぐに飛んでいってしまう。

「あかりを困らせたらダメだよ、ジェイ」

「こまらしぇてないっ」(困らせてないっ)

 ジェラールが背後から私を抱き締め、ジェイドを嗜める。

「ジェイは遊んでおいで。あかりは俺と遊ぼう?」

「ダメッ。あぁりはぼくとあしょぶんだっ。じぇあははなえて」(ダメっ。あかりは僕と遊ぶんだっ。ジェラは離れて)

 よく繰り広げられる光景である。ジェラールがわざと私に抱き付いて仲が良いところをアピールし、ジェイドがそれにヤキモチを焼く。

「もう、ジェラ。ジェイをいじめないで」

「だってあかりは俺のだよ? ジェイにだって渡さない」

 本気で言っていることに呆れるしかない。

「私は物じゃないよ?」

 子供のように拗ねるジェラールに向き直り、小さなキスをした。

「でも、まあ、私はジェラのだよね。ジェラも私のでしょう?」

「もちろん」

「いちゃいちゃ」

 再び口付けようと顔を寄せた時、下方からそんな言葉が耳に飛び込んできた。

「ジェイっ。誰にそんな言葉教わったのっ」

 ジェイドは、キャーと奇声をあげて走っていってしまった。

 おそらく兄ちゃんかエロイが余計なことを教えたんだろう。

「あとでとっちめてやる」

「あかり。続きしよう?」

 こんなだけれど、普段はジェイドの面倒もよく見てくれるいいパパなのだ。あまりに私がジェイドとべったりしていると、邪魔に入るけど。

「ジェラ、仕事は?」

 間近に迫ったジェラールの瞳を覗き込みながら問い掛けた。

「急いで片してきたんだ。あかりにすぐに会いたかったから」

 言ってすぐに唇を合わせた。ジェイドには決して見せられない、深く甘いキスだった。

「私も会いたかったよ」

「じゃあ、今日はあかりを独り占めしてもいい?」

「うん。兄ちゃんとエロイがジェイを見てくれるから」

 ジェイドが産まれてからなかなか二人きりになる機会がなかった。ジェイドが寝た後少しだけ与えられる二人だけの時間。それだけでも十分幸せだけど、日中に一緒にいられることはそうないので嬉しいことだ。

 胸が少女のように高鳴った。ジェラールといると、いつでも恋をしていられた。きっと命が尽きるまでそれが止まることはないのだろう。

 止まることのない恋、溢れる愛を私は今日もジェラールと分かち合っていく。



「……りゃぶりゃぶ」(ラブラブ)

「あの二人はお前が産まれる前からああだよ。見なかったことにしてやりな?」

 木陰から兄ちゃんとジェイドがあの甘やかなキスを覗いていたことに、私が気付くはずもなかった。






〜〜〜END〜〜〜


ここまで読んで頂いて、有難うございます。

どうにかこうにか最終話まで持ち込むことが出来まして、ホッとしているところです。

次回作の話になりますが、この作品を書き終えた後、大体15話くらいまで書き進めていたのですが、どうしても内容が気に入らず全て削除してしまいました。新しく全く別の内容で書き始めてはいるのですが、まだ投稿できるほどにはなっていないのです。ですから、次回作は1週間~2週間ほど休ませて頂いた後に投稿したいと思います。イヤ、もうここで決めてしまいますね。10月17日から開始したいと思います。

次回作は『無邪気な恋心』。

ファンタジー要素を織り込んだ恋愛小説です。

では、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。また、次回作でお会いできれば幸いです。

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